ヤングマンの揚げパン

 ムスコは揚げパンが好きだ。


 毎日買って小腹がすいたら食べているようだ。それも、高校の購買に売っている揚げパンである。

 彼の通う高校でしか売っていないので激レアである。

 そして私はムスコと同じ高校出身なので、懐かしくていつも食べてみたいと思っていた。

 ちなみに私が通っていた頃は生徒の人数が1.5倍だったので、『ウドン部屋』という食堂まであった。懐かしい。




(チャンス…!)


 今朝起きたら机の上に揚げパンが置いてあった。それもカバンの中でぺちゃんこになって1センチ程の厚みしかなく、袋がべたべたで汚らしいものだ。ゴミ箱に捨ててあってもおかしくないレベル。


(これはいらん、ってことやな。食べょ)


 寝起きの私はぼんやりした頭で懐かしの揚げパンを食べた。油多めの薄い揚げパンが懐かしかった。



 そのあとムスコが起きてきた。


「ここにあった揚げパン知らん?」


 とっさに嘘を付こうと考えた私。


1「お父さんが食べたんちゃう?」

2「お姉ちゃんが食べたんちゃう?」

3「メキシコ(うちの飼い猫)が食べたで」


 さあ、どれにする…?3が濃厚。


「ごめん、ぺちゃんこやったでいらんと思ってさっき食べた」


 私は正直に白状した。ニュートンしかり、金の斧銀の斧でも正直者は救われる。はずだ。


「えーーーーー!マジ最悪やん!!俺朝食べようと思っとったのに!!!」


 ご立腹である。朝から雷が落ちた。


「ごめん、サンドイッチ作ったるで」


「……(怒)」




「ごめんよ。ぺちゃんこやったでさぁ…」


 ハムとレタスときゅうりのサンドイッチを作って麦茶と共にそっと彼の前に置いた。祟られぬようお供え。


「俺はぺちゃんこにして食べるんが好きなんや…もうええわ」


(まじか…!)


 実は私も揚げパンをぺちゃんこにして食べるのが好きだ。遺伝を感じる。

 ちなみにバームクーヘンもぺちゃんこにする派だ。


「えー、お母さんと一緒やん!バームクーヘンも小さくする?」


「……(無視)」



 朝からムスコの怒りに触れたが、思いがけず親子の共通点が見つかった今朝だった。

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