第22話

 教室へと入ってみると、転校生の話題で大いに盛り上がっていた。

 久遠さん曰く、この学校に知り合いはいないらしく、一体どこからこんな情報を持ってくるのか。


 学校って本当に不思議だな。普通に生活してたら転校生の話なんて聞かないだろうに。偏見だが、陽キャたちが何かしらの連絡ツールを使って情報を手にしているのだろう。


 その陽キャたちのおかげで俺を筆頭に陰キャたちもその噂を耳にすることが出来る。いいサイクルになっているじゃないか。


 転校生が来るというのは本当だ。だって久遠さんだからだ。

 俺と同じクラスだと言っていたし、朝のホームルームの時間帯に担任から紹介があるだろう。


 なんと偶然なことに俺の後ろの席にもう1個机が置かれている。廊下の1番後ろはスペースが空いていたからな。


 久遠さんは美人だし、きっとあっという間にクラスの中心人物になる。

 そう考えると俺のこの席のポジショニングは最悪と言える。


 陽キャたちがすぐ後ろに席に屯して、俺は肩身の狭い思いをするのが手に取るように分かる。


 これが陰キャの運命ってやつか…陽キャになれれば良かった人生だった。


 そういえば窓側の1番後ろの席も空いていたな。確か親の都合で引っ越していった男子生徒の元の席。


 影の薄い男だったので、申し訳ないがほとんど彼の顔は覚えていない。


 あの席はもう使わないはずだし片付けていいはずなのにいつまで残しておくつもりなのだろうか。


 別に日常を送るには何事に支障にもなりえないが、ちょっと気になるな。


 まあ気にしないでいいか…。


 しばらく読書をしながら待っているとホームルーム開始を告げるチャイムが教室に鳴り響いた。


 同時に担任がやってくる。担任の桃達先生。最初名前を聞いた時は甘そうだな、と思った先生。


 女性の先生で既婚。だが、学校中の男子の人気の的でいつも苦労しているそう。

 既婚なので先生はもちろん夫一筋。ほかの先生が授業中に言っていたが、桃達先生は職員室では普段の姿からは想像できないほどに夫にデレデレな態度らしい。


 そんなギャップもあってみんなから好かれているんだろうな。


「おはようございます皆さん」


 おはようございます、とクラスメイトがまばらに返事する。一応俺の小声で挨拶しておいた。


 挨拶ダ・イ・ジ。ふっ。


「今日は転校生の紹介をします」


「うぉー」「来たァ〜」「待ってました」


 クラスメイト、主に男子たちが興奮の意を全面に示す。

 あれか、可愛い子を望んでるんだな。安心しろ、超絶美人が来るぞ。


「教室に入ってきてもらう前に私から少しだけ転校生の説明をします」


 そんな感じなのか。実は今までの人生で転校生が来るイベントに遭遇したことがない。転校生イベ処女である。


「まず1人目は親御さんの都合で紅葉女学院からこちらに転校してきた子です」


 1人目?ふと先生の言葉が引っかかった。今、1人目って言わなかったか?


「紅葉?」


「紅葉ってあのお金持ちアンド美人が集うっていうあの紅葉?!」


「皆さん、落ち着いてください」


 やはり紅葉女学院は有名だったようだ。そりゃそうだよな。オタクである俺でさえ知っている高校なんだから。


 お金持ちとか、美人が集まるとかは初めて聞いたけど。


「2人目も親御さんの都合で日本にやってきたイギリス出身のハーフの方です」


 2人目…まさか。やはり先程1人目と言っていたのは本当だったのか。


 それもハーフだという。今どき珍しいというか…そもそもなんで同じ日に同じクラスに転校生が来るんだよ。


 どういう確率だよ。


「では入ってきてもらいましょう。入ってきてください」


 教室前方の扉がゆっくりと開かれて、まず最初に瞳が捉えたは長く美しい金色の髪。


 先生が言っていたハーフの転校生だ。


 続いて久遠さんが入ってくる。


「か、可愛すぎるだろ2人とも…」


「やべぇって。2人とも青水さんに並ぶくらいの可愛さじゃねぇか」


 男子たちが彼女たちの顔を見て絶句している。俺ももちろん絶句している人達の1人だ。


 改めて久遠さんはとてつもない顔面偏差値をしていると思い知らされる。

 隣に凛々しく佇んでいるハーフの方も同様に。


「ではまず挨拶をしてもらいましょう。まずはテイラーさんから」


 テイラーさんと呼ばれるハーフの方が1歩前に出て頭を下げる。


 「皆様初めまして。リリ・テイラーと申します。日本人の母とイギリス人の父の間に生まれたハーフです。イギリス《向こう》でお母様から日本語を学び、こちらに引っ越してきました。どうぞよろしくお願いします」


「よろしくー」「よろしくなー」「よろしくねー」


 言われてみればテイラーさんの表情からは少しだけ日本味を感じなくもない。

 ハーフって初めて見たけど、こんなに可愛いんだ。


「では次は飯沼久遠さん。お願いします」


 続いてコールされた久遠さんが前に出る。気の所為かもしれないが、何か変なことを考えている気がする。






 …何も無かった…。久遠さんの挨拶は別に至って普通のもので、何事もなくホームルームは過ぎ去った。


 ただ1つ予想外なことが起きた。


『挨拶が終わりましたので、2人の席を言いますね。飯沼さんはあの窓側の1番後ろの席に座ってください。テイラーさんは廊下側の1番後ろの席です』


 そう、俺の後ろの席にハーフ美少女が座っているのだ。






 ーーーーーーーーーーーーーー


 とりあえずここでヒロイン追加は終わりですかね〜。

 ちょっと多すぎたかも。


 …あ、もちろんリリさんは関係ないかもしれませんがね。

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