音村舞のエピソード2(6) 二人三脚
ママがテレビに出ていた。
久しぶりに聞いたままの歌はいつも通り優しくて落ち着く歌だけど、
なんだか少し寂しくなった。
最近は運動会が近く、ダンスの練習をしている。
前世では、運動なんて私から遠くかけ離れた言葉だった。
そのせいか、私は絶望的な運動音痴だった。
クラスにも馴染めない。
生前、こういう所に来たことがないからだ。
でも、奏と一緒に居るから寂しくはない。
まぁ、馴染めないといっても周りはみんな5歳以下だ。
中身が高校生の私たちが、馴染めないのは当然っちゃ当然だ。
ある夜。
その時も、いつも通り幸せをたくさん感じながら、ベットで寝転んでいた。
ママ達はみんな寝たみたいだ。
目を瞑っていると、奏が話しかけてきた。
奏が言うには、私がクラスの中心にいるタイプの人間に見えていたらしい。
自分で言って笑っちゃうようなことだ。
少し、前世について話した。
私的には、別に全部話しても良かったんだが、暗い雰囲気になるし、同情されても困るなと思ったので
少しだけ話した。
すると、奏は申し訳なさそうにして、自分の身の上話をした。
流石の私でも、奏が陽樹だと言うことは分かった。
毎日会いに来ていた。 陽光病。 余命一年半。 趣味が合う。
どれも、身に覚えがある言葉だ。
奏が、陽樹。
驚いた。
重要なことだ。
本来なら嬉しいことだ。
でも、そんなことは重要じゃなくなった。
彼は私のせいで、自殺した。
陽樹は私とは違った。
未来があって。 優しくて。 勉強だってできると言っていた。
顔もかっこいいし。 声もかっこいい。
弱ってる人を見捨てない人だ。
そんな人が、私なんかの為に毎日会いに来てくれた挙句、私のせいでその先の人生が終わってしまった。
謝りたかった。
私が、盟です。 蒼川盟です。
ごめんなさい。
って。
でも言えるわけない。
この三年間私は、死んでしまったものはしょうがない、楽しく生きよう。
何て思っていた。
呑気に生きていた。
人の人生をこんな風にめちゃくちゃにしておいて。
「お前の前世がどんなだったかは知らないけど、せっかく生まれ変わったんだ。
楽しまないと損だぞ。」
そんな自分に彼はこういった。
『彼は私が蒼川盟だってことは知らない。
私の事なんて何も知らない。
だから、こんな優しい励ましの言葉を言えるんだ。』
普通ならそう思うだろう。
でも私は知っている。
奏はきっと、私の正体を知っても同じことを言っただろう。
だって、彼は本当に優しいから。
それから、私はできるだけ今までと変わらないように過ごした。
本当は、こんなに幸せな人生を歩んでいる場合じゃないことくらい、分かってる。
でも・・・でも、しょうがないじゃないですか!
私は頭が悪いから、どんな感じで生きたらいいか分からないんです。
はぁ。
いや、やめよう。
私は、かわいくて、明るくて、無邪気な三歳児、音村舞。
そう心に言い聞かせて、幼稚園に向う。
今日は、運動会だ。
一種目のかけっこは最下位だった。
ママは、私のかけっこの姿を一生懸命カメラに収めていた。
がんばったねー、 かっこよかったよー!
って褒めてくれた。
こういうのを聞くたびに、自分がどれだけ愛されているか、自覚する。
でも、同時に申し訳ない気持ちにもなる。
ママは、私の事を純粋無垢なかわいい三歳児だと思っているけど、中身は私だ。
屑な私だ。
ダンスもうまくいかなかった。
ママはそれも、かわいいー!って言っていた。
ママ達はすごい嬉しそうだった。
それも、そうだろう。
この三年間で分かったが、この家族に父親がいない。
父親がいないというこことは、何か色々あるのだろう。
そんな中、まだ子育てするには若すぎる歳の女性が二人で一生懸命育てた子供の運動会だ。
・・・・やっぱり、申し訳ない気持ちになる。
さて、そろそろ親子二人三脚レースだ。
ママは自分の左足首と、私の右足首を配られた紐で結んでいる。
「ママ、駆けっこ。 一位になれなくてごめんね?」
私はなんだか耐えられなくなって、そんなことを言った。
「ほんとだよー!、って冗談冗談。
私は舞のかわいい姿見れただけで十分だよ!」
「・・・」
私は黙ってしまった。
何ていえばいいか分からない。
「舞?さては何か悩み事でもあるな?」
ママは空を見ながら続けた。
「奏君もそうだけど、二人はとても私たちの子とは思えないくらい天才じゃん?
それに比べて、私たちはあんまり『良いママ』じゃないじゃん?
だからなんか申し訳ないなーって思うこともあるんだよ。
でも、今日の舞のこと見てたら、やっぱり私の子供だなーって思ったよ。」
ママはいつもとは少し違う雰囲気でそういった。
「舞、なんやかんや言っても結局、かけっこで一位になってみたかっただけでしょ!」
ママは『見破ったぞ!』と言わんばかりの顔をこちらに向けた。
「い、いやそういうわけじゃ・・」
「いいんだよ。 頼ってくれても。」
「そろそろレース始まりまーす! 親子の皆さんは準備してくださーい!」
スピーカーから先生の声が聞こえる。
私とママは、白線のスタートラインで合図を待った。
ママはふと、振り返って
「じゃあ、私と一緒に一位になろう!」
そう言って、ママと私は走り出した。
結果はひどいものだった。
でも、
「アハハ! もうー!なんで一歩目、右足スタートなのー?」
「ふつー右足からでしょー!」
ママと走ったこのレースはとても楽しかった。
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