第2話

 教室に一人帰ってきた俺は自分の席に腰を下ろして机の横にかけてあった弁当袋を手に取る。


(俺の初恋、終わったんだなぁ…)


 なんだか感慨深いというかなんというか。どう言葉で表現したらいいのかこの感情は。

 俺の記憶の中で彼女に初めての恋をしたことを忘れることは絶対にないと断言できる。


 だから…ちょっと贅沢かもしれないけど、彼女の中でも俺という存在を覚えててくれていたらと思う。どうか忘れないでほしいな。


「おい藍木、お前さっき青水さん連れて出てったけど、もう告白しないんじゃなかったのか?」


「してないよ。ちょっとけじめをつけてきただけだ」


「けじめ?」


 こいつ、水餅健斗は意味が分からないといった様子で首をかしげる。水餅には少々難しい話かもしれない。


「今失礼なこと考えなかったか?」


「いや、別に」


「本当かよ…」


 やけに察しがいいな水餅の野郎。本当は凄い奴だったりするのだろうか。将来日本一の心理士とかになっていたり…なんて。


「あ、青水さんが帰ってきたぞ」


 と水餅が教室の後ろの扉の方を指さす。―がもちろん、俺がそっちを向くことはない。彼女も俺とはもう関わりなくないだろうし、俺としても彼女の姿を目にしたら気持ちが変わっちゃうかもしれない。


「なんか青水さんお前のこと見てる気がするけど。なんか目が充血してるし」


 そんなことあるわけがない。告白あれがあってから彼女が俺のことを見つめる理由なんてないし、目が充血してるのはゴミでも入ったんだろう。


「水餅のこと見てるんじゃないか?」


「え、まじ?」


「ワンチ?」


「いや、ないわ。今目合ったんだけどむっちゃ冷たい視線送られたわ」


「どんまい。じゃあ外見てたんだな」


「くっ、俺の恋が実ることはないというのかっ…」


「ってかお前彼女いるだろ」


「そうなんだよ。実はそうなんだよなぁ。羨ましいか!」


 こいつといると不思議と元気が沸いてくる。周りの環境って本当に大事なんだなと改めて思った。









 放課後になって帰宅しようと準備をしているとある人物から話しかけられた。


「藍木くん、ちょっといいかな?」


「神藤さん?どうしたの?」


 話しかけてきたのはクラス委員長の神藤愛華さんだ。確か青水さんといつも一緒にいてクラスの女子をまとめている一軍中の一軍。


 そんな陽キャの筆頭である神藤さんが俺に一体なんのようだろうか。神藤さんとは今まで事務関係で数回言葉を交わした程度しか関りはないけど。


「亜玖亜を諦めたって本当?」


 ああ、その話か。まあ彼女は青水さんの親友なんだし知ってて当然か。にしても話しかけてくるにはまだ理由が足りないと思う。

 今の確認だけなら青水さんから話を聞けば済む話だ。


「うん、本当だよ」


「なんでか聞いてもいい?」


「なんでって…神藤さんも知ってると思うけど、俺毎日のように彼女に告白していたじゃないですか」


「もちろん知ってるよ」


「それがついこの間100回に達したんです」


「100回もやってたんだ。それなら確かに諦めるよね~」


 どうやら分かってくれたらしい。


「じゃあ、俺は失礼するね」


「うん、また今度お話があるから亜玖亜とまた話に来るね」


「分かりました。楽しみにしてますね」


 と言って俺は荷物をまとめて学校を出た。


 そしてしばらく歩いて俺はふと疑問を感じた。


「さっき、亜玖亜さんと一緒って言ってなかったか?」

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