2話【冷たい感触】


俺が教室に入った瞬間、時が止まった。


みんなの目玉が俺に釘付けになり、口をポカンと開けている。

やれやれ、モテる男は大変だ。


ここはクールに挨拶しよう

「おはよう」

ふと教室を見渡すと見たことある顔ばっかりだ、…綾瀬凛月もいるし


あれ?何故みんな「おはよう」と返してくれないの?


モヤモヤするけどクールに挨拶してしまったからにはスムーズに席につかないと。


俺はスマホを開き事前に指定された机に向かい寝そべる体勢をとった。

何事も準備は大事だ。


次の瞬間、


「お、おい秋田!テメェ何しに帰ってきやがったんだ!」


ヌッ?


「ちょっと!本郷ほんごうくん!」

「うるせえ宮原!あ、秋田、お前退学になったんじゃ…」


既視感ある日焼け巨漢が俺に叫んでいた。


それにしても、人様に向かってテメェ、か。

進学校の生徒に似合わない言葉使い

そうやって宮原を怖気させるなよ。


というか色々誤解されてて困るな…


「俺は退学にはなってないよ。一時的に停学していただけさ。」


「はぁ?よくもをして、呑気に俺たちの教室に足を踏み入れるもんだ」


キレ方から知性を感じてしまう。

腐ってもここは秀才の集まりみたいだな


「デフォルトでNTRキャラみたいな外見が面白いな」


やべ、口が滑ってしまった。


今度こそ彼は殴ってくるのだろうか、というかNTRとかの意味知ってるの?


見た目に反して意外と心は純粋(ピュア)なのかも。



そんなことを思っている間に彼、本郷くんの拳にぶっ飛ばされた。



ーーーーーー



冷たいアイスパックの感触だ。

殴られた頬によく染みる…


痛い


「鼻血、止まらないね」


「いや、もう大丈夫、ごめん…綾瀬さん」


「問題ないわ」


天才少女、綾瀬凛月は俺がぶちのめされた後、

率先して保健室まで運んでくれたらしい。


これが宮原だったらよかったのになぁ


いかんいかん、こんな綾瀬でも善意で助けてくれたんだ。

感謝は示さないとな。


「ありがとう、綾瀬さん、本当に助かったよ。だけど今日は初日だし、色々あるだろ?俺のせいで綾瀬さんが行事を見過ごしちゃうわけにもいかないから…」


「あのさぁ」

と、彼女はため息を吐きながら言う


「私と秋田くんは同類でしょ?あんな堅っ苦しい行事、時間の無駄でしかないよ」


「いや、そういう問題じゃなくて…」


「そういう問題だよ」


ちくしょう、何も言い返せねえ。


「とりあえず、ここにいさせてもらえるかな?」


「もちろん…」

俺はこう答える他なかった。


ーーーーーー


各々保健室で読書に入り浸っているところ

ふと疑問に思った、俺はなんで綾瀬が嫌いなんだっけ?


自分と性格は似ているのに天才だから?

否、そんな単純な理由だったっけ。


こんな優しかったか?


「綾瀬さんって一年の頃から変わった?」


零れ落ちるように聞いてしまった


「えっ何急に。」


話しかけたら笑みを浮かべる美少女


「あのぉ、俺休学してたし、綾瀬さんのことあんまり覚えてないってか、その…」


「ぅ」


綾瀬凛月はしょぼーんとした顔になっていた。


「いやいや、綾瀬さんだけじゃなくて!ほら、ゲームと読書ばっかしてて記憶が少し薄れたというか。

綾瀬さんのことは印象的だからかなり覚えてる」


「ほんと?」


「ぁ、あぁ」


「なんか声が小さいけど」


「いや、印象的だよ。かなり」


「そう」


「うん」


気まずいわ、変なこと聞いた俺がおかしい人みたいだろ。


「それで、宮原とは上手くやってるの?」


衝突に宮原さんの名前を聞き、俺は存在しないお茶を吹き出してしまった。



「なななんでそんなこと聞くんだよ」


「だって。」


綾瀬は顔を上げる


「秋田くん、宮原のこと好きなんだと思ってた。」


天才は俺の心が読めるらしいな


けど、おかしいな

綾瀬は宮原さんを「宮原」ではなく、「怜」と親しげに呼んでいたはず。


もしかして、表向き仲良くしているだけなのか?


これは少し様子を見ないとな。


「俺と宮原さんなんて釣り合わないよ!

逆に綾瀬さんの方は宮原さんと上手くやってるの?」


「え?ま、まぁ…」


微かに動揺したのは見逃さなかったぞ


「友達だし、仲良くやってるよ」

やけに薄っぺらい返事だな。

めっちゃ視線が泳いでるし


「へぇ」

興味なさそうに答えてやる。

俺はあくまでクールキャラだから、クールに答えるんだ。


「そ、それで今日の朝言いそびれたことなんだけど..」


ムムッ、これは聞きたくない。


「秋田くーん、腫れが治ったらホームルームに急いだ方が良いわよー

もうすぐ今年度のレクチャーとカリキュラムについて説明があるらしいわ」

保健室中に響く先生の声が聞こえる。

助かったぜ。


「分かりました。綾瀬さんが今からホームルームに向かうらしいです!

ありがとう綾瀬さん!付き合わせてごめんね!」


「ちょ、ちょっと!」


俺の勝ちだ。


優雅に保健室で寝ていよう。



ーーーーーー


こうして俺の新学期は真正面パンチとアイスパックの冷たさにて始まった。







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エリートの異分子 二条 @nijou

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