第13話 猫の手も借りたい(2)


 商店街に着いたはいいのだが、すでほとんどの店がシャッターを下ろしている。

 そんな状態なので、どの店が問題のある店舗なのか分からない。


 正直、どれが『空き店舗』なのか、その判断すら難しかった。

 取りえず、店の前を歩きながら、商店街を一回りする事にしよう。


 ここもハズレかな?――そんな事を考える俺だったが、鳥居とりいを見付けた。

 正確には「怪しい気配に気づいて視線を動かすと」という枕詞まくらことばが付く。


 小さなおやしろだけの『小さな神社』。

 駅前なので、商店街はたまに通るのだが――


(今まで、気が付かなかった……)


 店舗同士の間にはさまれるようにヒッソリとたたずんでいる。

 参拝する人もなくなり「信仰もうすれた」といった感じだ。


 どうやら、ここで間違いない。白鷺しらさぎ女史へ視線を向けると、彼女は俺の考えを肯定こうていするようにうなずく。


 綺華には離れているように指示を出し、俺は鳥居の中へと手を入れる。

 バチッ!――と軽くはじかれるような感覚。


 なにも無かったハズの空間に、黒いうずのようなモノが発生していた。


(やはり、俺では相性が悪いらしい……)


 まつっているのはキツネヘビか、もしくは河童カッパという可能性もある。

 猫である俺は、お呼びではないらしい。


 力尽ちからずくで入ることも出来るが、ここは素直に助っ人へ頼るとしよう。

 本来の意味合いとは違うが「猫の手も借りたい」といった状況だ。


 寝ている所、起こすのはしのびびないが、


「タケゾー先生、出番ですよ」


 と言って、俺は白鷺女史が抱いている仔猫ののどくすぐる。


「ニャニャ?」(なんだよ、きもちよくネてたのに?)


 タケゾーはそう言ったが、機嫌は悪くなさそうだ。


「悪いが俺の真似まねをしてくれ……」


 後でチーズやるから――俺がチーズの袋を見せ、そう告げると、


「ニャニャン♪」(チーズ、ダイスキ♪)


 といて、急にはしゃぎ出す。

 突然の出来事に、タケゾーを落としそうなった白鷺女史が慌てる。


 一方で俺は右手を軽くにぎってかかげると「おいでおいで」と動かす。

 するとタケゾーも「こうか?」と真似まねをした。


 早い話が『まねき猫』である。


「わぁ、可愛い♡」


 と声を上げたのは綺華で、スマホを取り出すと撮影を始めた。


「ニャーニャー!」(うちのゲボクも、よくソレやる!)


 そんな事を言いながらも、タケゾーは動作を続ける。


「ニャーオ、ニャーオ」(チーズ、チーズ)


 なにやらチーズ好きの動物が寄ってきそうな気もするが、今回呼び寄せて欲しいのは史奈ふみなである。


(本来なら、そこまで効果は期待できないが……)


 相手は猫好きの中学生だ。木から降りられなくなったタケゾーに気が付いた事からも、猫の鳴き声には敏感びんかんなハズ。


 子供が『神隠し』にった際は「太鼓たいこかねたたいて子供の名前を呼ぶ」という風習もあったらしい。


 対処法としては間違っていないだろう。

 問題は「近所迷惑にならないか」だけだ。


 幸か不幸か、周囲は『空き店舗』ばかりのようで、その心配は無用だったらしい。

 少しすると先程、俺がれたことで発生した渦がゆららぎ始める。


 なにもなかったハズの空間から手が見えたので、俺はそれをつかむと強引に引っ張った。バチバチッと弾かれる感覚はあるが気にしない。


 渦の中から現れたのは史奈で、日中に会った時と同じ格好をしている。

 暗がりで詳しくは分からないが、怪我けがはしていないようだ。


 本人はとぼけた様子で「あれ? ここは……」などと言っている。


「良かった!」


 とは綺華で、友人である史奈に抱き着く。

 その様子を見て微笑ほほえむ白鷺女史。


 俺は「はやく、チーズちょーだい!」と言うタケゾーに『モッツァレラ・チーズ』を渡した。


「ミャミャ♪」(うまい♪)


 前足を両手のように使って、器用にチーズを捕まえると「モチャモチャ」と食べ始める。


(さて、問題はこの後だが……)


 まずは母親を安心させるために、史奈へは家へ連絡を入れてもらった。

 綺華の家に泊まる――としておけばいいだろう。


 また、事の顛末てんまつを話すため、場所を移動する。近くにファミレスがあったハズだ。

 駅でタケゾーのキャリーバッグを回収してから向かう。


 中学生はストレスが掛かりやすい年代だ。

 同時にストレスへ耐性が付いていない。


 そのため、心にダメージを負うこともある。

 不安定な時期のため『鬱病うつびょう』を発症することも珍しくはなかった。


 中学生の内は人間関係に対し、経験が少ない。

 ストレスを上手うま制御コントロールできないので、め込んでしまう。


 ここで対処を間違えると『不登校』や『引きもり』になるかもしれない。

 受験や部活動での人間関係など、理由は様々だが――


(史奈の場合は……)


 恋愛や将来に対する漠然ばくぜんとした不安だろうか?

 でなければ、親との対立や学校での人間関係だ。


 この辺は【呪い】と一緒で、原因を探る必要がある。ファミレスでカウンセリングまがいのことを行うハメになってしまったが、仕方ないだろう。


 こういう場合、本人が問題を自覚していない事も多い。

 史奈もそのタイプだったので、取りえず、心に余裕を持つことを進言する。


 例えば「塾のレベルを下げる」などの選択肢だ。

 学力の高いクラスに無理をして入らず、塾のレベルを下げ、そこで一番上のクラスへ入った方がいい場合もある――など、少しだけ視野を広げるアドバイスをする。


 塾というのは基本、上のクラスにいい講師が配置されているので、無理をして上のクラスに入るよりも、自分にあった講師を探した方がいい。


 後は『猫と遊ぶこと』だろうか?

 俺が猫カフェのチケットを渡すと喜んでいた。


 やれやれである。取りえず、この様子ならしばらくの間は、彼女が『神隠し』にうこともないだろう。


 怪奇かいき現象を相手にするよりも、現実と向き合うことの方が――


(よっぽど、骨が折れる……)




🐱第一章 迷い猫〈了〉🐱




============================ 

【作者からのお願い】(,,ΦωΦ,,)

--------------------------------------------------

 ここまで読んでいただき、

 ありがとうございます。

 

 もし、面白いと思っていただけたのなら

 『★評価』と『フォロー』をお願いします。


 また、一言でもいいので『レビュー』

 をいただけると、大変助かります。

============================

ฅ^•ω•^ฅ ฅ^•ω•^ฅ ฅ^•ω•^ฅ ฅ^•ω•^ฅ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る