第3話 全米が泣いた(2)


(ここでキチンと否定しなかった場合……)


 彼女の中で『JK至上主義者』にされてしまいそうだ。

 俺は「違う!」と即答した後、


「その言い方だと、俺が変なオッサンみたいだろ……」


 中学生と高校生が付き合うことに「問題がある」と考えているだけだ――と訂正しておく。まあ、この台詞セリフだけだと、また間違った意味で解釈かいしゃくされそうなので、


早熟そうじゅくな連中もいるだろうが、お前はそういうグループの女子じゃないよな?」


 と逆に質問をした。ここでいう早熟の意味は「異性と付き合う事」や「大人の恋に憧れる事」をす。勿論もちろん、興味があるのは正常なことだ。


 しかし、必死さの度合いが違う連中もいる。同性である女性に対し「立場が上」と思わせるための言葉や態度をとる事に必死なマウンティング女子だ。


 そもそも女子は「グループでいると安心する」という性質がある。そんなグループの結束を高めるには、グループ外の人を攻撃するのが手っ取り早い。


(イジメられないか心配だな……)


 綺華あやかはケロリとした表情で、


「はい、見ての通り『全米が泣いた清純派文学系ヒロイン』です!」


 などと即答した。俺は「なんだ、それは?」と素っ気ない反応をしたくなる気持ちをおさえつつ、


「面倒なグループから目を付けられたくないだろ?」


 と返す。その手のうわさは良くも悪くも脚色きゃくしょくされて伝わるモノだ。周囲も興味津々なためか、あっという間に広まるだろう。


 勝手に変な解釈かいしゃくを付け加えられ、悪意ある形で流布るふされる事も多い。そうなってしまった場合、後で傷付くのは綺華自身である。


 陽キャで形成されるような悪目立ちするグループに入っているのなら、その中でマウントも取れるのだろうが――


(綺華はどう見ても、そういうグループじゃないよな……)


 どちらかといえば、昼休みに図書室へ行って勉強するタイプだろう。スクールカーストがあると仮定した場合、少なくとも上位にいる個性キャラではないハズだ。


 高校生である俺の立場から想像するに「男はアクセサリーだ」と考える女子もいる。


 例えば「大学生の彼氏がいる」「誕生日に彼から高価な物をプレゼントされた」「彼氏がドライブに連れて行ってくれる」など自慢する女子が、それに該当するだろう。


 綺華の場合、そんなマウントを取りたい女子からするとイジメの標的ターゲットにされねない。少なくとも「クラスのえない女子に高校生の彼氏がる」となれば、ねたむ女子も出てくるハズだ。


 正直なところ、綺華がそんな女子たちに対し「防衛手段を持っている」とは思えなかった。


(女子は変な所で張り合うからな……)


 バイトとはいえ、探偵業にたずさわっているためか、疑心ぎしん暗鬼あんきになっているのかもしれない。浮気調査や学校のイジメ、近隣トラブルなど、人間関係の負の部分に多く関わるようになった事が原因だろう。


 しかし「男性からモテること」や「くしてもらえること」は、女性にとっての価値の一つである。女性の結婚とは「社会的評価を得るための手段」ともいえた。


 その証拠しょうこに『旦那だんなの収入』や『子供の学力』で張り合うのは勿論もちろん、SNSを自分の心理的欲求を満たす目的で使っている人たちが目立つ。


 誰もがスマホを持つ時代になり、ネット環境が身近になった。便利になった反面、クレイジーな連中同士が仲間を見付ける場所ともいえる。


 一夜にして、世界が敵に回ることも想定すべきだろう。

 それに綺華はまだ中学生だ。学校という限定された世界では逃げ道もない。


甘五あまいくん、私のことを心配して……」


 はわわわわ♡――両手で口許くちもとおおい、顔を赤らめる綺華。

 あきらめさせる方便ほうべんでもあったのだが、恋する乙女おとめにはなにを言っても無駄ムダらしい。


「分かりました! 高校生になったら付き合いましょう♡」


 と彼女は納得したが、その時、俺は大学生だ。


勿論もちろん「なれれば」の話だが……)


 まあ、お金と学力に不安はあるが「入学定員割れ」という話はよく聞くので大丈夫だろう。少子化が原因とも言われているが、人口減の日本で大学を増やし続けた結果だ。


 恐らく、新卒一括採用を始めた大企業が原因だと思われる。それが原因で就活にいそがしくなり「日本の大学生は勉強しない」と揶揄やゆされているらしい。


 就職ファースト。勉強よりも就職活動というワケだ。学部や学科にもよるのだろうが、大学生や教授、企業がそれぞれの利益を追求した結果である。


 お陰で大学生は「遊んでいる」というイメージが付いてしまった。つまりは女子高校生と男子大学生が付き合った場合「遊んでいる」と周りは見るワケで――


(その時は、それを理由に断れそうだな……)


 今の様子から推測すいそくするに「周りから、そういう目で見られると困るだろ?」と言っておけば、綺華も自重じちょうしてくれそうだ。そもそも恋愛感情は「3年程しかもたない」と聞く。


 その頃には熱も冷めるだろう。今は呪詛じゅそを受けた彼女の心をケアする必要があるので、なるべくそばるようにしているだけだ。


(組合からも、そういった指導を受けているしな……)


 しかし、いつまでも、今のような態度をとるワケにもいかない。『猫神』からの【呪い】を受けている都合上、俺の周囲には厄介やっかいごとが舞い込む。


 普通の人間である彼女が俺のそばるのは危険だ。

 よって、俺自身も特定の人間とは深く関わらず、距離を置くようにしていた。


 勿論もちろん、そんな生き方をして「さびしくない」と言えばうそになる。だが、彼女の場合はまだ引き返せるハズだ。普通の生活に戻れるのなら――


(早く戻った方がいい……)




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 (*ฅ́˘ฅ̀*)♡ 綺華のことを心配する

 甘五くんですが、会話が嚙み合っては

 いないようですね。綺華の暴走は続く!

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