第17話 恐怖はいつの頃からか麻痺をする
「というのが、今日の仕事です。
少しでもわからないことがあったら、極西のニンゲンに聞いてください。
絶対に、自己判断だけはしないでください。
後は、適度に休憩も取りつつ、さっさと終わらせましょう!
じゃあ、今日はよろしくです」
極西のリーダーが一通りの説明の後、激を飛ばす。
私は、これまでの二年の間、この現場協力に既に三回参加している。
極西のリーダーからも顔を覚えてもらえているらしく、最初に簡単な労いのコトバももらった。
普通では考えられないような現場なのだが、これが結構、報酬がイイ。
だが、隣国発肺炎が蔓延する中でこれが行われるとは思ってもみなかった。
まったく、アイツらはアタマがどうかしていやがる。
四十歳前後のリーダーは見るからにイケメン。
実年齢よりも十五歳は若く見える。
多分、私生活では相当モテるのだろう。
なにも、こんな仕事をしなくてもお前には他の仕事があるだろう。
そんな無体な考えを巡らせる。
まあ、アイツもなんらかの「ワケアリ」なのだろうが……。
そんなことを考えていると、背後から声がする。
その声が、極西のリーダに投げられたモノだとわかり、私は一歩、引き下がる。
「ああ、いつも悪いねぇ。こんなときだってのに助かるよ。
まあ、法律で決まっているから、私らだってどうにもできないんだよ。
君たちのおかげで、国民は助かっているんだよ~」
三十代後半だろうか?
見るからにアトピーが悪化している薄赤黒い顔に眼鏡のオトコ。
話をする際に向かって右斜め上に顔を上げ、見下すような目線をむけるそいつの姿に吐き気を覚える。
ワイシャツの上に、アイロンがかかっているのではないかと思うほどシワの無い作業着を着こんだこのオトコは、国だか、県だかのお役人。
ゴミの担当だとかいっては、定期的にこの仕事を極西へ発注する。
極西のリーダーへの態度もゴミを見るかのようだ。
「あぁ……、典型的なクズ野郎だな……」
私は喉元まで出かかったコトバを無理やりに嚥下する。
コイツ等は、結局のところ、私たちの命をゴミのようにしか考えていない……。
―――――――――――――――――――――
私たちは極西から仕事の協力依頼を受けた。
極西の社員だけでは、人数的にも時間的にも間に合わない仕事だ。
これまでの状況であれば、「特別ボーナス」として受けることもできたのだが、今回は違う。
まさに命を懸けた仕事だ。
極西は、同じゴミに関する仕事をしている。
しかし、私たち「極東清掃」のように収集に特化しているのではない。
いわゆる幅広く事業展開をしているのだ。
現社長の手腕もあり、各方面に広げられた事業は驚くほどの収益を上げ、ゴミ業界では有名企業へと成長している。
その極西からの依頼だからこそ、私たちのような中小企業はその依頼をなおさらに断ることができない。
断ってしまった時点で、この業界での立ち位置が失われてしまうと言っても過言ではない。
だが……、今回の仕事だけは、班長に断って欲しかった……。
極西は、定期的に国や自治体からの仕事を受けている。
それだけゴミ業界では、大きな会社なのだ。
国家・自治体事業のため、資金の取りっパグれもなく、むしろ大幅に吹っ掛けることだってできる。
気に入られ、寵愛を受けることが出来てしまえば、後の会社運営は勝ちゲーとなるだろう。
そのうちの一つの仕事の内容がこれだ。
「ゴミの全袋開放検査」
国民、県民、市民からランダムで集められたゴミを一袋ずつ開けていき、その内容物を丁寧に分類していく。
紙類、プラ類、金属類、ゴム類、厨芥(ちゅうかい:生ごみ)類、草木類などなど……、これらを分類し、重量を測り、その比率を計算するというものだ。
なぜ、そんなことをするって?
「国民がきちんと分別を行っているかをチェックするため」だ。
まあ、アイツらの言い方をすれば、
「自分たちが作った政策を国民がきちんと守っているかを確認するため」
だ。
なんとも傲慢な検査なのだと毎回参加する度、吐き気をもよおす。
コイツ等にとっては、国民さえもただのペットや監視対象でしかないのだ。
そして、私たちゴミのような人間に、国民のゴミの分別状態のチェックをさせる。
なんともきれいな階級社会ではないか。
ヒンズー教の階級社会さながらのモノが、日本にも構築されており、運営されているなんて、多くのニンゲンが知るわけがない。
なんと滑稽なことか。
さらには、このご時世だ。
もちろん感染者の吐しゃ物が、ゴミの中にも含まれている可能性がある。
いや、吐しゃ物でなくとも、感染者の痰を含んだティッシュだって多いだろう。
もちろん、感染者の排泄物だってあってもおかしくない。
そんなものが含まれるゴミを全袋開放するだと?
つまり、私たちに「国民のために、私(官僚)たちのために、感染し、死ね」と言っているようなものではないか。
極西も本意ではないのはわかっている。
それはあのリーダーの手の震えからも感じ取れる。
あまりにも理不尽。
私たちは、この社会の階級を、そして、自分たちの命がゴミ以下であることを再度、思い知らされたのだ。
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