第14話 割り込んでしまった

 俺の目に映ったのは、奇妙な生き物と、剣を構えている金髪の女。


 ソイツらは対峙している。どうやら戦いの最中さなかに、お邪魔してしまったようだ。


 このまま見なかったことにして、退散しようかな?


 そう思い、フェードアウトしようとすると、不意に音が鳴る。


 ダンッダンッ!


 女が地面を蹴った。その音にビクッと体を震わせた俺。


 な、なんだ!? 怒ってるのか? 獲物を取られると思ったのか? そんなつもりは俺にはないぞ!


 女の横顔に向けて心の中で弁解をしていると、彼女は奇妙な生き物へと突っ込んでいった。


「早く逃げろ! コイツはヤバい!」


 女が叫んだ。どうやら俺の身を案じてくれているようだ。


 女の突進に対し、奇妙な生き物は丸い胴体の向きを変え、角が生えている部分を彼女から隠すようにした。そして彼女に向け、白い液体のようなモノを発射。間一髪でそれをかわす女。しかし急激な回避行動は、彼女の体に無理をいたようだ。


 女はバランスを崩し、倒れかけている。それを見計らったかのように、奇妙な生き物が彼女に飛びかかる。



 危ないっ!!



 俺の体が動いた。それは咄嗟の行動だった。



 別に何か考えがあったワケではない。ただ、女は直前に俺のことを気に掛けてくれた。そう思えた、そう感じた。そして、それだけで充分だった。女と奇妙な生き物───そのどちらに味方するか。それを決めるには、充分だったのだ。



 俺は全力で跳んでいた。そして、奇妙な生き物にドロップキックをぶちかました。


 豪快に吹っ飛ぶ奇妙な生き物。その体は、奥の木にぶつかると大きな音を立てて幹をへし折り、地面へと落下した。


「ケガはないか?」


「あ、あぁ」


 左の肩越しに女の返事を聞くや、二段階の超低空ジャンプ。斜め移動で敵へと近づくお馴染みのだ。そして奇妙な生き物に対し、全力の右フック。


 しかし、手応えはなかった。


 奇妙な生き物は、左に跳んでいた。俺の目はその動きを追う。素早い動きだったが、充分に追えた。視界には敵の姿。しかし俺の目に映ったのは、それだけではなかった。


 白い液体。


 さっき女に向けて発射されたアレが、俺へと向かってきていた。


「うぐぅっっ!!」


 敵の攻撃が左胸に直撃。その威力によって、俺の体は二メートルほど押された。


「だ、大丈夫か!?」


「イイから逃げろ!」


 遠くから心配する女の声を掻き消すように叫んだ俺。


 地面にはわだちのような二本の線。俺の体が押された跡だ。左胸からは激痛と血がこぼれている。ボタボタと垂れる俺の血。激痛が走る胸の反対側───つまりは背中を思わず触る。


 貫通は、してないみたいだな。


 液体攻撃を受けてからも、俺の視線は敵から離れていなかった。謎の液体を発射した奇妙な生き物は、空中で丸い胴体を反転させ、木の幹に到着。そこに三本の足で踏ん張り、俺の方へとすでに跳んできている。環状に配置されている六本の角をこちらに向けて。


 奇妙な生き物の動きは速い。山の上で戦った五人とは比べ物にならない。しかし角の攻撃は俺なら避けられる。だが、あえて避けない。


 奇妙な生き物は反応が良く、多くの手足を使って素早く動く。しかし飛行が出来ないのなら、空中ではその動きを生かせない。今は攻撃が当てられるチャンスなのだ。


 そう考えた俺は環状に並ぶ六本の角の中心へと、右ストレートをぶち込んだ。


 大きな衝撃。敵の突撃と俺のパンチが正反対から ぶつかり、右の拳にとても大きな衝撃が伝わってきた。


「ぐぁっ!!」


 その衝撃に、その痛みに、俺は声を上げた。しかしその威力は、敵にも伝わっていた。


 またしても吹っ飛ぶ奇妙な生き物。今度は複数の木をへし折り、遥か遠くでその体は止まった。そして消えた。しかし、消滅したワケではない。


 何本目かの木にぶつかり、ようやく止まった奇妙な生き物。ソイツの体は地面に落ち、折れた木の幹によって隠されたのだ。


 俺はすかさず敵の元へと駆ける。出来る限り、速く。


 程なくしてその地点に着くが、敵の姿はない。素早く左右に首を振り、周りを見るが見当たらない。


 ・・・逃げたのか?


 その疑問に答えるかのように、体に激痛が走る。そして俺は、大きく左に振られた。


「がぁっ!!」


 右の脇腹をやられた。おそらくは、あの液体による攻撃だろう。傷口を確認することもなく、俺は右を見る。


 視線の先には奇妙な生き物。腕二本を使って丸い胴体を支え、三本の足を俺に向けている。その中心部分には小さな突起。謎の液体の発射元に違いない。


 俺は跳んだ、敵に向かって一直線に。



 奇妙な生き物の目は、腕らしき物体に並んでいるモノで合っている───のだとしたら、二段階ジャンプは意味がない。ソレは敵の視界から一時的に消えるためのモノ。奇妙な生き物の目は八つもあり、その土台となっている腕は四本もある。となれば、奇妙な生き物の視界から消えることは難しい。ここは一瞬でも速く近づいた方がイイ筈だ。



 地を這うように低く跳ぶ俺の目に、白いモノが映る。また、あの液体だ。


 ここで二段階ジャンプ。液体攻撃をすんででかわし、敵の前へと着く。そして打ち下ろすように、渾身の右ストレートを命中させる。



 ゴボォッ!!



 俺のパンチにより、大きな音が鳴った。しかし、ダメージはほとんどなさそうだ。これまでに敵の丸い胴体には、ドロップキックと二発の右ストレートを食らわせた。けれど、その体を突き破るどころか、血すら出ていない。


 奇妙な生き物の丸い胴体は、かなり頑丈だ。とはいっても、硬いワケではない。それなりに弾力がある。その弾力により、衝撃を吸収しているのだろうか。



 俺のパンチによって、丸い胴体を地面に着けた敵。間髪を入れず、俺は左ストレートもお見舞いする。そこからは高速パンチの嵐。丸い胴体をボコボコにする。


「アギャッ、アギ、アギャギャッ!」


 数発のパンチのあと、奇妙な生き物から発せられた奇妙な声。これは、効いている───という証拠だろうか。それとも笑っているのか。その意味合いは分からないが、とにかくメッタ打ちにする。


 何発殴っただろうか、暫くすると敵が大きく喚く。


「アギーーーッ!!!」


 けたたましい声とともに腕を二本伸ばし、俺の両腕に絡ませてきた。それにより、パンチの速度が急激に落ちる。そして三本の足で立ち上がった敵は、残りの二本の腕と、更には三本の尻尾までをも俺の両腕に巻き付けて、押し返してくる。


 一瞬フワリと浮いた俺の体は、すぐに地面へと戻る。そこからは、力比べ。俺と奇妙な生き物との、押し合い。


 敵は四本もの腕と三本の尻尾を使い、押してくる。そんな押し合いは、拮抗。


「うおぉぉぉぉぉおおおっっっ!!!!!」


 俺は雄叫おたけびを上げ、渾身の力を体に込めた。おそらく、蟀谷こめかみの血管は浮き出ているだろう。そうして徐々に、俺が優勢となる。ジワジワと敵の方へと伸びる両腕。


 しかし、そこで気づく。


 あ、これ・・・。殴れないよな?


 そう。徐々に押し込んではいるが、そのスピードは非常に遅い。このまま押していても、殴ることは出来ない。


 そこで方針転換。


 俺は、力を逆方向に向けることにした。押してもダメなら引いてみな、とばかりに。


 両腕に絡み付いている敵の腕を掴んで、思いっきり引っ張る。それと同時に丸い胴体に足を掛けた。すると奇妙な生き物の力と、俺の力が同じ方向に働き、大惨事となる。


 ブチブチブチッ!


 寒気のする音。飛び散る青紫の液体。そして俺の手には、根元からキレイに千切れた二本の腕。


「アギャーーーーーッ!!!!!」


 悲鳴らしき盛大な声と同時に、俺の両腕を離した奇妙な生き物。俺の体は大きく後ろに飛び、首から地面に落下。若干の痛みを感じたが、そのままグルンッと後転。即座に千切った腕を投げ捨てて、超低空ジャンプで敵へと近づく。


 奇妙な生き物は地に倒れ、痛みにえ兼ねて暴れているようにも見える。


 再び敵の元に着いた俺は一本の尻尾を両手で掴み、丸い胴体を踏みつけ、思いっきり引っ張った。


 するとまた、おぞましい光景が。


 千切れる音、飛び散る血、抜けた尻尾、大きな悲鳴。


 そんなことを何度か繰り返すと、奇妙な生き物は悲鳴を上げなくなり、腕と尻尾がなくなった丸い胴体をピクピクと震わせるようになった。


 ・・・トドメだ!


 俺は敵に馬乗りになり、またもや高速パンチの嵐。丸い胴体をボコボコにする。



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