第25話

 放課後と言えば青春時代を謳歌するためには必要不可欠な時間だと俺は思っている。なぜそう思うのかと聞かれれば答えは簡単だ。


 友人たちと共に部活動に励んだり、家に帰る前に一緒にどこかに遊びに行ったり、はたまた教室に残って恋人と二人っきりの時間を過ごしたり。

 

 その時間を謳歌することが出来ればこの上ない青春時代の思い出として胸に深く刻まれることになるだろう。


 まあ、の話なんだが。


 「藍木なら分かってくれると思ってた。じゃあこれからよろしく」


 と言いながらテイラーさんは腕を差し出してくる。


 これはそういうことだよな?


 俺なんかがテイラーさんの手を握ってなんかいいのか?俺は生まれながらの陰キャにして、女子が苦手なのだ。

 苦手ではあるけど、恋はその苦手な気持ちを上回るくらいに強いらしいけど。


「よろしくお願いします」


 握ってしまった。ついに美少女の手を握ってしまった。握るとはいっても握手ではあるのだが、この際形なんでどうでもいい。

 女子の手に触れたこと自体に意味があるんだからな。


 今日この手は洗えないな。大事に使用っと…よく考えてみたら、思考が気持ち悪すぎる。


「なんでそんなびくびくしてんのさ。もっと自分に自信もてよ」


「自信ですか…」


 生憎さま自信という自信は皆失われてしまっている。

 なぜかって?


 百回も振られているからさ。それも毎回にように尾ひれがついて。










 教室に戻るともちろん誰もいなかった。

 俺たちが屋上にいっている間に皆帰るか、部活に行ってしまったようだ。


 俺も帰ろう…なんだか疲れた。こうも疲れたのは青水さんに対して百回目の告白をした時以来かな。

 なんか、精神的にどっと疲れた感じがする。


 久遠さんも一人で帰ったんだな。…それか部活動見学に無理やり連れていかれたのか。

 久遠さんは運動神経良さそうだし、部活に入るのは良いことだろう。家に帰っても陰キャの俺か、おせっかいな姉さんしかいないのだから。


「そういや藍木って彼女とかいんの?」


 まさか再び話しかけてくるとは思わなかった。というかもう帰っていると思っていた。

 一回彼女は教室に帰ってくるとすぐさま出て行ったから。


「え、帰ったんじゃ?」


「帰ろうとしたんだけど、藍木のことが気になって帰ってきた」


 といいながら自分の席に腰を下ろすテイラーさん。


 その気になって、の意は俺が一人になることに対しての心配なんだろうけど、気にしなくていいのに。

 一人は馬鹿という程慣れているさ。


「そうですか…大丈夫ですよ。慣れてますので」


「慣れてるって告白か?」


「こ、こ、こ、告白って…一体何を言っているんですか?」


 突然彼女の口から驚きの言葉が発せられてキョどってしまった。


「いやさっきな、玄関でクラスメイトに会ったんだけどよ。そこでお前の話を聞いてな」


「その話って…?」


 もしかして青水さんへの百回告白ではないだろうな?!あれはもう俺のブラックリストに封印しておきたい出来事なんだけど。

 でもクラスメイトは愚か、学年中が知っている出来事だ。人の噂も七十五日、なんていうが恋愛話においては例外になる。


 一生消えることのない、一生いじられ続けるネタになる。


「はぁ…」


「ため息って、じゃあ本当なんだな。藍木が同じ人に百回も告白したって」


 やっぱり話を聞いていた。そりゃそうだ。広まらないわけがあるものか。


「まあ、はい…」


 聞かれてしまった。今日、まだ親しい仲というには難しいけれど不思議な関係を結んだテイラーさんに聞かれてしまった。

 きっと引いているんだろう。


 下がった頭が持ち上がりそうにない。


「まだ恋とかしたことがない私が言うのもなんだが、男が女に対して抱いていることは分かっているつもりだ」


「はい…?」


 突然この人は何を?


「藍木、ちょっとこっちに来てくれ」


「分かりました」


 俺は彼女に言われるがまま、座っている彼女の近くに寄って見せる。ちょっと近づいただけで女の子の良い匂いが俺の鼻孔をくすぐる。


「じゃあちょっと膝をついて私の方を向いてくれる?」


「はい」


「じゃあタイツを脱がしてっ」


「はいっ!?」

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