第4話 ゲボクとすんでる(1)


 綺華と話していてもらちかないので、


「――で、なにに困っているんだ?」


 俺は友人の方へ話を振る。髪型をローツインテールにしているためか、大人しそうな雰囲気だ。『文学系』というのなら、彼女の方が合っている。


 俺が綺華と話している最中、度々たびたび、上の方を気にしていた。

 なにかあるのは明白なので、俺は彼女の返答を待たずに、その視線の先を追う。


 すると住宅の庭から伸びた木の枝に一匹の猫がるのを見付けた。どうやら仔猫こねこのようで「登ったのはいいが降りられなくなった」という状況らしい。


 『猫あるある』である。冷蔵庫やカーテンレールの上に登ったはいいが、高いため降りられなくなり「助けを求めて鳴いていた」という話はめずらしくないだろう。


(降りられないクセに何故なぜ、登ったのか?――は置いておくとして……)


 猫が降りられなくなる理由としては「頭から降りようとするからだ」と聞く。

 困ったことに「後ろ向きに降りる」という発想は皆無かいむらしい。


 動物であるため「弱点である背後を取られないように行動する」という本能が働くのだろうか? 結果、高い場所へ登ることは得意でも、降りることは苦手なようだ。


 逆に言えば、飼い主に対して「弱点である背中を向ける」という状態は『信頼のあかし』とも取れる。猫にそっぽを向かれても、落ち込む必要はない。


 色は白っぽい灰色なのでサバトラだろう。黒の縞模様しまもようが入っているハズだが、ここからだと少し分かりにくい。


 よって、アメリカンショートである可能性もあるが――


(今は関係ないか……)


 キミの飼い猫なのか?――と聞いた所、綺華の友人は首を横に振った。

 綺華と同じで、ただの猫好きのようだ。


 猫の声には敏感びんかんらしく「ニャーニャー鳴いている声が聞こえて気になった」といった所なのだろう。猫の方は首輪をしていないので、野良猫らしい。


(いや、相手は仔猫か……)


 今は5月の中旬。仔猫が生まれるシーズンは3月からなので、生後3ケ月と考えるのなら、首輪の練習をする前の可能性が高い。人間でたとえるのなら、5歳くらいだろうか?


 成猫せいびょうだったのなら、放って置いても問題はないと思うが――


(仔猫なので、カラスイタチねらわれる可能性もあるな……)


 特に標的にされやすい時期だ。弱る前に助けた方がいい。

 イタチは夜行性なので、今注意すべきはカラスの方だろう。


 鴉の場合、仔猫をおそって眼球や舌、脳を食べるらしい。

 仔猫が降ってきた――というニュースを聞くのも、3月から6月に掛けての、今くらいの時期である。


 鴉が仔猫を食べるために、抵抗できなくなるまで何度なんども地面へ落とすのが理由だ。

 彼らも生きるためには食べなければならない。


 仕方のない行為こういではあるが――


(猫好きの人間なら、そう割り切れる話でもないか……)


 飼い猫なら「急成長期」となる生後4ヶ月くらいまでは、行動に気を付けた方がいいだろう。まあ、好奇心が旺盛おうせいなため、勝手に外へと出てしまう可能性もあるが――


(この仔猫の場合も、それっぽいな……)


 ペット可のマンションで飼い猫が隣のベランダへ行ってしまうなど、よく聞く話だ。問題があるとすれば、その後だろう。


 猫を呼び戻そうとして「不審な行動を取ってしまったがために隣人との関係が気不味きまずくなる」という話も聞く。


 ニオイや鳴き声の問題などもあるので「ペットを飼う」という事は、飼い主や家族だけの問題ではなく、普段からの近所付き合いも大切になってくる。


 また、野良猫にエサあたえている人もいるが、これも注意が必要だ。

 鴉が置き餌に集まる可能性がある。


 少なくともエサを与えるのは人が見ている時間帯だけにすべきだろう。

 鴉はかしこいうえに、上空からよく観察している。


 なので、仔猫が居たのなら『恰好かっこうまと』となってしまう。


「そこで甘五あまいくんの出番というワケです!」


 と綺華あやか。胸を張り、何故なぜ得意気とくいげな様子だ。

 まさかとは思うが「俺に助けろ」と言うつもりなのだろうか?


 フフン♪ と綺華。口には出さないが――


(どうやら、そのつもりらしい……)


 俺は「やれやれ」と肩をすくめてから、


「少し待っていろ」


 と告げる。まずは仔猫がしがみ付いている枝。

 その木を植えてある庭へ行く必要があるだろう。


 俺は綺華たちに「そこで待っていろ」と告げ、庭に木を植えている家の玄関へと行き、チャイムをらす。住人に理由を話し、庭へと入る許可をもらう。


 どうやら『猫好きのお宅』というか『主婦』だったらしく、脚立きゃたつまで貸してくれた。俺は礼を言って、庭の木へと脚立を立て掛けると、素早く木に登る。


 そして、仔猫へ向かい、こちらへ来るよう語り掛けた。


『ムリだよ~、こわいよ~』


 と言うので「仕方がない」と内心でつぶやく。

 おびえて動けなくなっているようだ。


 助けに行こうにも枝が細いため、俺がつかむと折れてしまうだろう。

 いや、それ以前に枝がれるので、仔猫が先に落ちてしまう可能性もある。


 一応、7メートルの高さまでなら「無事に着地できる」とは聞くが――


(この仔猫には無理だな……)


 俺はもう少し高い位置へと移動してから、周囲の状況を確認した。

 そして、着地点を見極みきわめると、綺華たちへ退けるように指示を出す。


 同時に「車が来たら教えてくれ」とお願いもする。季節の変わり目なので、たまに突風が吹くような日もあるが――


(今日は風がないので大丈夫そうだな……)




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 Σฅ(º ロ º ฅ) 子猫救出作戦開始です!

 カッコよく決めて、好感度アップ……

 はしたくないようですね。

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