第3話 目を開けると・・・
「んんっ・・・。ん、んん?」
俺は
はぁ・・・。なんか、スゴい夢だったな。───
おかしな夢のことを思い出していた最中に、右の上半身に強烈な痛みが走った。俺は慌てて、その部分に左手を当てる。
しかし、あるべき筈のモノがない。左手にその感触が伝わらない。そのことより、俺の頭に疑問が浮かぶ。
ん? あれ? なんか変だぞ?
そして俺は、顔をゆっくりと右に向ける。
すると、右腕がなかった。右腕というか右肩も、なんなら右胸もある程度なかった。しかも血まみれだ。
「なんじゃこりゃあっっ!?」
驚愕し、絶叫した俺の耳に、声が届く。
「ふん、起きたか」
その声には聞き覚えがあった。そう、あの声だ。あの竜の声だ。
俺は顔を正面に向けた。すると目の前には、青白い岩肌。あの洞窟の岩肌があった。その光景に、俺は思う。
・・・は? またか? いや、まだか? まだ夢の中なのか?
戸惑う俺の耳に、またあの声が。
「余計な手間を掛けさせるな」
キョロキョロと辺りを窺うが、あの竜はいない。なにがなんだか分からず、混乱する俺。すると、またまたあの声。
「後ろだ」
その声に促され、俺は顎を大きく上げた。
視線の先には、あの深紅の竜の顔。俺は更に顎を上げる。するとやや長めの首も見えた。竜の姿を視認して、俺は大いに戸惑う。
おいおいおい。どこまで続くんだよ、この夢は?
そう思った直後、顎を上げ過ぎたせいで、俺の体はコテンッと後ろに倒れた。それにより、竜の胴体の一部も視界に入る。その姿を見るに、やはり間違いなく、あの竜だ。
「どうした? また・・・、いや、まだ我と戦うか?」
「・・・いいや、オマエには勝てそうにない」
あれだけの力の差を見せつけられたら、もう戦う気力なんてない。不本意ながら降参するしかない、俺の夢の中なのに。
「ふん、やっと分かったか。それでは体を治してやろう」
そう言うと竜は、俺の失われた右上半身の辺りに顔を近づけ、口からなにかを落とした。
ゴンッ、という音とともに地面に落ちたそれは、白い大きな塊。そして、その直後には赤い大量の液体。どうやら竜の牙と血のようだ。
そのあと竜は顔を上げ、大きく口を開いた。すると今度は金色の粒子のような、
やがて竜が落とした牙と血は消えて、その代わりに俺の右上半身は元に戻った。更には、血にまみれてボロボロになっていた白い服も元通り。
「な、なんだ、今のは?」
俺は立ち上がり、元に戻った右腕を左手でさすりながら竜に向き直って、聞いた。すると竜はその顔を、再び俺の目の前に近づけてくる。
「蘇生術だ。お前の体を治してやった」
「・・・意味が分からない、オマエは
「まだそんなことを言っておるのか。これは夢ではない、現実だ。お前は、我に召喚されたのだ」
「・・・・・・・」
そんなことを言われても、どういう反応をすればイイのか分からない俺は、ただただ無言。
とにかく納得がいかない、いく筈がない。夢じゃない、だなんて。こんなことが現実だとは、到底信じられないのだ。しかしまぁ、どうやら単純な夢ではないようだ。
そこまでは理解した俺は渋々ながらも、とりあえず竜の話を聞いてみることにした。
「我は狙われておる、この世界の者どもにな。お前は我に代わり、そやつらを
「この世界、だって? 地球には、竜はいないだろ?」
「チキュウ? なんだ、それは? ここは・・・、この世界は、お前がいた世界とは、異なる世界だぞ」
「そうなのかっ!?」
ここに来て、俺はようやく理解しつつあった。これはつまり、異世界に召喚された───ということのようだ。
となると、ここは竜がいるような世界───いわゆるファンタジー世界というヤツなのだろうか。しかしまさか、こんなことが本当にあるなんて・・・。
なんとなく現状を把握しつつある俺に、竜が言う。
「それにだな、我はドラゴンだ。竜ではない」
「・・・いや、同じだろ?」
「我はドラゴンだ!」
「・・・・・・・」
なんなんだよ、そのコダワリは。
竜でもドラゴンでも構わないとは思うが、今はそんなどうでもイイ話をしている場合ではないだろう。だから俺は、先程の竜の話について、聞く。
「んで? 狙われてる、って言ったか? なにか悪いことでもしたのか?」
街で暴れたり、人を食べたり。そういうことをしているのなら狙われても当然だ、自業自得だ。そんなヤツなら守る必要などない。そもそも、そんな義理はないのだが。
「いや、悪さなどはせん。我を狙う者どもは称号を欲しておるのだ。ドラゴンを倒した者は、【
称号───つまりは肩書き欲しさに殺すのか。それは竜にとっては災難だな、同情する余地はある。だけどなぁ・・・。
「自分でなんとかしろよ。俺には関係ない、イイ迷惑だ」
「お前の都合など知らん。我は、我の都合で動く」
おいおい、ワガママなヤツだな。ホントはなにか悪いことをしてるんじゃないのか?
俺は呆れて、皮肉をかます。
「ソイツらが強いから、俺に頼るのか?」
竜は俺より強かったから、そんなことはないだろう。しかし、もしかしたら
「ふん、そんなわけはあるまい。お前は我よりも弱い。お前に強者の相手など務まらん。単に、寄り付く虫ケラを払うのが面倒なだけだ」
なるほど、害虫駆除を外注する感じか。たしかにメンドクサイもんな。しかしだな・・・。
「断る、そんなことはしたくない。とっとと元の世界に戻せ」
害虫駆除は俺だってメンドクサイのだ。わざわざそんなことをしたくはない。しかも駆除の対象が虫ではなく、人間であるなら尚更したくなんてない。
「断る、だと? 先程は、我との戦いを楽しんでおった様子だが?」
たしかに楽しかった。ワクワクして、ゾクゾクした。しかし、それはそれ。話が違う。
「あれは夢だと思ってたからだ。だけど現実なんだとしたら、早く元の世界に戻りたい。俺には俺の生活がある」
そう。特に変哲もない、至って普通の生活ではあるが、それでも俺には俺の生活があるのだ。家族もいるし、多少の友達もいるし、恋人も───いつかは出来るだろう。だから俺は、元の世界に戻らなければいけないのだ。
「ふむ、それならば心配はない。これは現実だが、お前にとっては、夢のような世界───とも言える」
「・・・どういうことだ?」
またワケの分からないことを・・・。夢じゃなく現実なのに、夢のような世界───だと? コイツはなにを言っているのだろうか。
「我は、お前の魂のみを召喚した。体は元の世界にある。そして、お前のいた世界に干渉して分かったのだが、この世界とお前のいた世界とでは、時の流れ方が異なっておるようだ」
「・・・つまり、なんだよ?」
まどろっこしいな、分かるように説明しろよ。俺は賢くないんだよ。
「ふむ、つまりだな・・・。この世界で百万年の時が流れても、お前の世界では一日ほどしか時は流れん、ということだ」
・・・ホントかよ。そんなこと、あるのか? それになんで、そんなことが分かるんだ? しかも・・・。
「百万年って、なんだよ? そんなに生きてられないだろ?」
「それはまぁ、例えばの話だ。しかし、少なくとも三万年は生きるだろう」
「はぁ!? 俺は人間だぞ? いや、この世界の人間が何年生きるかは知らないけど、俺の世界では人間は百年くらいまでしか生きられないんだよ」
「言ったであろう。我が召喚したのは、お前の魂のみ。今のお前の体は、我の体から造り出したモノだ」
ん? そういえば・・・、さっき牙と血でこの体を治してたな。
「え? じゃあ・・・、この体って、オマエの牙と血で出来てるのか?」
「正確には、牙、血、
え?
魔力というのは、たぶんあの金色の粒子みたいなヤツだろう。自分の血肉を材料にして魔力でこの体を造り、そこに俺の魂を嵌め込んだ───ということか。となると、魂は動力源───ってことになるのだろうか。今の俺の異様なまでの身体能力は、この体が竜の血肉から造られたモノだから───ということか。
「我はすでに、数万年の時を生きておる。そしておそらくは、あと三万年は死なぬ。
「いやいやいや、三万年って! そんなに長いあいだ、オマエのお
「無論だ、役目を終えれば帰してやる。そうだな、とりあえずは・・・、一万年を
一万年? えっと、百万年が一日だったから、その百分の一で・・・、十五分くらい───なのか? それならまぁ、イイのかな?
「どうだ?
竜の言葉に惑わされそうになっていた俺だが、そもそもの前提を再び疑う。
「・・・時間の流れ方がそんなに違うって、いくらなんでも変じゃないか? どういう理屈だよ? それに、なんでそんなことがオマエに分かるんだ?」
「そんなことは知らん。この世界も、お前のいた世界も、我が造ったわけではないからな。しかし、時の流れ方が異なっているのは間違いない。我には分かる。分かるのだから、分かるのだ」
「なんだ その説明は・・・。いや、説明にもなってないぞ・・・」
う~ん・・・。奇妙なことばかりだけど、たしかに さっきの戦いは、なかなか面白かった。本当に現実世界で十五分しか経たないんなら、やってみてもイイかもしれないな。・・・ん? 待てよ?
「おい。もしこの世界で死んだら、俺はどうなるんだ?」
「元の世界に戻るだけだ。ただし、自死の場合は魂が消滅する。その場合、お前は自らの存在を否定したこととなり、元の世界の体も死ぬ」
「リタイアさえしなけりゃ、俺にリスクはない───ってことか?」
「ふむ、そうなるな」
俺の心は固まりつつあった。しかし気になることが、まだいくつかある。
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