第10話
「今日は楽しかったです。ありがとうございました」
なんだかんだ初音さんとのデートはとても楽しいものだった。内容は言葉では表現できないくらい濃ゆいものだったけど、最後に残る言葉は楽しかっただ。
「ううん、私も楽しかった。こんなに楽しかったお出かけ生まれて初めてだったよ」
初音さんは何を考えているか分からないような笑顔で俺を見つめる。でも本当に楽しんでいたということだけは分かった。
「じゃあ、ありがとうございました。また会う機会があったらよろしくお願いします」
そう言って後ろを向いて歩き出そうとすると、彼女は俺の前方に回り込んで行先を阻んだ。
「えーっと…、どうしました?」
「なに、普通に帰ろうとしてるのさ。なんか思うことなかったの?」
思うこと…ああ、そうか。初音さんはデートの感想を聞きたかったんだろう。確かに楽しかったの一言だけじゃ満足できないかもしれない。
せっかく一日だけのデートだったのだから、たくさん感想を言い合って自分の糧にしたい。
初音さんからの感想も聞きたいな。初めてのデート、彼女は初めてじゃないかもだけど男として俺は何点くらいか気になる。
今日も通して女性と二人きりになる耐性は強くなったと思うし。
もしかしたら相手が初音さんだから大丈夫だった説も否定できない。
「今日のデートはとってもいい経験になりました。初音さんと二人っきりで話している時は普段は聞くことが無いような奇想天外はお話ばかりで聞いてて飽きることがありませんでした」
「…ありがとう」
あ、照れてる。常に俺のことをリードしてくれた初音さんが照れている。デート中、俺は彼女が彼氏なのではないかと錯覚してしまうほど男らしからぬ態度だったけど。
今の初音さんはとても可愛い。美しいの中に可愛いが生まれて彼女の美しさは世界で一番輝いて見えた。
「それでは…」
「それでは、じゃないでしょ!」
「あ、そうかっ」
彼女の感想を聞くのを忘れてしまっていた。二番目に大事だろ。一番目はもちろん、彼女が楽しめたかどうかである。
「…ようやくわかったのね。普通じゃないわねやっぱり…好き」
「え、なんていいました?」
「ううん、気にしないでいいよ。それで何か言いたそうな顔してるけど、何を聞きたいのかな、隼?」
隼、呼び捨て⁈え、突然なんだ。さっきのさっきまでずっと君付けだったのに急に呼び捨て?
そうか、俺のことを認めてくれた証か何かかな。
「はい、今日のデート中の俺、どうでした?」
「うーん、私としてはすごく満足できたかな。すっごく笑ったし、興奮した」
「興奮?」
なんか興奮させるようなことしたっけ俺。ずっと二人で色々なところを歩き回っただけなはずなんだけど…まあ、気にしなくていいか。
そういえば水餅の奴がなんたらこーたら言ってたし、そういうことだろ。
「ああ、気にしないで。でもめちゃくちゃ刺激的な一日だったってことは本当。そうだ、これ上げる」
彼女は手掛けバッグの中から眼鏡ケースのようなものを取り出した。
「眼鏡?」
「サングラス。私、同じものをもう一個持ってるからお揃いってことでね!」
恐る恐る眼鏡ケースを開けると、中にはごく普通なサングラスが入っていた。レンズは少し薄めで透けている。
「貰ってもいいんですか?」
「もちのろん。お揃いっていいよね。これで私の物が隼の家に…ふふっ」
「はい?」
「こほんっ、気にしないで」
ちょくちょく聞こえないときがあるんだけど、気にしないでいいのかな。初音さんは聞いてほしくなさそうだし、触れない方がいいのかも。
「ちょっと一回かけてみてよ」
「分かりました」
かちゃり、っと。すごい、サイズがぴったりだ。まるで最初から俺用に準備されていたかのように。
「うん、やっぱり似合ってるね。かっこいいよ隼」
「あ、ありがとうございます。じゃあ、これで失礼します。今度また会った時にプレゼント渡しますね」
「今度ってどうやってまた会うつもりなの?」
あー、確かに。まあでも水餅を介して連絡を取ればいいだろ。
と初音さんに言ってみると…
「なんでそんな面倒くさいことやるのさ」
と言い返されてしまった。
「いや、でも連絡先を交換するわけにはいきませんし」
「なんで?」
「えっと…初音さんの連絡先に俺が入るのは、なんというか…釣り合っていないというか…」
自分でも何を言っているのか分からなくなってきた。
「あぁ、もうジレッタイ!はい、スマホ出して!」
俺は反射的に彼女にスマホを差し出してしまう。もちろん画面ロックは解除してある。
「よし、これでいい。じゃあまた連絡するからじゃね。隼」
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