第20話 行ったり来たり
街から出ると、ティグリスが教えてくれた方向へと全力ダッシュで急ぐ。ダッシュというか、超低空ジャンプの連続だが。
そして草原を駆け抜け、森の中へ。ジャンプの距離を縮めて木々のあいだをすり抜け、どんどん奥へと突き進む。しかし、どれだけ進んでもブラッティーベアーの死骸が見つからない。
あれ? あれ? どこにあるんだ?
どうやら俺は、また迷子になってしまったようだ。しかし立ち止まって考えたところで、どうにもならないだろう。とにかく辺りを駆け回る俺。
迷いに迷い、やっとブラッディベアーの死骸を見つけた頃には、新たなブラッティーベアーが一頭いた。またもや共食いの現場に遭遇したのだ。
他に食うモノ、ないのかよ・・・。
呆れつつも、ブラッティーベアーに向けて一直線にジャンプ。相手は食事に夢中で、俺の存在に気づいてはいない。
ブラッディベアーの首を目掛けて直線ジャンプをしていた俺はそこに到達すると、その首に両手で
・・・とは、イカなかった。
両手を離すのが遅かったのか、首を捻った勢いにより、ブラッティーベアーの体は宙に舞っていた。そして、俺を目掛けて落ちてきた。慌ててその体を両手で支える。そうして体操選手から重量挙げの選手へと早変わりした俺。
危ねっ! ・・・でも、案外軽いな。
ブラッティーベアーの体を二度上げ下げ。明らかに重量級の巨体だが、それを難なく持ち上げているこの体はやはりスゴい。
・・・おっと、遊んでる場合じゃないな。
さっきから、ずっと竜からの念話が届いている。催促の声だ。そして俺は、その声を無視し続けている。答えたところで餌を早く届けられるワケじゃないからだ。
俺の傍には、ブラッティーベアーの死骸が4つ。
一頭は両手で持ち上げているコレ。残りの三頭はそれぞれ、〈ほぼ骨だけ、半分食われている、全くの手つかず〉という状態。
三頭半か。これで足りる・・・かな?
あの竜の体はとてつもなく大きい。ブラッティーベアーも大きいが、比べ物にはならない。だから、アイツがどれくらい食べるのか、という予想が全く付かない。
とりあえず、手つかずの二頭を持って行くか。
俺は両手で持っているブラッティーベアーを運び、もう一頭の手つかずの上へと乗せる。そして、その二頭を同時に持ち上げようとしたが、上手くイカない。上に乗っている方がずり落ちるのだ。
引き
あ、その前に!
俺は木の枝をピョンピョンと跳んで駆け上がり、辺り一面の木の、頂上付近の枝を
よし、目印は出来たな。
一度に二頭半の肉は運べなさそうだ。最低でも二往復は必要となる。だから俺は、戻ってくるための目印を作ったのだ。また迷子にならないように。
・・・一頭ずつ運ぶか。
俺はブラッティーベアーの巨体を眺めながら、同時に複数体を運ぶことは諦めた。そして手つかずの一頭を持ち上げて、全力の超低空ジャンプで駆けだした。
やがてあの山頂に戻り、念話を再開。とはいっても、竜からの念話はずっと続いていた。再開するのは、俺からの念話だ。
《おい、持ってきたぞ》
《遅いぞ、なにをしておったのだ。しかも我の声を無視しおって》
《ギャアギャアとうるさいんだよ。あんなに催促しても、作業は早くならないだろうが》
《ふん、口答えをするな》
そこで、ふと思う。
あれ? アイツ、ここから出てこれるのか?
俺の目の前には、小さな穴。その大きさは、人間が二人同時に通れる程度。どう考えても、あの竜は通れない。それどころか、ブラッティーベアーの死骸も通らない。
もしかして・・・、肉を小さく捌いて、チマチマと入れないとダメなのか?
そんなメンドクサイことは、したくない。しかし、それ以外に方法はなさそうだ。しかしまた、ふと思う。
いや、待てよ? アイツ、俺がこの世界に来る前は どうしてたんだ? ・・・あの洞窟から出てこれないと、餌は取れないよな?
そこで俺の頭に浮かんだのは、巨大ロボットの発進シーン。それは、山や湖が横に割れて、ロボットが出てくる仕組みだ。
・・・え? もしかして、この山、割れるのか!? ど、どうしよう! どこかに避難しないと!
あたふたと慌てる俺。すると、穴からなにかが出てきた。俺の目の前に、突然丸っこいモノが現れたのだ。
それは、十センチ程の丸くて赤い塊。見た目はまるで、リンゴのようだ。いや、少し違うな。リンゴの妖精だろうか。ソイツは二つの小さな翼をパタパタと動かし、宙に浮いている。
角の生えた顔が付いていて、チョロッとした尻尾のようなモノも見える。更によく見ると、四本の小さな足もある。しかし目立つのは、丸い胴体だ。その体に比べると、それ以外のパーツは極めて小さい。
・・・なんだコイツ?
不可解なモノを目にした俺は、竜に念じる。
《おい、変なのが出てきたぞ。コイツはオマエの知り合いか? 俺みたいなパシリか?》
「パシリとは、なんだ? どういうモノだ?」
竜からの念話はなく、その代わりに、やや甲高くて細い声が聞こえた。その声がした方へと顔を向ける。するとそこには、リンゴの妖精。
《なぁ。コイツ、喋れるのか?》
「無論だ。今更なにを言っておる」
またも聞こえた細い声。それはリンゴの妖精から発せられたようだが、その口は動いていなかった。
あれ? もしかして・・・。
リンゴの妖精を見ていた俺は、注視する。
丸い深紅の胴体、白い角、一本の尻尾、二枚の翼、四本の足。そして、なんだか見覚えがあるようにも思える顔。
「オマエ・・・、あの竜なのか?」
目の前のリンゴの妖精に問いかけた俺。すると返事が。
「ふむ、そうだが?」
「小さくなってるっ!?」
驚いたことに、いま俺の目の前にいるのは、あの深紅の竜のようだ。言われてみれば、そう見える。しかし元の姿とは大きく違う。大きさが違うのは勿論のことだが、体の比率がおかしい。やたらと胴体が大きい。それにより、怖さも威厳も全く感じられない。なんなら可愛くも見える。まるで、ぬいぐるみのようだ。
「・・・ホントに、なんでもアリだな」
「我は極めて優秀なドラゴンだからな」
あ~、はいはい。分かったよ。
その口癖を聞くに、間違いない。コイツはあの竜だ。見た目は変わったが、中身は変わっていない。
「あれ? もしかしてその体なら、こんなに要らなかったか?」
小さくなった竜とブラッティーベアーを見比べると、明らかにキャパオーバーに見える。どう考えても食べきれないだろう。
「そんなことはない。これでは足らん」
そう言うと竜は大きくなり、元の大きさに、元の姿に戻った。そしてブラッティーベアーに噛りつき、その半分を一口で飲み込んだ。
「もっと持って来い」
俺は、残りのブラッティーベアーの死骸を急いで取りに向かった。
結局、三往復した。
死骸を取りに行くと、またもや新たなブラッティーベアーがいた。ソイツは、半分食われていた死骸を貪っていた。前回と同じ方法で首を捻り、ソイツを仕留める。そして山頂に運び、また森に戻る。そのときには、新たな獲物は現れず、手つかずの一頭を持ち帰った。そこで竜の食事は終了となった。
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