第12話
放課後、至って何事もなく過ぎ去った今日を懐かしみながら帰る準備を進めているとある人物から話しかけられた。
「久しぶりね、隼」
この声聞き覚えがある。だけど最近はほとんど口をきいていなかった相手だ。喧嘩で向こうが完全に悪いのに意地を張ったせいで現在も仲たがい中。
「なんだ、霧。久しぶりだなこうやって言葉を交わすのは」
「ええ、そうね…」
本当に話すのはいつぶりだろう。多分小学校の五年生くらいの時に喧嘩をしてから話さなくなったよな。
正直言って、もうなんで喧嘩をしたのか覚えていない。怒りの気持ちなんてとっくの昔に消え去ってしまっている。
理由…気のせいかもしれないが、すごくくだらないことだったような…。
「そういえばなにか五天皇?、の一人らしいね」
「それあまり好きじゃないから言わないでくれる?」
五天皇、それは学年トップ五人の美少女たちの総称を表し、全男子女子の憧れの的になっているものだ。普通なら喜ぶことじゃないのか?
それとも本人たちはあまりよく思っていないとか?そういうのには無縁な俺には何も分からないな。
「分かった。それで今更何の用だ?謝りに来たのか?」
「半分正解半分間違い」
「半分?」
「ええ、まずは一つ目の目的を果たさせてもらうわ」
霧は一歩下がると、俺に向かって九十度頭を下げた。プライドの高い霧のことだ、屈辱的な気持ちなのではなかろうか。それとも俺が知らない間に大人になっているのか。
ただこうやって頭を下げられた以上、何もしないわけにはいかない。俺なりに誠心誠意答えるのが筋っていうものだろう。
幼馴染と再び仲良くなれるチャンスだ。喜ばしく思おうじゃないか。
「顔を上げてくれ」
「え?」
「嬉しいよ霧。俺も霧と話したかったんだ。だけど喧嘩中だったから自分からは行きにくくてさ」
「そうなの…?」
「ああ、霧は大事な幼馴染だからさ」
これは本心だ。よこしまな気持ちは一ミクロンも存在しない。霧はずっと小さい頃から一緒に過ごしてきた大事で、かけがえのない幼馴染だ。
「良かった…」
霧の瞳から一粒の雫がしたたり落ちる。
「良かったよぅ…」
俺は彼女のそばへ近づき、両手を彼女の背中に…回すことはせず、彼女を顔を覗き込むようにして目を合わせる。
すると次の瞬間…
「はやとっ!」
「うわっ」
霧が抱き着いてきた。成長した霧は幼馴染贔屓目なしで美しい。そんな彼女に抱き着かれてしまったら色々と危ないぞ…。
いい匂いだ、初音さんの匂いとはまた違う。
…って俺は一体何を考えているんだ。童貞のくせに女の子の匂いを比べるようなマネ、絶対に許されないだろ。
「はぁ、隼の匂い久しぶりぃ~~~」
気づけば霧の顔はアイスクリームよりも蕩けてしまっていた。美少女の霧のお顔のおもかげもないくらい蕩けている。
まずい、こんな姿誰かに見られてしまったら誤解を生む。俺としては…まんざらじゃないかもだけど、霧のことを考えたら色々とまずい。
「おい、霧。離れてくれ」
「嫌だ、久しぶりの隼だもん。離れたくないぃ~」
そうだ、霧は昔もこうだった。一度俺に引っ付くと簡単には離れてくれない。俺に対しては可愛らしい姿を見せるくせに、俺以外の人には冷たい態度をとる。
「もう高校生だぞ、俺たち、こんなの人に見られたら勘違いされちまう」
「いいじゃん、されても~。別に私はいいよー」
「冗談はいいから」
「冗談じゃないし、証明して見せようか?」
「証明?」
「うん、こうやって」
次の瞬間、俺は霧に唇を奪われていた。
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やはり幼馴染は強いな、と執筆しながら思いましたね。ですがこれは主人公君のファーストキスではありません。
ということは…あとはご想像にお任せいたします。
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