第33話 雛祭り(2)


 俺は探偵7つ道具である『にせの名刺』を使う。

 ちなみに名刺の記載内容と事実が異なるだけでは、罪にはならない。


「どうも、詳しいことはまだ秘密ですが編集の猫森ねこもりもうします……」


 彼女はライターの涼村すずむらです――と適当なウソをく。

 『呪い屋』は「ああ、そういう設定ね」と納得したようだ。


 表情や口には出さず、ただ笑顔で手を振る。

 俺なんかよりも、よほど役者の才能があるようだ。


 青年は「信じた」というよりも「特には気にしない」といった様子で、


犬飼いぬかいです。よろしく」


 と言って頭を下げた。所長が冗談で作った名刺であり、高校生の俺では、社会人のフリをするには無理があると思うのだが――


(この犬飼という青年相手なら、このまま誤魔化ごまかせそうだ……)


 まあ、彼としては「単位さえもらえれば」それでいいのだろう。サッカーの練習をしていたワケではなく、部活の紹介をしていた所へ連絡をもらったらしい。


 汗をいている様子はなかった。

 自動販売機があったので「なにか飲みます?」と聞いたが遠慮されてしまう。


「案内するように言われただけなんで別に……それより、何処どこへ行きますか?」


 と犬飼。指示は受けたが、詳しい状況は説明されていないようだ。

 むしろ「詮索せんさくしないように」と言われているのかもしれない。


 状況的に教授の部屋がのぞける――フランス人形を目視することが可能な――部屋があやしい。同じ高さの部屋か、その一つ上の階を探るべきだろう。


 となれば、探す場所は限られてくる。

 サークル棟となっている8号館の部屋すべてを見て回る必要はない。


 しんと静まり返った廊下。

 新歓のため、部員は出払っているのだろうか?


 犬飼の話によると、活動している部活は50以上あるそうだ。

 しかし、人の気配はなく、さわがしくもない。


「部員獲得のために出払ってるんだろうけど……」


 まあ、最近は怪我けがをする生徒も多いからな――と犬飼。

 不穏ふおん台詞セリフく。


 だが、これから調査をする俺たちからすると都合がいい。

 調査の対象となる上の階は、文科系のサークルが使っているそうだ。


 犬飼自身はサッカー部であるため「そんなに詳しいワケじゃない」と言っていた。

 しかし、単位が掛かっている。分かる範囲で案内してくれるようだ。


 本来は運搬が目的なのだろう。

 エレベーターがある――との事なので、それを使って上の階へと向かう。


 階段を上っても良かったのだが、その場合『呪い屋』が文句を言いそうだ。

 節電なのだろうか?


 廊下は暗く、ほとんどの部屋には鍵が掛かっている。図書館などの入退館にはICカードが必要なようだが、まだ8号館はアナログらしい。


 こちらとしては助かる。


(該当する部屋は、この辺りか……)


「この部屋を見てみたいのですが」


 俺がそう言ってお願いすると、犬飼はドアをノックをする。

 だが、反応はない。今は留守のようだ。


 犬飼がドアノブをつかむも、鍵が掛かっていた。

 左右に首を振り「無理だな」といった表情をする。


 勿論もちろん、そんなことであきらめる俺たちではない。

 マスターキーを借りてますから――と出任でまかせを言って、『呪い屋』に鍵を開けさせる。


 彼女の【呪い】は、基本的に人形を操るたぐいのモノなのだが、汎用性があって鍵開けにも有効だ。


 無人の部室へ入ると、窓から「教授の部屋が見えるか」を確認する。

 残念ながら、この部屋の窓からは教授の部屋は見えても――フランス人形のある――棚の位置までは分からない。


 だが、この分なら条件にあう部屋は、だいぶ限られてくる。

 スグに隣の部屋へ移動しようとしたのだが、


「ああ、その部屋は――」


 と犬飼。なにやら気不味きまずそうだ。

 俺が理由を聞くと、


「いやー、この間『全裸焼肉大会』をしちゃって――」


 申し訳ないとは思っているのか、そう言って、彼は自らの後頭部をく。

 しかし、ヘラヘラとした表情からは、反省の色が見られなかった。


(たぶん、またらかすんだろうな……)


 そんな予感がする。同時に「大学生ってバカなの?」と思ってしまう。

 表情へは出していないので、気付かれてはいないハズだ。


 だが、犬飼はかんが働くらしい。

 俺たちの沈黙から、なにかを感じ取ったようで、


「違うんだよ! この部屋を管理していた准教授がめることになって、でも半分物置代わりにして使ってたんだ。だから、荷物の処分を手伝わされたんだよ」


 と言い訳を始める。

 どうやら、その際、部屋の荷物をゴミとして燃やしたようだ。


「その中に雛人形があって、時期も3月だったから『じゃあ、オレたちも男だけで雛祭りするか!』っていうテンションになってさ――」


 口早に状況をげる犬飼。


「気分が盛り上がったっていうか、退路を断つっていうか?」


 荷物が片付き、綺麗になった部室で焼肉。当然、見付かれば怒られる。

 しかし、ここは上の階であると同時に自分たちは全裸だ。


 そう簡単に、外へ逃げることは出来ない。

 度胸試しも兼ねていたのだろうか?


 そんな理由で『全裸焼肉大会』が開催されたようだ。


(なるほど、分からん!)


 やっぱり、大学生ってバカなのか?――声には出さなかったが、俺は思わず『呪い屋』を見た。


 だが「知るか、こっちを見んな!」といった表情で、にらみ返されてしまう。




============================

 φ(ФωФ=)メモニャン なるほど、『雛祭り』

 に対抗して、男は『全裸焼肉大会』を

 開催するのですね! 勉強になります。

============================

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る