第13話
慌てて霧から距離を取ると、彼女は名残惜しそうな表情を浮かべた。
「何をしてるんだよ、こんなの冗談じゃすまないぞ…」
「ふふっ、冗談じゃないって言ったでしょ。やっぱり隼って
揶揄うように笑う霧のことを見ていると、疑う気持ちもなくなってくるな。でもまさか突然キスされるなんて想像してなかった。
「はぁ…」
「なんでため息っ!嬉しくなかったの、私みたいな美少女にキスされて」
自分で美少女っていうか普通、という突っ込みは心の中でひそめておくが嬉しくないかという質問にはなんて返せばいいのか分からない。
本音を言えば、嬉しかったです。
だってファーストキスだぞ、それも霧という美少女幼馴染とキスできたんだ。嬉しくないわけがない。
でもまさかファーストキスが奪われる方だとは想像してなかったな。いつか彼女が出来た時に、俺からお願いしてようやく出来るかどうかだと思ってた。
そもそもこれから彼女が出来るかも定かではない俺の現実に、高校生のうちにキスという恋人らしいことが出来てすごく嬉しい。
でも複雑な気持ちだ。キスって付き合っている人同士がするものだよな。だというのに付き合っていない俺と霧がキスをするというのは果たして健全と言えるのか否か…。
「嬉しかったよ、めっちゃ柔らかかったしすごく気持ちよかった」
その言葉を聞いた瞬間の霧と言ったらものすごく幸せそうな表情をしていた。少なくとも俺の人生の中で今の霧以上に幸せそうな顔をしていた人はいない。
悲しそうな顔をしていた人は何度も見てきたけどな。
今俺から付き合ってくださいと告白したら彼女は受けてくれるだろうか。いや、そもそも疑問に思うことも申し訳ない。
キスしてくれた相手なのだ。
俺って浮気性の資質があるのかもな。つい先日まで青水さんを追いかけて追いかけて追いかけ続けていたのに、今はもう違う人のことを考えている。
今思えば俺の世界は狭すぎたようだ。もっと初めから広い視野を持って周りを見てれば、今立ってる場所は違ったかもしれない。
まあ後悔はしていない。青水さんに恋したのは俺の高校時代の一生の思い出として残るだろうし、楽しかったから。
出来ることなら実ってほしかったけど、残念ながら世界は俺中心に回ってなんかいない。
俺も大人になったっていうことかな…。そう考えると感慨深い…
「ちょっと待って!」
「!?」
俺と霧しかいないもの静かな教室に、聞くだけで耳が蕩けてしまうそうな美声が響き渡る。
「あ、忘れてた…」
「霧?」
霧は彼女の姿を瞳に映してから気まずそうにつぶやく。
教室に入ってきたのは青水さんだった。あの告白をしてから彼女とはよく鉢合わせする。…とはいっても同じクラスだから毎日顔を見ているわけだけど…。
忘れ物でも取りに来たのかな…、まあ俺はもう二度と口きけないから関係ないか。この間、本屋でちょっと言葉を交わしてしまったけどあれは仕方なかったということだ。避けられなかった運命っていうやつ。
「ちょっと何してるんですか霧ちゃん!約束と違いますよ!」
だけど青水さんはどうやら霧に用があるらしい。2人って友達なのか?そんな話聞いたことないけど。
「何の話?私はちゃんと約束守ってたわよ」
「嘘つかないでください。私最初から最後まで見てたんですからね。隼くんのえっとその、…ちゅ、ちゅー、してとても幸せそうな顔してたの知ってるんですからね」
「そ、それは…」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
11話にミスがありましたので改編致しました。改編した内容としましては
11話には姉には彼氏がいると書いていたのですが、それだと話がズレてしまっていたのでその部分をなくしました。
今のところ物語にはなんの影響もございませんので、わざわざ戻って読み直す必要は無いと思います。
お騒がせして申し訳ありません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます