第7話
「そ、それは…」
なぜだろうか、青水さんは何かバツが悪そうに俺から視線を逸らしたのだ。変な質問はしていない。
「どうしたんだ?具合でも悪いのか?」
「いや、違います。気にしないでください」
「気にするなって言われても…」
何度も言っているが青水さんは読書の好むような人ではなかったはずだ。教室で彼女が本を読んでいるところは見たことが無いし、こう言い切れるのは百回の告白のうち、何度かは本を話題に出したのだが興味なさげにスルーされてしまったのだ。
「いや、分かりました。俺には話せないですよね。仕方ないです」
「ち、違うのっ。君に話せないってわけじゃなくて」
珍しく青水さんはひどく動揺している。ちょっと楽しいかも。いつもは振られてばっかりで悔しいの連続だったけど、今この瞬間だけは彼女にも上に立っているような気がした。
―――――――――――――――――
亜玖亜視点
私には毎日告白してくる男の子がいます。彼の名前は藍木隼くん。彼とは新学年になってから同じクラスになって、いつの間にか告白されていました。
もちろん断りました。自分で言うのもおかしな話ですが、私は結構モテていました。両親に恵まれ、私はそこら辺の女優さんよりも美しいと多くの方からお褒めの言葉をいただいていました。
だからでしょうか。藍木くん以外でも三日に一回は告白される日々。正直うんざいりしていました。
告白してくる人が私の好きな人であったら私は喜んで受け入れるでしょう。
でも残念ながら好きな人はいない…はずです。ずっと昔から告白されてきていた私には相手の男の子が何を目的に告白してきているのか分かるようになりました。
だから好きな人が出来ないのでしょう。ほとんどの男の子は私の顔なんて見もくれず、身体を嘗め回すように…考えるだけで吐き気がします。
ですが、例外がいないわけじゃありません。そう彼なのです。藍木くん。
彼の考えていることだけは私でも理解することが出来ません。彼が想いを注げてくれるときはきまって私の瞳をまっすぐに見つめて、身体の方に視線が泳ぐことがありません。
他の男の子は身体ばっかり見てくるのに、彼だけは私の目をしっかりと見てくれて、ちょっと見つめあうとなぜか目を逸らしてしまう。
でもこの現象はきっと慣れていないから起こっているのでしょう。決して彼だから、なんてことはありません。
ええ、絶対にありません。
「亜玖亜は今日も可愛いねぇ~」
「愛華の方が可愛いですよ」
「亜玖亜から言われたら嫌味にしか聞こえないんだけど」
「本当だよ。昨日も告白されてたじゃないですか」
「それ、亜玖亜が言う?毎日告白してくる奴がいるくせに」
ふと愛華から言われて彼の座っている方に視線を向ける。あ、そろそろ来るかも。
彼は私と目が合うと同時に何かを決心したかのような表情で私の方へと歩いてきたあ。
「青水さん。屋上に来てくれないか?」
「分かりました」
今日も告白だろう。断ろうとすると彼は子供のように駄々をこねるので、私は彼に言われた通り屋上へと向かう。
分かってはいるけど、一応確認を取る。
「今日も告白ですか?」
「うん、告白だね」
やっぱり。
「まあそうでしょうね。あなたは本当に懲りることを知りませんね」
これで何回目なんだろう。三桁突入してたり?いや、流石にかな。
「あはは、ありがとうございます」
「褒めてないですよ」
何でしょう。気のせいかもしれませんが、彼にあまり元気がないように見えます。普段はもっと生き生きとしていたような…。
「で、ですよねー。知ってました」
「面白くありませんよ本当に」
「それにしては青水さん毎回来てくれますよね。なんで来てくれるんですか?」
確かに…なぜ私は強く断らないのでしょう。彼が駄々をこねるから?本当にそれだけなのでしょうか?
「…そういえばなぜでしょう。私もよく分かりません。ただ何故か断ったら嫌な気持ちになりそうな気がします」
無意識に私はそんなことを言ってしまっていました。何も考えてなかったのに口が勝手に…。
「まあなんでもいいですけどね。本当に今まで俺だけのために来てくださってありがとうございました」
彼は突然かしこまったように腰を90度にまげて、お辞儀をしました。
「え、え、突然なんですか!?」
彼の様子がおかしい。やっぱり違和感は間違ってなかったようです。
「告白をしに来たんだ」
「いつも通りじゃありませんか。意味が分かりません」
告白とはいってもいつもの告白じゃない…?
「すぐに意味は分かりますよ」
すぐにって…。
「青水さんのことを諦めようと思います。もう2度と告白することも話しかけることもやめます。だから今までありがとうございました。俺の初恋が青水さんで本当に良かったと思います」
「え…」
本当に小さい声。私以外には絶対に聞こえない音量で私はそう呟いていました。
彼が後姿が離れていくのを私は何故か悲しいと感じてしまっていたのです。
そして頬を伝る一粒の涙をぬぐいながら…。
「私、なんで…」
涙が、という言葉まで紡がれることはなかった。
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