第11話 神隠し(2)


 理由は分からないが、俺としては好都合なので「分かりました」とうなずく。

 良かった♡――と女性。


「実は彼から『りを戻したい』って、連絡があって……」


 わぁっ、大変! もうこんな時間!――とスマホを見て女性は慌てる。

 俺は鍵を掛け、戸締とじまりをする彼女に対して、


「じゃあ、明日帰しにきますね」


 と言いながら、探偵業で使っている名刺を渡す。


「俺のバイト先です。なにかあれば、こちらに連絡を――」


 俺が言い終える前に「分かったわ!」と言って、彼女は胸ポケットに名刺をしまうと出掛けてしまった。


「頑張ってくださーい」


 と半ば棒読みで俺は見送る。やれやれ、嵐のような人だ。

 残された俺はキャリーバッグの中のタケゾーを一瞥いちべつした後、


(これも【呪い】が解けた影響だろうか?)


 などと考える。犬蠱けんこの【呪い】によって、この地区一帯に【幸せになれない呪い】のようなモノが掛かっていたのかもしれない。


 その【呪い】が解けたため、別れた彼から連絡が入ったようだ。

 いや、考えすぎか――俺は自分の想像を否定するように、首を左右へと振った。


 なんにせよ、助っ人(この場合は『助猫』かもしれないが……)の入手に成功である。あずかった荷物は水とエサ、それにオムツ。猫用トイレと砂だ。


 最初から誰かに預けるつもりだったようで、メモも入っていた。

 仔猫なので量は少ないが、持ち運ぶのも面倒である。


 俺は荷物を駅のロッカーへ仕舞しまって、メモに目を通しつつ『駅前で待機していた』というワケだ。ちなみにオムツは装着済みなので、安心して欲しい。


 俺はタケゾーを手渡すと「そのまま持っていてくれ」と告げる。スマホでタケゾーの写真をると、それをSNSでグループ送信をした。


 【駅前、保護者求む、仔猫付きニャン♪】とテキストを付ける。


(探偵事務所の人たちが見てくれるといいのだが……)


 すると【すぐ行くニャン♪】と白鷺しらさぎ女史から返信がきた。

 送信してから1分も経っていない。


 流石さすがはタケゾーである。最強の助っ人だ。やや遅れて、事務所の所長からも【ワタシも行くニャン♪】とメッセージが来たのだが――


(ニャンニャン言うオッサンはキモイ――という事なのだろうか?)


 【来なくていいニャン♪】と白鷺女史が即座に断る。俺は綺華あやかに対し、


「白鷺女史が来てくれる事になった……」


 補導ほどうされても面倒だしな――と説明する。だが、


「にゃー♪」「ニャー?」(おまえ、ヘンなカオだな?)

「にゃー♡」「ニャー?」(おまえもゲボクになりたいのか?)


 と猫語で会話をしている。

 どうやら、今の彼女はタケゾーに夢中なようだ。


 タケゾーがなんと言っているのかは――


(まあ、えて教えない方がいいか……)


 また、駅と探偵事務所は近い。5分くらいで白鷺女史が来た。

 先程と同じスーツ姿で『キャリアウーマン』といった感じがする。


 『バリキャリ』と言うんだったか?

 バリバリ働くキャリアウーマンである。


 その対象が『ゆるキャリ』で、家事や子育てに仕事もこなす『フルキャリ』もあったが、今も使われている言葉なのだろうか?


 綺華はタケゾーに夢中なため、彼女が来るのを待っていた時間など、あっという間だったようだ。


 スマホを仕舞しまった俺にタケゾーを持たせると、いつも持ち歩いているのか『猫じゃらし』を取り出す。れた手付きで、一緒に遊んでいた。


 俺が反応するとでも思ったのだろうか?

 たまに俺の顔の付近に猫じゃらしを持ってくるのが鬱陶うっとうしい。


 確か、この間も『猫が遊ぶためのアプリ』や『人語を猫語に翻訳ほんやくするアプリ』を得意気とくいげな顔で見せてきた。


 俺は白鷺女史へ「わざわざ来てもらって、ありがとうございます」とお礼を言う。

 綺華も「お久し振りです」と頭を下げた後、俺からヒョイとタケゾーを奪って、


「ボクはタケゾーだにゃ~♪」


 と挨拶あいさつをさせる。まるで『ぬいぐるみ』だ。タケゾーの方は遊び疲れていたのか、白鷺女史には興味を示さず、大きな欠伸あくびをした。


 しかし「その反応も可愛い♡」という事なのだろう。

 いつものクールな彼女はどこに行ってしまったのか、


「よろしくニャン♪ タケゾーちゃん」


 と言って、鼻を指先でつついた。タケゾーは「なんだ、コイツ」と両手を使って指をつかもうとする。このまま放置しておくのは、得策ではなさそうだ。


「程々にしてあげないと、タケゾーも機嫌を悪くしますよ」


 と言って、猫好き女子2人のタケゾーいじりを中断させる。続けて、


史奈ふみなちゃんを探すんじゃないのか?」


 俺は綺華に問う。口許くちもとに手を当て「あっ、そうでした!」と綺華。

 本気で忘れていたらしい。困ったモノである。


 俺は事情を白鷺女史に説明した。綺華の友だちが『神隠し』にったようなので、これから迎えに行く。そんな内容だ。


 人探しも探偵業務の一環いっかんであるため、彼女の専門分野でもあるのだが、今回求めたのはまで、保護者としての同伴である。


 計画を立て、どう動くかはすでに決めていた。


「塾から家までの道と、付近にある霊障地区ブラックスポットは把握しています」


 と俺は答える。後は直接、現場を見て回るだけだ。

 綺華の手前もあり、良い所を見せたかったのかもしれない。


「そ、そうなの」


 とつぶやくように言った白鷺女史の表情は、少しガッカリしているようにも見えた。

 取りえず、タケゾーは彼女へ預けることにする。


(これで少しは元気になるだろう……)




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 ( ฅ•ω•)ฅ ニャー! タケゾーで遊んでいる

 場合ではありません!

 史奈を探しに夜の街を探索です。

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