第6話

「するだろ?」


「なるほど、隼はそっちのタイプなんだね」


「?」


 蜜璃はうんうん、と何かを悟ったように顔を何度も何度も縦に振る。対する俺は意味が分から首を曲げていた。


「おっけーおっけー、隼がそういうタイプって分かったのは大きいな。じゃあ私は帰るからじゃね」


「お、おう。またな」


 ハイスピードだなあいつ。ハイスピードで駆け抜けるのが俺の人生だった………………。


 蜜璃が帰ってしまったしこれからどうしようか。彼女と出会ってからここに来る理由は彼女と会うためというのがほとんどだった。


 買った本は家で読めばいいし、ここに来たら大体俺と彼女しかいなかったからずっと話していた記憶がある。 

 傍から見たら大迷惑以外のなにものでもないんだろうけど、利用者いないんだし別にいいだろ。


 今まで注意されたこともないし問題ない問題ない。


「帰るか」


 いざ帰ろうと出口に向かって歩き出そうとしたとき、扉が開けられる音がした。


 珍しいな、ここの利用者か?それとも蜜璃が戻ってきたのか。どっちでもいいけどな、どうせ俺はもう帰るのだし。


「ここかな?」


「えっ…」


 扉から現れたのは俺にとって見覚えしかない人物だった。だが彼女にそんな趣味はなかったはずだ。他人の空似かもしれないし、気にしないでいいか。


 と思って彼女の顔を見ないようにしながら扉から出ようとしたところで、突然腕を掴まれた。


「ちょっと待ってください!」


「人違いです。離してください」


「人違いじゃありませんよ。あなたは藍木隼くんです。私に毎日のように告白をしていた隼くんです。私のことが大好きな隼くんです!」


 言われないでも見た時には分かっていた。読書室に入ってきたのは青水さんだった。読書が好きだなんて聞いたことが無かった青水さんだ。


 それにしてもこう本人から大好きだったなんて言われるのはなんというか、ちょっとばかし嫌に感じるな。語彙力無くてなんて言えばいいか分からないけど、ちょっとイラつくというかなんというか。


 まあそれでも彼女が好きだという気持ちが無くなることはないんだろうけどさ。本当に彼女の魅力にとりつかれて離れてくれない。

 人にとって初恋というのは忘れたくても忘れられないものなのだ。


「2度と話さないと約束したので」


「それならもう破ってますよ。気にする必要なんてありません」


「必要しかありません。そもそもこの言い方は正しくないかもしれないけど、俺から距離をとったのは貴方じゃありませんか。振られ方で分かります。この人は本当に俺には興味がないんだろうなって」


「…」


「だってあなたの目を見ようとしたら逸らすじゃないですか。すごくショックでしたよ、毎回…」


 俺は100回も振られた相手に何を愚痴っているのだろう。恥ずかしいったらありゃしない。


 でも言った言葉は本心だ。少しでも脈があるならば目を逸らすことなんてないはず。漫画とかで恥ずかしいから目を逸らすみたいなのもあるけど、青水さんに限ってそんなことで恥ずかしがるわけないし。


「…というかなぜあなたがここにいるんだ?」

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