第33話 穏やかな日々

 それからの数日間、俺は穏やかに過ごしていた。


 早朝からはティグリスとの手合わせ。そして昼は共に酒場へ赴く。午後からは再び手合わせ。暗くなると、また酒場へ。そのあとはティグリスを宿屋に送り届けて、街を徘徊。


 そんな感じで数日を過ごした。


 とはいえ、俺は酒場に行ってもほとんど食事を摂らず、眠ったのも一度だけ。街には風呂屋があったが、一回も行っていない。汗はかくものの、どうやら体は汚れてはいないし、イヤな匂いもしないのだ。それもまた、竜の血肉から出来た体のお陰だろうか。だから風呂屋には行っていないし、水浴びすらしていない。






 この数日、竜からの念話はなかった。


 敵は現れていないようで、餌の調達を必要とされることもなく、なんの呼び出しもなかった。


 そんな中、俺は少し退屈しつつあった。


 食事を思いっきり出来ない。ぐっすりと眠って夢を見ることが出来ない。同じ街に居続けているため、目新しいモノに出会わない。


 そういうことが蓄積し、退屈へと繋がっていった。


 ティグリスとの手合わせは、それなりには楽しい。しかし、なのだ。初めは純粋に楽しめていたが、今は違う。に留まっている。その理由は、本気を出せないからだ。そのことが、ティグリスとの手合わせがの域を出ない理由となっている。


 どれも俺には、どうしようも出来ないことだ。


 食べること、眠ること、本気で戦うこと。それは全て、今の体に起因している。だから俺には、どうすることも出来ない。我慢するしかないのだ。


 そして今日も、ティグリスとの手合わせ。






「さぁ、行きますよ! リュート殿!」


 笑顔でそう言ったティグリスは、とても楽しそうだ。その様子は羨ましくもあり、嬉しくもある。ティグリスの笑顔を見るのは好きだ。それは、俺の心に元気を与え、癒しを与え、心地よい気分に浸らせてくれる。


 しかし、それでも俺の心は満たされない。






 平穏な日々。それは、刺激の少ない日々。つまりは、元の世界の暮らしとあまり変わらない生活。せっかく異世界にいるにもかかわらず、ただ穏やかに過ごすのは、なんだか勿体ない。


 とはいえ俺には、どうすることも出来ない。


 刺激を求めてこの世界を巡りたいが、そんなことは出来ない。俺は、あの竜の傍にいないといけないのだ。出来ることといえば、せいぜい近くにある他の街や集落に行くことくらいだろう。だが、その程度の変化では、またすぐに刺激はなくなるに違いない。




 そしてまた日が変わり、日が暮れようとしている。



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