第5話 ゲボクとすんでる(2)


 俺の位置からだと、木の枝葉が邪魔で視界が悪い。道路の状況が分からないので、改めて、綺華に人や車が来ていない事を確認してもらう。


 綺華は左右を確認した後、手で丸を作った。大丈夫らしい。

 俺は木の上からアスファルトへ向かって跳躍ジャンプする。


 へいを飛び越えるようなイメージだろうか? 落下までの対空時間で両手を使い、枝にしがみ付いている仔猫を素早くキャッチした。


(成功だ……)


 それから、仔猫を右手へ持ち替えると、守るようにかかえる。

 あとは重力にしたがい、アスファルトの地面へと落下だ。


 まずは爪先つまさきを伸ばした状態で足を肩幅程度に開く。

 着地の衝撃しょうげきやわらげるためにかかとは使わない。


 爪先が地面へれると同時にいきおいよくひざを曲げた。45度くらいが目安だろうか? あまり曲げ過ぎてしまうと、今度は腰や背骨に負担が掛かってしまう。


 最後に仔猫を抱えていない方の左手を地面に突く。やや倒れるような体勢を取りながら、足と同様にひじを曲げることで、更に衝撃しょうげきを殺す。


 この際、同時に曲げた片手と両足を使って地面を押すのがコツだ。

 手足をバネのように使うイメージである。


 ただ、俺の場合は『カエル玩具おもちゃ』にたとえた方がしっくりくるかもしれない。

 ポンプを押すとピョンピョンねるヤツだ。


 不格好だったためか、綺華たちへ余計な心配を掛けてしまったらしい。


甘五あまいくん!」


 と声をげ、綺華あやかけ寄ってきた。友人も一緒だ。


『あー、ビックリした!』


 と仔猫。実際には「ニャー」と鳴いただけである。

 取りえず、俺は綺華の友人へ仔猫を渡した。


 怪我ケガはないハズだ。地面がアスファルトでなければ、背中から転がることで、もう少し衝撃しょうげき緩和かんわできたのだが――


(まあ、大した高さではないので問題ないだろう……)


 ゆっくりと立ち上がる俺に対し「大丈夫ですか?」と綺華は心配する。

 俺は手の汚れを払いながら「問題ない」と答えた。


 足も痛くはないし、骨にも異常はない。「走れ」と言われたのなら、問題なく身体からだは動くだろう。それよりも、


「仔猫の方はどうだ?」


 俺が質問すると『オモシロかった♪』と仔猫。呑気のんきなモノで「ニャン♪」と鳴く。

 また、その様子を見て「大丈夫みたいです」と綺華の友人が答えた。


 俺は「そうか」と短く答えた後、協力してくれた家の住人である主婦にお礼を言うため、3人で庭の方へと向かった。


「あら、大丈夫だった?」


 と主婦。俺が飛び降りるとは想定していなかったのだろう。

 少しおどろかせてしまったようだ。


 仔猫は無事です――と俺が告げると「やだ、貴方あなたのことよ」と笑われてしまった。


『ラクショーだったよ☆』


 ニャーと仔猫が鳴く。【呪い】のお陰で俺の言葉は理解できているかもしれないが、主婦の言葉は伝わっていないハズだ。思った事を口にしただけなのだろう。


 先程まで木の上でおびえていたクセに、今は綺華あやかの友人の腕の中で榛色ヘーゼルの瞳をクリクリとさせている。


 黒い縞模様しまもようからキジトラで間違いないようだ。

 甘えん坊でやんちゃな性格からオスなのだろう。


 無邪気な仔猫の様子に女性陣がなごんでいる。

 俺はその間に「片付けますね」と言って、木へ登る際に使用した脚立きゃたつたたみ、最初に立て掛けてあった物置へと移動させる。


「ありがとうございます。助かりました」


 と俺が礼を言うと、綺華あやかたちもお礼を言って頭を下げた。主婦は「気にしないで、それよりも猫ちゃんが無事で良かったわね」と微笑ほほえむ。


 理解のあるご婦人で助かる。ちなみに――


(俺は猫と会話が出来るので問題はないのだが……)


 面式も無く、おびえている猫の場合、引っかれたり、暴れられたりする危険性がある。そのため、無理に助けようとしない方がいい。


 木や屋根など、高い場所へ登る技能を持った人間を頼ることをおすすめする。

 また、地域にある保護団体や動物病院に連絡するのもいいだろう。


 結局はペットを飼うのも、人間同士の助け合いである。

 周囲に迷惑を掛けない――という考え方よりも「コミュニケーションを取って、周りの人々にも理解してもらう」という事の方が大切だ。


(さて、次は仔猫の飼い主を探さないとな……)


 行動範囲から考えるに半径50メートルといった所だろうか?

 お世話になった主婦から、近所で猫を飼っている家を教えてもらう。


 近い場所から一件ずつたずねることにした。

 とはいえ――


仔猫コイツに聞けば、すぐに分かるか……)


 最後にもう一度、主婦に頭を下げてから出発する。

 まずは又隣またどなりの家からだ。


 庭付きで木々がしげっている。周囲と比べて、少し歴史を感じる造りになっていた。

 裏を返せば、猫が遊びに来そうな家だ。


(早速、当たりっぽいな……)


 ここがお前の家か?――と仔猫の鼻を指でつつくと、


『ココだよ、ココ! ゲボクとすんでる』


 と言うので、俺はチャイムを押す。玄関は引き戸で奥から「はーい」と女性の声が聞こえた。俺は「仔猫をひろったのですが、お宅の猫ですか?」と事情を説明する。




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 ฅ^>ω<^ฅ♪ 無事に仔猫を助けること

 が出来ました。めでたし、めでたし……

 と行きたい所ですが、まだ問題は残って

 いるようです。

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