自分らしく

奈那美(=^x^=)猫部

第1話

 放課後。

私は図書室に行って、昼休みに倫子みちこたちが返しに行ったはずの本を探した。

タイトルをちらっと見ただけで正式な題名は覚えてないし。

それでも『倫子が見つけた』って言ってたから、古い本ではないはず。

そう思って、私は新刊コーナーと札が下げてある書棚に向かった。

 

 結構たくさんの本が並んでいる。

十冊ほどの本は、表紙をこちら側に向けて立てて置かれていた。

その本の前には司書さんか図書委員が書いたであろう紹介文が置いてある。

(乱歩賞……直木賞……本屋大賞……図書委員オススメ……)

でも、どの本も探しているタイトルとは違っていた。

 

 「新刊じゃなかったのかな?結構新しそうだったけど……」

そうつぶやきながら隣の書棚の前に移動した。

こちらの棚は全部背表紙を向けて置いてある。

左上から順に見ていく。

(年鑑……哲学……そういえば、図書室の本って並べ方に決まりがあるって習ったような気がするけど。あ!)

探していたタイトルが目にとまり、私は本を書棚から取り出した。

 

 (このまま借りてもいいけど……少しだけ読んでからにしようかな)

そう。

読まないわけではないけれど、私はあまり読書が得意ではない。

もしも読みにくい文章だったら、きっと借りても読まないまま返してしまうだろう。

本を持って閲覧用の机に向かう。

滅多に来ない図書室だけど、いつもこんなに人がいないのかな?

 

 椅子に腰かけてページをめくっていく。

文章自体は読みやすいし、自身の状況(っていうの?)も淡々と語られている……みたいだ。

「これだったら、私でも読めそう……かな。借りて帰ろう」

司書さんは女性だし、年齢もウチのママよりも上っぽいから、こういう本を借りてもヘンな目でみたりしないよね?

というか、この本買うって決めたの司書さんだろうし。

 

 本を持ってカウンターに向かった私は、そこに座っているはずがない人の姿を見て一瞬固まってしまった。

(なんで、遠藤君が?)

そのまま引き返そうと思っていたら、遠藤君が私に気づいて声をかけてきた。

「あ、安藤さん。その本借りるの?いいよ、僕でも貸出し手続きできるし」


 「あ……うん。お願い」

本をカウンターに置くと、遠藤君はテキパキと手続きをしてくれた。

ずいぶん手馴れているわ。

「はい、どうぞ。貸出し期間は一週間になります」

「……ありがとう。ねえ、遠藤君って図書委員だったの?」

私は頭に浮かんだ疑問を口にした。

たしか遠藤君は保健委員だったと思うけど。

 

 「あ……ちょっとね。本、読んでたら司書さんに頼まれちゃったんだ。用事を済ませてくる間、カウンターで留守番しててって」

そういえば遠藤君って、頼まれたら断れない性格だったわ。

森口先生から片づけ頼まれたときも引き受けてたし……私も巻き込まれちゃったんだけど。

「留守番って……そんなにしょっちゅう頼まれてるの?」

私はさっきの手際の良さを思い出して聞いてみた。

 

 おせっかいだとは思ったけれど、本来だったら当番の図書委員がいて、その人がするべきことだと思ったから。

「そんなにしょっちゅうじゃないよ」

苦笑しながら遠藤君が答えてくれる。

「図書委員が部活の大会前で忙しいときとか……それに貸出ってバーコード読み取るだけだから簡単なんだ」

そう言いながらバーコードリーダーを手に持って見せてくれた。

「ふうん……そっか。じゃあ、ね。本、ありがとう」

私は本をカバンに入れて、カバンを持たない方の手をひらひらと振った。

 

 本は(なんのかんのと一気読みしちゃった)……私の悩みを払拭してくれるようなもの、ではなかった。

でも、少しだけ気分が軽くなった気がした。

著者さんはもちろん、そのパートナーさんだったり、その他の出会った様々な人たちがを大切にしているのが感じられたから。

私も私らしく……ってって、どういうことなんだろう?

有紀が好きなことを隠している……私。

正論をかざして、場を白けさせる……私。

 

 机に置いたスマホを見る。

きっと……遠藤君だったら『いいんじゃない?そういうとこ、全部まとめて安藤さんだよ』って言うだろうな。

そういえば誰かを馬鹿にしたり否定的な意見言っているとこ、遠藤君だけは見たことないかも……それが遠藤君らしいってとこなのかな?

──その逆は見かけるけれど。

 

 もう一度本を手に取る。

有紀と佳織は彼氏と帰ることが多くなるだろうし……たまには図書室に寄って帰るのもいいかもしれない──この本を返す時に、司書さんに他のお薦め本がないか聞いてみよう。




 

 

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