第12話 猫の手も借りたい(1)


「はいはーい! 霊障地区ブラックスポットってなんですか?」


 とは綺華あやか。俺は「超自然的な事件が『発生した場所』もしくは『発生しやすい場所』だ」と告げた。


「歩きながら説明する」


 そう言うと、俺はスマホの地図を頼りに歩き始めた。綺華は俺のとなりを、白鷺しらさぎ女史はタケゾーをっこしたまま、ゆっくりと後ろを付いてくる。


 今日は外で冒険をした所為せいか、タケゾーはすっかりおねむらしい。

 猫の平均睡眠時間は1日12時間から16時間と聞く。


 タケゾーは仔猫なので、より多くの時間を睡眠に使いそうだ。

 声が聞こえなくなったので、眠ってしまったらしい。


 猫は本来「浅い眠りを長時間」というのが基本である。

 しかし、成猫と違って、仔猫のタケゾーは熟睡じゅくすいしているようだ。


(簡単には起きないかもな……)


「その前に――」


 俺は2人に待ってもらい、途中のコンビニで『モッツァレラ・チーズ』を購入する。タケゾーの好物だとメモに書いてあった。これで機嫌も取れるだろう。


 ちなみに『猫は夜行性だ』と勘違いしている人も多いようだが、正確には薄明はくめい薄暮はくぼ性である。


 主に『明け方』と『夕暮れ』の時間帯で活発に行動する――と言えば、心当たりがある人も多いだろう。


 飼い猫が早朝起こしにきたり、突然ドタバタと走り回ったりするアレである。

 通称『夜の運動会』――その原因は薄明薄暮性であることだ。


 夜中や朝方に野生のスイッチが入ってしまい「大変だった」という経験をした飼い主も少なくはないだろう。


 基本的に人間と猫は生活リズムが違うので、夜間は猫が寝室に入って来ないようにすべきである。


 可愛いから♡――といって、一緒に寝ることを強要したりするのは、猫にとっても良くない。


 また明け方「猫が起こしに来た」としても無視した方がいい。

 「人間は今、寝ている時間なんだ」と猫に理解してもらう必要がある。


 この辺は人間関係と一緒で「一度相手をしたばかりに、要求がどんどんエスカレートして」という結果になりねない。


 お互い仲良く暮らすためには「共生する」という意識が必要なようだ。


(さて、話を戻そう……)


霊障地区ブラックスポットについてだが、この辺りだと……」


 昔神社がった場所や交通事故、自殺があった場所が該当するな――と言って俺は綺華に対し、淡々たんたんと説明する。


 どうにも、そういった場所は『事故』や『事件』を誘発ゆうはつしやすいらしい。

 生き物が死ぬことで、魂があの世へとかえるためなのか、この世ならざる場所とつながりやすくなるようだ。


 霊障地区ブラックスポットでは、人は真面まともな精神をたもつのが難しくなり、呪詛師じゅそしにとっては【呪い】の成功率が上がる。


 よって、呪詛師は故意に事故を誘発するそうだ。

 そのために、悪いうわさ流布るふすることもある。


 特に学校や会社など、人間関係が限定される場所は効率がいい。また、寺や神社をつぶすと一時的にだが、その区域は霊的な意味で空白状態になるようだ。


 そういった場所も呪詛じゅそを行う際、都合が良かった。

 呪詛師にとっては『人気の場所スポット』というワケである。


 当然ながら先刻せんこく犬蠱けんこの時のように、周囲へ悪影響をおよぼす。呪詛師は基本的に後始末など考えてはいなので、中途半端に【呪い】が残るのは明白だ。


 結果、怨霊おんりょうが地縛霊となって住み着いたりもする。都市伝説が過去の『事件』や『事故』、『場所』に由来するのは、そんな理由もあるのだろう。


「必ずしも怖いモノではないが……」


 注意しないとな――と言って、俺は綺華の手をにぎった。

 いつもだったら、余計な茶々を入れるハズの彼女が黙っている。


 怖がらせるつもりはなかったのだが、おびえさせてしまったようだ。

 そのびである。


(変に気を持たせるような事はしたくないのだが……)


 それから3分程、歩いただろうか?

 予想としては、この辺りのハズだ。


 俺は立ちどまる。なん変哲へんてつもない、いたって普通のビル。

 昼間なら、誰も気にめる事はないだろう。


 ただ、今は『空きビル』となっているらしく、電気も消えていた。

 人通りもほとんど無いため、如何いかにもな場所のような気もする。


 だが、それは【呪い】というワケではない。

 道が暗いため、単に通るのをけているのだろう。


 『空きテナント』『空きビル』『商店街の空き店舗』など、一度、人が出て行ってしまうと、再び人を集めるのはむずかしいようだ。


 俺は綺華へ白鷺女史と待っているようにげ、つないだ手を離す。

 そして、目の前のビルへと近づく。


 確かに古いがはいビルといった雰囲気はなく、見た目はただのオフィスビルだ。

 もし、史奈ふみなが「ここでなくなった」と仮定して――


(建物の中まで入るだろうか?)


 思い切った行動を取る可能性はゼロではないが、大人しい性格である。

 ビルの玄関には鍵が掛かっており、監視カメラも付いていた。


 セキュリティ関連の装置は生きているようだ。

 社長が自殺した――などのうわさはあるが、実際のところ、原因は不景気による倒産らしい。


 こういう噂は真実よりも、事件性のあるモノがひとり歩きをする。

 先刻の空き家のような、怨霊おんりょうが出そうな空気も感じない。


 俺は2人のもとへ戻ると「ここではない」と言う代わりに首を左右へ振った。


「次は商店街へ向かう」


 と声を出し、進行方向を指差す。店舗の老朽ろうきゅう化や商業施設ショッピングセンターの乱立によって『空き店舗』となった店も多い地区エリアだ。


 だが、すたれてしまった一番の理由は――


(後継者がいない事かな?)


 ああいう場所は「活気が必要だ」と俺は考える。

 『祭り』などの中心で「地域の文化と溶け合っていること」が重要だろう。


 高齢者ばかりだと、なかなかに難しい。

 あの商店街に限っていえば、交通インフラである駅の協力も必要だ。


 こういう問題は多くの人を巻き込み、地域で取り組まなければならない。


(しかし、困ったな……)




============================

 ฅ^>ω<^ฅ 夜中の霊障地区巡り。

 ハッキリ言って、肝試しですね。

 人気ひとけのない場所を探索です。

============================

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る