第14話 最前線という意識はなくとも


カーテンの隙間から朝日が目に入る。

こういうコトが嫌なので、カーテンはクリップで止めていたはずなのだが。


あと少しの惰眠を貪りたいがために、身体を半分起こし、カーテンを再度きつく閉める。

こういうのがウザったい。


朝のギリギリの睡眠時間というものは非常に大切だ。

私が思うに朝食の目玉焼きよりも、三十倍の価値があると思っている。

だからこそ、この時間を邪魔されることがいかに不愉快なことか。

それは朝日であろうとも許されない。

そして、そんな思考を巡らせることで眠気が遠くに離れていくことさえ、害悪と感じる。


あと30分は眠れるだろう。

そんな小さな幸せを再度手繰り寄せる。


「バカ……、気づけよ……」

胸元で聞き慣れた声がする。

半分以上、夢の世界に囚われている私は、急速に現実に引き戻される。

布団の中に……、明がいる……?

必要以上に戸惑う私は、股間を抑え、距離を取る。

しかりと寝間着を着ているにも関わらずだ。


「もう……、全然覚えていないの……?

 昨日……、すごかったんだから……」

明は意味深なコトバを放つと共に、顔を赤らめる。

その外観はパジャマ。

……私は……、なにもしていない!……と思う……。


「ぷっは!!

 弘毅の慌てっぷり! マジでうける!!」

明が破顔する。

と、同時に私は、悟る……。

コイツ……、遊んでやがるな……と。


私は、明の腕を掴み、身体ごと押し倒す。

明は想定してなかった私の動きに、あっけにとられているようだ。

「朝から、こんなことをする、悪い子にはお仕置きが必要だな……」

私は必要以上に悪そうにいう。


「え、っちょっと、そんなつもりはないんだけど……。

 なんか、だめ~、そういうのじゃない~!」

明は、私の腕の中でもがく。

しかし、ダメだ。

当然の報いを受けてもらう。


私は、明の右の首筋を舐め上げる。

丁寧に、且つ、ゆっくりと。

ほのかに汗の香りが私の中のソレを余計に強くする。


「ひいぃぃいっぃ~!!」

明の悲鳴に似たコトバにならないそれが、私の部屋にコダマする。


ゴンっ!!

明の拳であろうものが私の視界を埋める。

そして聞こえる声。


「ば~か、ば~か。

 弘毅なんて、知らないからね~!

 昨日、夕飯食べながら寝ちゃったから運んであげたのに~。

 ば~か。ば~か!」


残響。


……え?

私たち、高校生だよな?

そして、付き合っているんだよな……?


難解だ……。


―――――――――――――――――――――

そういう、夢を見た。

すぐに原稿に残しておかなければ。

私と明のもう一つの人生。

これが少しずつ積み上がってきている。

自己満足? 自己欺瞞?

なんとでもいえばいい。


私は、クソったれな本業のかたわら、想いをもって自らの命を絶った彼女と、私が送るべきであった世界を描いているだけなのだ。


ココだけは、私の世界。

誰になんと言われようとも、私の表現ができるのだ。

そして、私の筆の中で、腕の中で、彼女はまだ生きている。

現実に、世界にどんなに否定をされようとも、彼女は自由に生きているのだ。


私が紡ぎ続ければ、彼女は生きる。

こんなにも不自由な世界であっても。


―――――――――――――――――――――

「え~! 今日の配車を説明する~」

班長のあのダミ声が、事務所にコダマする。

いつもと変わらない毎日。

それが今日もはじまる。

近隣発肺炎が日本でも世界でも猛威を振るい、多くの会社がテレワークなる新しい出勤形態を用いているにも関わらず、私たちの世界ではそんなことは夢のまた夢。


ゴミのようなヤツ等にはゴミのような仕事を。

ゴミのようなヤツ等はいくら死んでも替えがきく。

表だって、政府や自治体はいわないが、そんなきらいを沸々と感じる。


国民の根源の生活、「エッセンシャルワーカー」として、認定がされたようだが、聞こえがイイだけであって、私にはむしろ、「お前たちは、犠牲となって死ね」としか聞こえない。


世界とは、政治とは、経済とは、そういう風にできているのだ。


「佐藤が体調悪いので、C班は鈴木、村田、梶で回れ!」

そのコトバで、事務所に佐藤の姿が見えないことに、今さらながら私は気付いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る