第24話 デートの約束(1)


 事務所の机を貸してくれればいいモノを、何故なぜか会議や来客時に使う個室へ、綺華あやかと一緒に押し込められた。さわぎすぎただろうか?


 いや、それなら所長も悪乗りしていたので、こういう状況にはならないハズだ。

 俺がノートPCで報告書を作成していると、


「へー、この石が原因なんですね」


 と綺華。報告書はテンプレートが用意されているので、フォーマットに落とし込むだけである。15分もあれば終わる作業だ。


 それでも綺華にとってはひまな時間だろう。「スマホでもいじって、待っていてもらばいいか」と思っていたのだが、俺にかまって欲しいようだ。


 ジッパー付きのビニール袋に入った『エンジェライト』をかかげる。

 すでくだけてしまっているので【呪い】の力はないハズだ。それでも、


「危ないから、さわるな」


 俺は注意する。落としてしまっただけかもしれないが、いつ、誰が、どんな意図いとを持って、あの場に【呪い】が込められた『エンジェライト』を捨てたのか分からない。もし、故意こいに放置した人物がいたのだとすれば――


(危険なモノである可能性が高い……)


「はーい」


 と綺華は返事をして、大人おとなしく石を机の上に戻す。

 そんな彼女に「もう少し、待っていくれ」俺はそう言おうとしたのだが、


「でも、その時は甘五あまいくんが守ってくれるので、問題ないです♪」


 と続ける綺華。可愛らしい顔に謎の自信と笑みを浮かべる。

 信頼してくれるのは素直に嬉しいが、


「俺は万能ばんのうじゃない。特別な能力ちからも持っていない……」


 いつも守ってやれるワケじゃないぞ――と返答した。

 突き放すような言い方になってしまっただろうか?


 しかし、気にした様子もなく「またまた~」と綺華。


「いつも私を助けてくれるじゃないですか……」


 それに猫とおしゃべりが出来ます♪――と言いながら、


うらやましいですねぇ~」


 と続けて――俺の背後に回ると――背中へと抱き着いてきた。

 心地好ここちよい重さだが、報告書の作成もある。


邪魔じゃまをするな」


 俺はそう言って、首に回された綺華の手をほどく。

 ブー!――といった所だろうか?


 渋々しぶしぶといった様子で離れる綺華に対し、


怨霊おんりょうを払うことは出来るが、それは【呪い】の副作用だ……」


 猫と話せるのもな――と俺は静かに告げる。

 綺沙冥きさめさんや『呪い屋』のように制御できているワケではない。


 猫神の【呪い】がければ、無くなってしまう能力ちからだ。

 それを自分の能力ちからだと過信するのは危険である。


(少なくとも【呪い】を解かなければ、俺は死ぬらしい……)


 猫神にとっての誤算は、俺の【呪い】に対する許容量の大きさだろうか?

 婿むことして、本家へむかえることが目的なので、本当に殺すつもりではないハズだ。


 本来の予定では、猶予ゆうよはもっと短かったのかもしれない。

 猫たちのかかえる問題を解決させる――という目的もあったのだろう。


 それをまえて「本家へ迎え入れるつもりだった」と仮定するのなら――


(3カ月といったところか……)


 恐らくだが、猫神が想像していた以上に「俺の【呪い】に対する許容量は大きかった」と考えられる。それ故に、執行しっこうまでの猶予がかなりあるようだ。


 まあ、それも色々な事件を解決してきた今だから言えることで、


厄介事やっかいごとばかり舞い込むだけの能力さ」


 ちょっと愚痴ぐちみたくなってしまった。そんな俺の台詞セリフに、


「私のことも迷惑ですか?」


 と綺華。今の流れで、その質問は卑怯ひきょうだろう。ついつい立ち上がって「そんな事はない」と言いながら、彼女を抱き締めてしまいたくなる。


 俺の横に立っている綺華は中学二年生とはいえ、たまに女の顔をする。

 女性という生き物は、男にとって【呪い】よりも厄介なのかもしれない。


 俺はキーボードをたたく手をめ、ふーっと溜息ためいきくと、


「もうれた」


 つぶやくように短く返す。まあ、上手い返しが思いつかなかっただけだ。

 ここで「そんなことはない」と言ってしまった場合、期待させてしまうだけである。流石さすがに綺華も空気を読んだらしく、


「すみません、失言でした」


 と謝る。俺は「気にするな」と返す。

 再び、キーボードを叩きながら、


「いずれは無くなる能力ちからだ」


 と口にする。自分に掛かった【呪い】を解くのは、当初の目的でもあるのだが、言葉にするとさびしい気持ちになるのは何故なぜだろうか?


 心の何処どこかで「誰かの役に立っている」と自負じふしていたようだ。

 自分で思っていたよりも承認欲求が強いらしい。


 一方、場の空気を変えようとしたのか、


「それにしても『パワーストーン』って危険なんですね」


 と綺華。背後に回った際、俺の報告書を盗み見したらしい。

 ショルダーハックである。俺は、ふっと鼻から息をいた後、


「それは違う」


 と訂正する。今回は霊との相性が良かったにすぎない。

 もしくは「悪意ある第三者がいた」という可能性もあるが――


(それはせておいた方が良さそうだ……)


 綺華を怖がらせる理由もない。


「そもそも、石には人の気持ちが宿る」


 と俺は話を続けた。

 例えば、神社にある大きな岩『影向石ようごういし』が有名だろう。


 神が降臨して人間の願いを聞く――とされている。

 また、石をまつる神社は日本各地に古くから存在した。


 その他にも巨石信仰や岩石崇拝、変わった所では投石信仰もあるようだ。

 石を神聖なモノとしてあつかったり、願いを込めたりすることは世界的に見ても珍しいことではない。


(まあ、鳥居とりいの上へ石を投げ上げるのは、ただの遊びらしいが……)




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 (*ฅ́˘ฅ̀*)♡ 二人きりなので、綺華の

 テンションも上がっていたようです。

 ちょっと反省……。

 石のお話が始まりました。

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