第31話 キャンパス(2)


 『呪い屋』の言う通りにするワケではないが、大学に興味があったのも事実である。


 なので、教授から連絡がなければ、キャンパス内を適当に散策する予定だった。


 複数のベンチと様々な種類の自動販売機が並んでいる空間スペースがあったので、『呪い屋』にはソコで待っていてもらえばいい。


 そんな風に考えていたのだが、返信はスグにきたようだ。

 『呪い屋』としては、早く受け取りたいのだろう。


 恐らく――除霊が済んだとしても――問題のあったフランス人形は「不要だ」と言われるに違いない。


 『呪い屋』としてはソレを見越みこしているのだろう。【呪い】を他の人形へ移してから、受け取ったフランス人形もネットオークションで売りさばく気だ。


 まだ、現物は見ていないが、いいモノなら数十万の値が付く。


(悪い大人だな……)


 俺の考えていることが、顔に出ていたらしい。


「そんな目で見るなよ」


 と『呪い屋』。「あーあ、真面目くんは、これだから嫌だ~」とでも言いたいのだろうか? 彼女は後頭部をいた後、


「ほら、映研の夏合宿に参加させてもらえるように頼んでやろうか? 舞台は……」


 いわくつきのペンション、絶海の孤島――などと口走る。最後に、


「そして、名探偵!」


 と告げて俺を指差した。別に名探偵ではないが、そのシチュエーションならクローズドサークル確定である。


 流石さすがに連続殺人事件は起こらないだろうが、【呪い】に関する事件へ巻き込まれるのは確定だろう。


「民俗学の教授と閉鎖的な田舎でもいいぞ♪」


 と『呪い屋』。思い付きで言ってはみたが、想定していたよりも「面白い!」と思ったのだろう。悪ノリしているようで「アハハ♪」と笑い、愉快ゆかいそうに続ける。


めてくれ」


 俺は彼女の指差した手を右手でらす。

 世の中には『言霊ことだま』というモノがある。


 呪詛師じゅそしである彼女に宣言されると、本当になりそうで怖い。

 取りえず、俺は前以まえもって印刷しておいた紙の地図を広げる。


 パンフレットも置いてあるのだろうが、何処どこでもらえるのか分からない。


(しかし、1号館とか、2号館とか……)


 配置が分かりにくい。高校生の俺からすると十分に迷路だ。

 図書館と資料館があるのだが、どう違うのだろうか?


 『呪い屋』は自分で調べる気はないようで、最初から俺まかせらしい。

 後ろから地図をのぞき込むも、探すのをスグにあきらめてしまった。


 彼女は「ここだ」と言う代わりに、俺へスマホの画面を見せる。

 例の教授からのメッセージだ。


 急いで9号館にある部屋まで来てくれ――という内容だったが、人形が消失でもしたのだろうか? 『呪い屋』も教授の文面から、薄々うすうす気付いてはいるようだった。


 だとすると、ただの回収から、この広いキャンパスで「人形を探さなければならない」という任務ミッションに切り替わってしまう。


(『鬼ごっこ』――いや『かくれんぼ』か……)


「俺よりも綺沙冥きさめさんと来た方が良かったんじゃないのか?」


 これは最初から思っていたことなので、折角だから質問してみた。

 こういう状況になることは『呪い屋』も想定していたハズだ。


 【呪い】を探知する能力を保有する彼女と一緒の方が、すんなり解決するだろう。

 すると『呪い屋』は、


「ダメダメ、分け前が減る」


 そう言って「やれやれ」という感じで肩をすくめた。

 どうやら、彼女は俺に分け前をくれるつもりはないらしい。


 こっちが「やれやれ」である。

 別に『呪い屋』から分け前をもらうつもりはなかったが――


(面と向かって言われると、いい気はしないな……)


 まあ、ここで『呪い屋』と言い合っていても、時間を浪費するだけだ。

 俺は一旦、溜息ためいきくと、


「こっちみたいだ」


 気持ちを切り替え、進行方向を指差してから、歩き始めた。

 しかし、流石さすがは大学生だ。


 行きかう彼らを言い表すなら『自由』という言葉が良く似合う。

 それぞれが思い思いの時間を過ごしている感じが伝わってくる。


 大学に入ってから「初めて勉強が楽しいと思った」という話を聞いたことがあるのだが、本当のようだ。


 俺はRPGにおける『お使いクエスト』の気分で、目的の建物を探す。建物が密集しているので「探すのは楽」かと思ったのだが、入り口が見付からない。


 初見の俺にとっては迷路である。

 屋内に入り、フロアマップを確認するも、法則性がつかめなかった。


 念のため、スマホに写真を収めると、ソレを頼りに移動する。

 えて、分かり難くい構造にしているのだろうか?


 いや、単に古い建物を増築していった結果かもしれない。


(オープンキャンパスへ行く際は、こういう点も調べてから行こう……)


 現状では「無駄に広い」としか思えない造りだが、なんとか目的の部屋まで辿たどり着くことが出来た。


 ノックをして、部屋に入ると「おおっ! やっと来たか」と年配の男性教授。

 50を過ぎた辺りだろうか?


 歓迎されている――というよりは「遅い!」と思われているようだ。

 本来の約束の時間までは、まだ余裕があるのだが――


(これはなにか想定外のことが起こっているな……)


 教授の落ち着かない様子を見れば、困っていることはスグに分かった。

 これはアレだな――俺は『呪い屋』とアイコンタクトをする。


 教授から話を聞くと、例のフランス人形が消えてしまったらしい。




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 ฅ(ↀᴥↀ)ฅ ニャンと! 回収するハズ

 だった『フランス人形』が行方不明な

 ようです。猫森くんの推理が冴えますん?

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