第47話 タイムリミット(2)


 猫カフェを後にした俺は近くのスーパーへと向かう。

 頼まれた食品を購入するためだ。


 業務スーパーが近くにあったのなら、もう少し安く買い物が出来たのだろうが、駅にも格差があるので仕方がない。


 いや、駅というよりも道路に関係しているのだろうか?

 大型店は街道かいどう沿いに多い気がする。


 車での買い物客がターゲットのようだ。

 その一方で、駅周辺のスーパーは主婦や近隣の住民がターゲットなのだろう。


 以前は「安さ」や「家から近い」という理由で選ばれていたが、商品の種類や鮮度も重視されるようになった。


 健康志向や高品質など、PB商品もだいぶ充実した感じがする。

 またNB商品と比べると「安かろう悪かろう」のイメージだった。


 だが品質にもこだわるようになり、あじも格段に良くなった。

 同じ系列のスーパーでも、客層に合わせて商品の陳列が異なる。


 そのため「スーパーは使い分けるモノ」というのが定石じょうせきだ。


(新商品のチェックも欠かせないしな……)


 今となってはスーパーへ行く楽しみのひとつだ。地域に合わせた商売している業者だからこそ、客のニーズを把握はあくし、商品開発にかせるのだろう。


 それにPB商品を開発することで他のスーパーとの差別化もはかりやすくなる。

 結果、固定客を得ることが出来て、売上アップへとつながるワケだ。


 PB商品は価格の調整や戦略にもとづいた生産が店側で可能になるうえ、顧客の囲い込みが出来るので、店側としてもあつかうのは面白いのだろう。


 だがその反面、在庫リスクをう危険性やNB商品と比べて品質の不安定さがある。


 さらにはPB商品ということで自分たちが責任を持ち、クレーム対応もしなければならない。


 しかし、大量生産が主流だった頃は「どこに行っても同じ商品しか売っていなかった」と聞く。


 その状況から考えると、顧客の声を商品に反映してくれるので「応援したくなる」というモノだ。これがマーケティング戦略の高度化というヤツなのだろう。


 米国ではPB商品による食費争奪戦が激化していると聞くが――


(もはや日本のPB商品もあなどれないな……)


 俺も見習うべきかもしれない。

 そのためにも呪詛師じゅそしとしてなにか『テーマ』を持った方が良さそうだ。


 言われたことをこなしているだけでは、やがて頭打ちになる。

 モチベーションも上がらないだろう。


 呪詛師として「親しみやすさ」「アイデンティティの確立」「得意分野による差別化」について、一度考察する必要がありそうだ。


(人類がスーパーから学ぶべき事は多い……)


 そんなことを考えつつ、俺は最後に母が「美味おいしくて健康にもいいんだから」と言っていたPB商品のヨーグルトを買い物カゴへ入れる。


 あやうく、忘れるところだった。

 最近の猫森家うちの冷蔵庫には、このヨーグルトが常備されている。


 趣味のお菓子作りだけではなく、ドレッシングやタルタルソースにも使っているようだ。


 劇的にあじが変わる――までとは言わないが、味が変わったことくらいは俺の舌でも分かる。もともと、料理好きな面があったので色々と試しているらしい。


 俺が知っている知識では「スパイスカレーにヨーグルトを入れる」というのがある。さわやかな酸味と乳脂肪分の持つコクを加えるためだ。


 更にトウガラシなどに含まれる辛味成分の『カプサイシン』は脂溶性で乳脂肪に溶けやすい性質を持つ。つまり辛味からみやわらげてくれる。


 本格的なカレー屋に行くとライタ(ヨーグルトにきざんだ野菜や果物などを混ぜ、クミンやコショウなどで調味したサラダ)が付いてくるそうだ。


 うちの母親のことである。


(その内、カレーにもヨーグルトを入れそうだな……)


 無事に買い物ミッションをクリアし、帰路につく。俺がアプリのメッセージに気が付いたのは、家に帰って夕飯を済ませ、部屋に戻った時だった。


 スマホを確認すると【可愛い猫ちゃんたちですね。仲良くしましょう】といった内容のメッセージが返ってきていた。


 実際は、このアプリで使える特殊文字(猫の絵文字)が使われているのだが、だいだい合っているだろう。俺は【ありがとうございます】とメッセージを送る。


 『ありがとう』と入力すると猫の絵文字に変換できるようだ。

 ちなみに語尾にも「にゃ」だの「みゃ」だの設定できるらしい。


(猫になりきって会話しろ、ということか……)


 初期設定のまま使っていたので気が付かなかったが、肉球ポイントを使うことで使える絵文字などを追加できるみたいだ。


 すると画面に【キツネコさんが入国したにゃん】と表示された。

 『キツネコ』は綺華のハンドルネームである。


 ちなみに俺は『モリネコ』だ。まあ、ひねりはないが、アプリのコンセプト上『〇〇ネコ』とするのが一般的らしい。


 少し休んだら風呂にでも入ろうと思っていたので、タイミングとしては丁度よかった。軽い気持ちでチャットを開始したのだが、その考えは甘かったようだ。


 即座に長文のメッセージが返ってきた。猫についての質問がほとんどだが、回答すると倍の文字数になってメッセージが返ってくる。


(コレ、終わらないヤツだ……)


 どうやら、メールやチャットでは饒舌じょうぜつになるタイプらしい。

 読むだけでも一苦労である。


 しかし、八月朔日ほずみの言っていた通り、猫の写真も好評のようだ。

 どうやってったのか聞かれる。


 実は猫と会話できるんですよ――とは言えない。【猫に好かれる体質みたいです】と適当に返したのだが、それで終わるワケがなかった。


 【うらやましいです。私もそんな体質に生まれたかった】というやくでいいのだろうか?

 そんなメッセージが返ってくる。


 実際は体質ではなく【呪い】なので色々と大変なのだが、チャットで彼女に語るべき内容でもない。れていないので猫文字を理解するのにも時間が掛かる。


 加えて、チャットの相手である綺華は引きこもりなので時間だけはあるようだ。

 会話を終わらせる気がないらしい。


 俺が慣れないチャットに四苦八苦していると、あっという間に時間が過ぎてしまった。仕方なく、風呂を理由に今日のチャットは終わりにする。


 【おやすみなさい。また明日、この時間に】としておけばいいだろう。

 すでに8時を過ぎていた。


(引き籠りにとっては、これからが元気になる時間帯なのかもしれない……)




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 (ฅ•ω•ฅ)フナーゴ 猫森くんは主婦目線?

 いえ、経営者ですね。

 スーパーから人生を学びます。


 (*ฅ́˘ฅ̀*)♡ 綺華ちゃんと秘密の遣り取り

 かと思いましたが、猫森くんは苦労して

 いるようです。

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