第46話 タイムリミット(1)


綺華あやかという少女が受けている【呪い】の影響が強いようなので、母親とは離した方がいいのでは?」


 帰りのタクシーの中、俺は白鷺しらさぎ女史へ、そんな提案してみた。【呪い】を受けている人間のそばに居るだけで、心の弱い人間は影響を受けてしまう。


 それが理由で「精神を病んでしまう人間もいる」と聞いていた。

 母親の様子を見た限り、弱っているのは明白だ。


 すっかり【呪い】の影響で感情をむしばまれてしまっている。

 残念だが、娘とは離れて暮らした方がいい。


 しかし白鷺女史からは「調停が終わるまでは難しいわね」と返されてしまう。

 確かに、このままの状態が続けば離婚調停で終わる話だ。


 今、娘と別居して「わざわざ裁判で不利になる状況を作る必要はない」という事なのだろう。だが、逆に言えば、早く解決しないと娘よりも――


(あの母親の方が先に壊れるかもしれないな……)


 想定していたよりも、タイムリミットは近いようだ。

 早く行動にうつした方がいい。


 都合よく、その日の研修バイトは事務所へ戻った後、報告書の書き方を教わって終わりとなった。俺としては特になにもしていない。


(こんな事でいいのだろうか?)


 と疑問に思ったのだが、呪詛師じゅそしも【呪い】の影響を受ける都合上、休息をとる必要があるそうだ。


 負の感情に蝕まれた結果「呪詛師が犯罪に手を染める場合ケースは珍しくない」という。

 そうなると当然、別の呪詛師が犯行におよんだ呪詛師の相手をしなければならない。


 ただでさえ数の少ない呪詛師同士でつぶし合い、かつ評判を下げるような事態はけたいのだろう。


 所長には「休息をとることも仕事のうちさ」とさとされる。

 また「いやぁ、初日から現場とは、ご苦労様」などと言っていた。


 しかし実際の所は、最初から俺を白鷺女史に同行させるつもりだったのだろう。

 俺というよりも――


(白鷺女史に休息をとらせる事が目的だったのかもしれないな……)


 そう考えると第一印象は「人の良さそうな昼行灯ひるあんどん」といった感じの所長だったが、人を動かすことに長けた「したたかな相手」のように思えてくる。


 所長も白鷺女史も「見た目通りの人間」というワケではないらしい。

 また、そんな理由で時間が出来た。


 なので俺は、早めに帰ることを母親へ連絡する。

 案の定、買い物を頼まれてしまったが仕方ない。


 俺は探偵事務所からの帰り道、スーパーへる前に猫カフェ『マッスルキャット』へと足を運んだ。


「ミャー」(よく来たな猫森よ。世界の半分をくれてやろう。我のモノとなれ)

「フナーゴ」(我が名はジャスミン。さぁ猫森、一緒にダンジョンへ行きましょう!)

「フミャ~」(猫森ぃ~、足の匂いをがせろよぉ~、ウヘヘッ♪)


 と猫たちがむらがってくるので追っ払う。猫との会話が「どの程度、成立するのか?」その実験で何度なんどか来ているため、店長とも顔見知りだ。


 ボディビルの大会に出るのが趣味なのだろうか?

 ピチピチのシャツを着たムキムキの店長が営んでいる。


流石さすがに猫耳のカチューシャは似合わないと思うのだが……)


 この店の制服のようなので仕方がない。俺はそんな店長に撮影の許可をもらってから、一番人気の白猫に交渉を持ち掛ける。


 オヤツと引き換えに写真をらせてもらう約束をした。


「ニャー」(くっ、殺せ! 体は好きに出来ても、心まで自由に出来ると思うなっ!)


 などと言われてしまう。嫌な猫である。

 また、そんな俺の邪魔をするかのように、


「ミャオー」(猫森、ネコネコ教へ入信する気になった?)

「ニャニャ」(買った武器や防具は装備しないと意味ないぜ)


 と猫たちにからまれる。

 折角なので、コイツらの面白おもしろ写真も撮っておこう。


(しかし、この店の猫は変なのしかいないな……)


 クラスの女子に教えてもらった『オススメのお店』なのだが、どうやら俺は聞く相手を間違えてしまったらしい。


 何故なぜかメニューのドリンクにプロテインがあるのも謎だ。

 頼む客がいるのかは不明である。


 きっと店長が自分で飲むのだろう。

 取りえず、余計なことを考えるのはめだ。


 店で人気の白猫には、女性客に受けのいいポーズをしてもらう。

 後はこの写真をメッセージと一緒に綺華へ送ればいいだろう。


 まずは【アプリ初心者です。仲良くしてください】といった感じのメッセージで様子を見る。


 更に面白写真のURLを添付してから【猫の写真を撮るのが趣味です。感想をくれると嬉しいです】としておこう。


(これで綺華という少女がメッセージを返してくれればいいのだが……)


 俺は期待しないで待つことにした。しかし、クラスの女子が言うには「猫カフェはいやされる」という事だったが、ぜんぜん癒されない。


 念のため、他の猫たちの面白写真も撮影しておく。

 店長も写真を欲しそうにしていたので、連絡先を交換した。


 今後、連絡することはないと思うが、猫が絡む事件で世話になるかもしれない。

 しを作っておいても損はないだろう。


 時間にして20分といった所だろうか?

 ここに居ても猫たちにからまれるだけだ。


 用も済んだので、店長へ挨拶をしてから店を出る。


(これ以上お店に居ると、猫たちに毛だらけにされてしまうからな……)


 猫たちが群がるため、他の客からも注目されてしまう。

 うらやましがる人間もいるのだろうが、俺からすると十分な【呪い】だ。


(おのれ『猫神』……)




============================

 💪(^・ω・^) 猫カフェ『マッスルキャット』

 へようこそ! 好みの猫はいましたか?

 えっ、お断り? そんなー💦


 (ฅ'ω'ฅ)♪ さて、猫森くんは綺華ちゃん

 と仲良くなれるでしょうか?

 まあ、結果はご存じの通りです。

============================

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る