第8話
「結局教えてくれなかったな…」
結局青水さんは最後まで本屋に来た理由を教えてくれなかった。本屋に来る理由なんて本が好き以外の何があるんだと思ったが。無理に聞くのも悪いかと思ってあのまま別れた。
それよりも喜ぶべきだよな。もう二度と話すことはないと思っていた青水さんと偶然とは言え言葉を交わすことが出来たのだ。
でもこれをきっかけに…なんてことは考えていない。以前の俺なら絶対に考えていただろうけど、既に百回告白して、百回玉砕している。
諦めはついている。今は水餅の言っていた通り新しい出会いを探そうと思っている。
実は明日水餅の野郎と会う約束をしている。理由はもちろん、女の子である。とはいっても、あっち方向のお店に行くのは未成年だから不可能だし、そもそもそんな不純な恋愛を俺は望んでない。
「おっす、藍木」
「おう。待たせたか?」
次の日、俺は念のためオシャレをして水餅との待ち合わせ場所である犬の像までやってきていた。
いいや、と手を振ってこたえる水餅。こいつの私服姿初めて見たけど結構活かしてるな。そりゃ彼女いるわ。
彼女で思い出したのだが、水餅の彼女さんはどのような人なのだろう。名前は知っている。
確か隣のクラスの水瀬さんだ。噂ではめちゃ頭良くて運動神経もよく、加えて抜群のプロポーションだという。
顔面偏差値も70以上だと聞いてるけど、残念ながら俺は彼女を見たことが無い。生粋の陰キャである俺が青水さんに告白するとき以外教室から出ることが無いからだろう。
「じゃあ行くか」
「いや、ちょまち。あと一人来るから」
「は?あと一人?」
聞いていないぞ。今日は俺と水餅の二人で俺の新恋探しの予定だったはずだが。
「安心しろ。青水さんじゃない」
「どうでもいい」
「またまた…って、来た来た。こっちだー」
水餅の手を招く方向に視線を向けてみるとそこには如何にも美人、といったような女性がこちらに向かって走ってきている姿が見えた。
まさかこの人じゃないよな?
後ろに誰かを待ってそうなイケメンがいるし、きっと彼の彼女だろうな。うん、そうに違いない。というかそうであってくれ。
「お待たせ、健斗と…隼くん!」
俺たちだったぁ…。ってか水餅のやつ彼女いるくせにこんなかわいい女の子とも知り合いだなんて…あ、もしかして彼女が水瀬さんか!
…………今、名前で呼ばれなかったか?
「えぇっとぉ~、水瀬さんでお間違えないでしょうか?」
「水瀬?あー、あおいのことか。違うよー、あおいは私と幼馴染で健斗の彼女。こいつのどこがいいのか私にはさっぱり分からないけど」
「おいっ!」
「…」
俺は今一体どんな顔をしているんだろう。
きっと死んだ魚のような顔をしてるんじゃなかろうか。
「ねぇ、健斗。隼くん状況を理解できてないみたいだけど」
「おい、生きてるかー。隼っ」
「はっ!」
「生きてたな」
「生きてたね」
死んでたまるか。
「こいつは初音桜花。俺の幼馴染で絶賛彼氏募集中だ」
「なるほど、どうぞよろしくお願いします」
俺は緊張しながらもぺこりと会釈する。気持ち悪いって思ってないよな。俺、蜜璃以外の女性とこう知り合うのは初めてだからどうしたらいいのか分からない。
「よろしくねー」
「じゃあ俺は帰るわ」
「は、ちょまてお前」
水餅の首根っこを掴んで問いただす。
「おい、どういうことだ。聞いてた話と違うぞ」
「まあいいじゃないか。俺から見てもあいつは結構上玉だし、彼氏募集中なんだよ。お前も新しい恋探してるんだし丁度いいじゃないか」
「そういう問題じゃないわ。そもそも彼氏いないって本当なのか?あんな美人なのに」
どうみても彼氏がいないような見た目はしていない。ラブコメでよくある毎日のように告白される学校のマドンナ的な存在だろ。
あんなに美人な女の子、普通の男なら逃がさないはずだ。
「あいつ、女子高なんだよ。しかもちょっとおかしい性癖してやがる」
「なるほど…」
女子高なら出会いがないのも仕方ないのか…、あんま女子高事情なんて知らないからよく分からないけど納得しとこう。
「今まで告白は何回も受けてるんだよあいつ。でもその性癖がな…」
そんなおかしい性癖を持ってるのか彼女は。見た感じ普通の女の子って感じだけど。ま、女子経験がない俺が語るなって話か。
「ねぇ、二人で何話してるの?」
「隼がちょっと勘違いしてたみたいだから、事情話してただけだ。じゃあ俺は帰るから」
「お、おいっ…」
「うん、ありがとね健斗~」
あ、行ってしまいやがった。
ということはこの場には俺と彼女だけが残ってしまっているわけで…
「帰りますか?」
この空気に耐え切れなくなった俺が苦し紛れにそう言うと…
「ん?そんなわけないじゃん。さっ、デート行こ!」
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