第24話

 下校時間になって、クラスの皆が部活に行き始めた頃、俺は1人黙々と帰る準備を進めていた。


 今日から久遠さんが同じクラスになるということで色々と警戒はしていたのだが必要なかったらしい。


 全く何もしてこなかったし、青水さんと久遠さんが接触している様子も無かった。

 あくまで教室の中でだから、別のところで接触しているかもしれないけど。


 多分まだ俺が告白した相手が青水さんだって気づいてないんじゃないなかろうか。俺もしてはそちらの方が都合がいいので何も言う気は無い。


「帰ろう」


 昨日から家族になった久遠さんはというと、色々な部活から勧誘を受けていた。

 うちの高校はまあまあ勉強もできるし、まあまあ運動もできる学校だ。


 なにかの競技で圧倒的に1位をとるという訳では無いけど、必ずどの部活でもベスト4くらいには入ってるんじゃないかな?


 ちなみに俺はどの部活にも所属していない。運動が苦手な俺が、もし運動部に入ったとしても永久補欠の雑用係になる未来しか見えない。


 一度文芸部に入ることも考えたのだが、学校で本を読むくらいなら自分の部屋でゆっくりしたいと思ったので無所属を選択した。


 後悔は微塵の欠けらも無い。だって家は最高だから、誰にも邪魔されず自分の世界を形成できる家こそが正義である。と、俺は思う。


 久遠さんは部活に入るのだろうか?彼女から前の学校での部活の話は聞いたことがない。


 でも見た感じ、運動できそうな雰囲気あるしバスケとかバレーとかがお似合いなんじゃなかろうか。


 そういえば青水さんは吹奏楽部に入ってたっけ?可愛い青水さんにはぴったりな部活だな。


 久遠さんは吹奏楽部も似合いそうだ。


 一緒に帰ることも考えたけど、必要なさそうだし一人で帰るとしよう。


 そう思い荷物を背負って教室から出ようとした時、ある人から呼び止められた。


「待ってください、藍木さん」


 話しかけてきたのは久遠さんでは無いもう1人の転校生、リリ・テイラーさんだった。


 どうして俺の名前を?、という疑問は胸の内に潜めておく。


 が、何故彼女が俺を呼び止める必要があるのか?それは俺には全く理解できそうにない。だって話す理由が無い。


 そもそも俺は彼女と話していいような人間じゃない。

 ここまで自分を卑下すると虚しく感じてくるが事実であるので仕方ない。


 実際、彼女の周りに屯っていた数人の女子たちから冷たい視線を向けられる。


 あ、これあれだ。


『誰だこいつ?』とか『クソ陰キャが』とか、『テイラーさんと話すな』とか思ってるんだろう。


 実際陽キャとはそんな生き物である。青水さんは除くけど。


 まあ勝手にそう思っておけばいい。口に出されない限り俺のハートに傷が着くことは無い。慣れているのだ、朝飯前である。


 分かった、落し物でもしたのだろう。辺りをチラチラの確認してみるも…何も無い。


「何をキョロキョロしているのですか藍木さん?」


「あ、いや、えーと…」


 あ、終わった。完全に陰キャが出てしまった。テイラーさんみたいなキラキラしたハーフ美少女様に話しかけられてしまったらこうなってしまう。


 嫌われてしまったかもしれない。転校生に初日から嫌われるなんてある意味才能だろ。


 被害妄想酷いな俺、性格変わった?誰かさんに影響されて性格変わった?


「すみません水谷さん、寺町さん。ちょっと藍木さんとお話したいことがあるのでお席を外しても大丈夫ですか?」


「う、うん。いいけど、リリ、こんなやつと知り合いなの?」


「言っちゃ悪いけど、こいつ影薄いよ?」


 そんなこと言われてなくても分かっとるわ。口に出すな、言うたやろ。心の中で!


「関係ありませんよ。とりあえず少し失礼しますね」


 テイラーさんはおもむろに立ち上がると、俺の耳元に顔を寄せて呟く。


「すみません、屋上に来て貰えますか?」


 え、何もしかして告白?!







 ◇


「ああ、もううっざいわね。なんなのアイツらちょっと私が顔がいいからってチヤホヤしてきてさ。下心丸見えだっつーの!」


 あれ?


「ねぇ、藍木もそう思うよね?何なのあいつら。藍木のことも悪く言ってさ」


「それはまあ、仕方ないことなのかと…」


 だって事実ですから。


 それにしても誰だこの人。先程までの温厚で誰にでも分け隔てなく接していたテイラーさんの姿は既に消えうせている。


 まさかテイラーさんがこんな裏の顔を持っていたなんて。

 人って第1印象で判断しちゃダメだな。裏で何を隠し持ってるか分からない。


 海外にもヤンキーっているのかな?明らかに今のテイラーさんはガラの悪いヤンキーで他ならない。


「藍木の方がアイツらより全然いいわよ。あなたは私の前の席なのにまったく私に興味を示さずに生活してた」


 それは勘違いだな。決して興味がなかったわけじゃない。

 話しかける勇気も理由もなかったからだ。ただそれだけにすぎない。


 どう捉えてもらっても構わんが。


「藍木、私と友達になってよ」


「え?」


 俺は一瞬にしてその場で硬直してしまう。


「それで週に一回でもいいから屋上で私の愚痴に付き合って。毎日とは言わないから」


「お、俺でよければ」


 この秘密は誰にも話さないでおこう。


 平和な日常と俺の命を守るために。

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