第17話
青水さんが何か覚悟を決めた表情をしたと同時に、スマホの通知音が鳴った。この通知音は俺の物だろう。
こんな変な音を通知音にしているのは俺しかいない。
逆に神藤さんや青水さん、霧がこの音源をアラーム音にしてたら引く自信がある。自分が設定しているのだから偉そうなことは言えないだろうけどな。そもそも声に出して伝える気があるわけないんだけど。
送り主を見てみると姉からだった。どうやら急いで帰ってきてほしいらしい。状況が状況だから難しいと送り返したのだが、絶対に帰ってこいと言うことである。文面からも気持ちをじんじんと感じたので仕方ない。
「ごめん、ちょっと急ぎの用事が出来たから俺はもう帰るよ。また俺に話があるなら聞くから今日はちょっと帰らせてもらうわ」
「え、ちょっと藍木君。流石に突然すぎやしないかしら。さっきまで普通だった時じゃない」
「それはさっきまでの話だろ。たった今用事が出来たんだ、聞いてた感じ俺が絶対に必要そうじゃないし別にいいだろ?」
「いやあなたが…ううん、仕方ないわね。また今度機会をうかがうってことでいいかしら。ね、亜玖亜?」
「うん、大丈夫です」
そこで青水さんに確認を取る理由も分からないが、とりあえず許可は下りたようなので机を直してから帰ろうとすると、霧から呼び止められた。
「どうした?」
神藤さんたちは既に机を片付け終わっていて帰ろうとしている。片付け終わるの早すぎだろ…という突っ込みは心にしまっておこう。
俺が帰るから二人も帰るのか?
「用事って家?」
「多分、そうだと思うけど」
姉さんは帰ってこい、と連絡してきたわけだし家にいるのだろう。この時間帯は母さんは帰ってきてないだろうし、家にいるのは姉さんだけか。
「じゃあついて行っていい?」
う、その上目づかいはずるいだろ。断ることに対して罪悪感を感じさせる瞳だ。かあ姉さんは誰かを連れてきてはいけない、なんて言って無かったし連れて行ってもいいだろう。
俺と仲違いするときまでは霧も姉さんと毎日のように顔を合わせていた。二人はまるで本物の姉妹なんじゃないかってくらい仲が良かった。
数年ぶりの再会もなかなか悪くない。久しぶりに驚く姉さんを見てみたいという気持ちもある。
ダウナー系だから驚いても驚いてないように見えそうだけど。
「いいよ。でも無理そうだったらその時は大人しく帰ってくれよ」
「うん、分かってる」
「ただいま~、姉さんいる?」
「いる~」
俺たちが家に入ると同時にリビングの扉から姿をあらわした姉さんは俺の後ろに立っている霧を見て大きく目を見開いた。
「…もしかして霧ちゃん?」
「はい、久しぶり…です。えーっと、悠紀姉ちゃん」
緊張しているのか霧は頬を真っ赤に染め上げて、恥ずかしそうに姉さんのことを見ている。不覚にも可愛いと思ってしまった。
「久しぶりー。悠紀姉ちゃんって久しぶりに言われたよ。嬉しいなぁ~」
「それで姉さん、なんで帰ってこらせたんだ?」
「そんなの良いからさ、とりあえず霧ちゃんをことよしよししたい」
「えっ…あうっ」
姉さんに頭をなでられている霧、とても恥ずかしそうであの強気な霧の姿の跡形もない。
この姿を見て思い出した。
そう、霧はなによりも姉さんに弱かったのだ。でも霧は初めて姉さんと会った時、俺以外と接する態度と同じように話していた、
でも姉さんのペースにどんどん飲まれてしまっていった結果、今のような雰囲気になったんだっけ。
霧は今もなお、姉さんに好きなように扱われている。この姿を霧を知っている人が見たら信じられないだろうな。
ふと想像すると、笑みがこぼれてしまう。
「それで姉さん、結局用事って何?霧は自由にしていいからさ」
「そうね、えっと、あんたに連絡するちょっと前にね、お母さんからメールがあったの」
「母さんから?」
「うん」
へー、珍しいな。
「で、内容は?」
母さんから連絡があるってことは相当なものなんだろう。毎日のように早朝から出かけて行って、帰ってくるのは俺と姉さんが寝静まってから。
最近はほとんど顔を合わせていない。
「再婚したいんだって」
「再婚?」
「お母さん、私たちと全然時間を作れないことを申し訳ないって思ってたらしいの」
「ほう…」
この話って霧が聞いていい話なのか気になったが、見た感じ耳に入ってなさそうなので大丈夫だろう。
「それでその再婚相手の子が今から来るって」
へぇ、今から再婚相手の子がねぇ…って、
「今から!?」
「うん、今から。それもあんたの同い年の女の子らしいよ」
まずいだろう、それは。
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