第25話 デートの約束(2)


 中でも宝石は、昔から人々を魅了みりょうしてきた石の代表格だ。

 ヨーロッパにおける宝石文化の歴史は3000年にもおよぶ。


 また、現代のような細工さいくほどこされていないが、人類最古の指輪はピラミッドの中から発見されている。しかし、綺麗きれいというだけが――


(人類から愛されている理由ではないのだろう……)


 中世――ローマ帝国では――権威の象徴としてだけではなく、装飾品としても一般の大衆へと広く伝わっていた。


 身分に関係なく楽しめるファッション――といった所だろうか?

 むしろ、権威の象徴として利用していたのは教会らしい。


 当然、感謝を示す奉納品としてもおさめられていたようだが、聖職者の権威を示すための宝飾品も次々と誕生した。


 やがて、支配階級が宝飾品を制限するようになる。フランスでは「市民階級の者が宝飾品を身に付けることは許されない」そんな時代もあったようだ。


 宝石はいつしか一部の富豪――貴族や王家など――が権力を誇示こじするための道具として考えられるようになり、『貴族の特権』とされた。


 結果、ルネサンスの時代には資産的価値としての意味合いが強くなる。

 そこには、光に虫が集まるように、人間の原始的な本能があったのかもしれない。


 再び、ファッションとして身に付けられるようになった現代においては――


(『女性の特権』といった印象の方が強いだろうか?)


 だが、そんな宝石の歴史には、盗んだ者に【呪い】が掛かったり、身に付けることで不幸に見舞みまわれたりと、いわく付きの話もある。


 価値があるので略奪や盗難は勿論もちろんのこと、身に付けるモノである以上、毒が仕込まれていた。「どうせ、そんなオチだろう」と言いたい所だが――


(【呪い】をの当たりにしている今となっては、笑えない話だ……)


 日本で霊的な力を秘めた石といえば『鎮魂石ちんこんせき』がある。古神道(外来宗教の影響を受ける以前に存在していた宗教)に伝わっているモノのようだ。


 古神道は様々な流派に枝分かれしているうえ、小規模な教団として継承されている所為せいか、その多くは断絶している。そのため、俺も詳しくは知らない。


 ただ、聞いた話によると、鎮魂とは「身体からだ中府ちゅうふ(肺経の気が集まる所)へ、宇宙に充満する神気をまねしずめ、自らの霊魂を充実させる」というモノらしい。


 国や身体を正常な状態へと整え、目に見えない世界(神界の秘事ひじ)を探索するための行法ぎょうほうだ。霊能を発揮するためのすべである。


 それらは鎮魂法と呼ばれ、習得するには『鎮魂石』を入手しなければならない。

 『鎮魂石』は『神授しんじゅの石』というワケである。


 円形で、直径一寸ほどの重くて硬いかわき石らしく、神社の境内や清明せいめいな山、または川や海辺で探し出すそうだ。この説明だと――


(ゲームで『スキル』や『アビリティ』を習得するためのアイテムみたいだな……)


 一般人に馴染なじみがある石としては『百度石ひゃくどいし』だろうか?

 こちらは石ころではないが『百度参り』で有名である。


 神仏に祈願するための百度参詣さんけい

 本来は100日間に渡って参詣するモノだったが、1日に簡略化したらしい。


 その際、往復の目安として置かれたモノが『百度石』だ。

 石と祠堂しどうまでを往復参拝する。


 回数を数えるために掛札かけふだを用意している社寺もあるようだ。

 詳しい歴史は不明だが――


(古い資料によると、平安時代には行われていたらしい……)


 もっと簡単に願いを成就させたいのであれば『祈願の御石』というのがある。

 場所は京都。平安時代に弘法大師こうぼうだいし空海が草創そうそうしたと伝わるお寺だ。


 正確には、塔頭たっちゅう(本寺の境内けいだいにある小寺)のひとつ。

 そこでお願い事を書いた石を持ち、弘法大師像の周りを3度まわる。


 その後、石碑せきひ梵字ぼんじ(あ字)に石を当て、祈念きねんしてから石を奉納する――というモノだ。


 まあ、昔の話である。

 そこまでの行動力と強い意志があるのなら――


(「願いくらい叶えられる」という事かもしれない……)


 単純に厄除やくよけという事でいいのなら『火打石ひうちいし』がある。

 平安時代は「庶民の手には届かない貴重な御神宝ごしんぽうだった」ようだ。


 しかし、江戸時代になると一般庶民にも普及する。

 かまどあかり、煙草たばこの火をけるなど、盛んに使われるようになった。


 お出かけ前に「いってらっしゃい」と切り火で送り出されるのは、時代劇でお馴染みの光景である。威勢がよく、縁起を担ぐ江戸っ子とは相性が良かったのだろう。


 今でも「縁起の悪いことや危険な目にわないように」と伝統を重んじる職業の人や落語家などの芸人、またとびしょくなど、危険な業務に従事する人たちにも愛用されている。


「――とまあ『石』と『人の願い』には昔から密接な関係がある」


 予定よりも話し込んでしまった俺に対し、綺華あやかあきれるどころか、


「そうなんですね♪」


 勉強になります――と言って目をかがやかせる。当初の目的であった「空気を変える」という事には成功したが、少し調子に乗って話しすぎてしまったようだ。


 なにやらずかしくなってしまう。

 エアコンが効いているハズなのに、変な汗が出てきた。


 問題なのは報告書を作る手がまっていたことだ。


(早く終わらせて、塾の生徒たちを安心させる予定が……)


「そうです! 京都に行きましょう」


 と綺華。「行かないよ」と俺は即得する。観光客が多いのもあるが、酷暑こくしょで有名な夏の京都へ、わざわざ行く気にはなれない。


 妖怪はもとより、地獄とつながっている場所があったハズだ。

 最近はただでさえ、【呪い】に関する依頼が増えている。


 それなのに自分から危険地帯へ出向くようなことはしたくない。

 俺が理由を述べようとするよりも早く、


「京都は猫スポットが沢山たくさんあります♪」


 と綺華。早速、スマホをいじり始めた。

 確かに猫神社や猫寺、狛犬ならぬ狛猫なんてのも、聞いたことがある。


(石に興味があったワケではないのか……)


 俺が話した時間はなんだったのだろうか?――と疑問に思わなくもないが、綺華の機嫌がなおったのなら、それでいい。


 同時に、そんな彼女の機嫌をそこねるのは心苦しい。俺は、


「京都へは行かないが、猫カフェなら連れていってやる」


 と口走る。スマホを操作する手をめ「それって――」と綺華。

 他意はなかったのだが、完全に「デートだ」と誤解している顔だ。


 所長たちはこうなる事が分かっていて、俺たちを2人きりにしたのだろう。


(やれやれ、俺もつくづく詰めが甘い……)




🐱第二章 願い石〈了〉🐱




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【作者からのお願い】(,,ΦωΦ,,)

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 ちなみに、虫が光に集まる理由は

 『背光反射』らしいですね。

 背中に光を受けながら飛ぶ姿勢制御機能

 だそうです。紫外線を発しないLEDの

 光には反応しません。

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ฅ^•ω•^ฅ ฅ^•ω•^ฅ ฅ^•ω•^ฅ ฅ^•ω•^ฅ

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