20.わかれ道 上

「ベリィいますかー?」


 と玄関へ来て、ことことと戸を叩く音がするから、本を読む手を止めて外に出ようと上着を羽織っていると、


「まぞくの公爵令嬢、サーナ・キャンベルちゃんだぞ!」


 と元気よく言ったので


「相変わらず元気だね」


 と笑って返し、


「今開ける」


 と言いながら戸を開いた。


 ミディアムほどのストレートな黒髪に、黒曜石のような黒い瞳と整った顔立ちの少女、サーナが立っている。


 今日は誰にも会う予定が無かったから、ちょっと寝癖あるけど、まあいっか。


「元気元気~! ベリィは寝不足かな?」


「うん、ずっと小説を読んでいたんだ」


「ベリィってほんと読書好きだよね~。アタシも見習わなきゃ……」


「別に、好きで読んでるだけだから。それで、どうしたの?」


「ショッピング!」


「ショッピング?」


 お買い物行きたいけど、髪を整えるのは面倒くさいし、何よりツノを出したままだとな……


「ベリィって、普段お城にあるお洋服しか着てないでしょ。何か買いにいこう!」


「私はいいよ。でもサーナのお買い物に付き合いたいから行く」


「よし、流れでベリィのも買っちゃおう作戦。そうと決まれば、先ずベリィの髪ちゃん整えなくちゃね!」


 このままで良いと言ったら、無理やりサーナに家の中へと押し込まれた。

 私の家なんだよな。


 サーナに髪を整えてもらったけれど、どのみちフードを被ってツノを隠すから、意味ないんじゃないかな。


「あ、これ可愛い! これも!」


 サーナはお洒落だから、服を選ぶのが上手いな。

 私は服に無頓着だったけれど、サーナのおかげで少しはわかるようになったかもしれない。


「私、可愛いのがいい」


「ベリィは可愛いの好きだもんね!」


 そうしてサーナに選んでもらった、私の新しいお洋服。

 落ち着いた色だけれど、とっても可愛くて素敵だ。


 服を買った後は、


「お菓子買って広場で食べちゃうっていうアウトローしようぜ」


 とか言ってきたので、飴を買って広場に行き、雪で濡れていないベンチを選んで座った。


「アウトローってなに?」


「ワルってこと。ほら、アタシには爵位があるしベリィも王族だけど、こうやってちょっとらしくない事すると、ワルって感じじゃない?」


「確かに、こんなところウールに見られたら嫌われちゃうかな?」


「ウールさんは優しいから大丈夫だよ~!」


 サーナは笑っている。


 だって、確かにウールは優しいけれど、不良っぽい私の姿はあんまり見られたくないかもしれない。


「ベリィってほんとウールさんのこと好きだよね。ちっちゃい頃はウールと結婚する~とか———」


「それは言っちゃダメ! あ、あの時はあんまり考えてなかったから……子供の頃って、年上にちょっと憧れるじゃん。今はウールのことそんなふうに思ってないし……」


「ほんとかな~? 顔真っ赤なんだけど」


「恥ずかしい事言われたんだから、真っ赤にもなるよ!」


 サーナといると話が尽きなくて、ずっと話していたらもう夕方になっていた。


 そろそろ帰らなきゃ、お父様も心配する。


 アルブの夕焼けは綺麗だね。


 サーナとはもう何度もそれを話したけれど、ふとした時に言ってしまう。


「アルブの夕焼けは綺麗だね」


「綺麗だよね~。アタシ、この国の空が大好きなんだ。でも、いつか帝国とか他国との関係が良くなって、他の国にもいっぱい行けるようになったら、いろんな空を見てみたいな!」


 それは私も思う。


 だけど、色んな国に行っているお父様は、アルブの空が一番綺麗だって言ってたな。


 それから少しの間、二人で空を眺めながらいつもの道を歩いた。


 雪を踏むたびにキュッキュッと鳴る足元を見て、変わらない日常に少しだけ安心した。


「私、サーナとこの道を歩いている時が一番好き」


「奇遇だね、実はアタシも!」


 だって、ここでは難しいことは何も考えずに、サーナと二人だけでのんびり話せるんだから。


 きっといつか、私達が大人になっても、この道をこうして歩けたらいいね。

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