第26話

 俺は正気かという目で彼女の瞳を見つめた。明らかにおかしい発言を俺の耳が捉えたからだ。


 残念ながら俺は耳が悪くない。鈍感系主人公でもない。

 だから普通に聞こえてしまった。彼女の爆弾発言が。


 彼女の全身を観察してみると一際目立つ黒光り。

 スレンダーという言葉以外何が似合うのかと思うくらいに細くて綺麗な足を包む、黒いタイツ。


 健全な男子なら誰もが触れたいと考えるだろう。もちろん俺も健全男子の1人であるので触りたくないと言えば嘘になる。


 ……が、変態扱いされるくらいならば触れない方を選ぶ。それくらいは弁えているつもりである。


「なに固まってるのさ?早く」


「……いやいや、正気ですか?」


「正気って?」


 なんで分からないんだ。


 多分彼女は俺が同じ人に100回も告白して全て振られて可哀想だから慰めてくれようとしてるんだと思う。


 でも俺がいつ求めたか?


 否、求めていない。俺は別に慰めてほしいなんて1ミリも思っていないんだ。


「いいですよ。別に俺はあなたに興味なんてないので」


「は?今なんて言ったの?」


 や、やばいちょっと強く言いすぎたかもしれない。

 流石にちょっとイラッとしてしまったとはいえ、彼女は良かれと思ってやってくれているのに。


「ごめん、間違いました」


「間違ったって……そんなわけないでしょ。まさか藍木に興味無いと言われるとは予想外だわ」


 やっぱり聞こえてたよな。聞こえていないわけが無い。まだクラスに誰もいなかったのが救いだ。


 もしクラスメイトが揃っていたら、美少女であるテイラーさんを陰キャが馬鹿にしたことになってしまう。


 挙句の果てにクラス中から非難を浴びて、俺の平穏な学校生活に終止符が打たれてしまう。


「ごめん……」


「いや、だからごめんじゃないって。……それにしてもそーか。藍木にとって私は魅力的に映らないんだ」


「いや、そういう訳じゃなくてですね」


 魅力的に映っていない訳では無い。だって男だからな俺は。

 テイラーさんは凄く可愛い。


 でも俺は今まで青水さんにしか恋をした事がなく、他の女性に対して可愛いなという感情は芽生えたとしても告白したいという気持ちはわかなかった。


 つまり、そういうことだ。


「なるほどね。なんとなく藍木の考えていることがわかった気がするよ」


「……」


「でも気に入らない。だからあなたを私に惚れさせる」


「はい?!」


 突然何を口走っているんだこの人は?なんであの話からこんな展開になるんだ。


「100回以上告白させてやるから見てなさいよ」

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