音村奏のエピソード4(5)


星澄あみが音楽番組に出ていた。


パーフォーマンスはいつも通り最高で、転生してから初めて聴いた星澄あみの曲は赤ん坊の幼い体に染みた。




やっと世間は星澄あみに気づいてくれそうだ。


もし、俺がまだ木村陽樹で、蒼川盟が生きていたらあの503号室で抱き合っていただろう。






さて、俺は今何をして居るでしょうか。


それは俺も良く分からない。




「そう、そう!1!2!1!2!」




ダンスをしています。




時は運動会シーズン。




俺たちひまわり組は今、ダンスの練習をしています。


生前の俺はダンスなんてしたことなかったが、幼稚園児がするダンスなんてどれだけ不格好でも


「かわいいー」


ってなるから問題ない。




ただ、舞はやけに重く受け止めている様だ。


クラスにもあまり馴染めていない。


いや、俺も馴染めていないが、それは何というか、『あえて』というか。




舞はクラスの真ん中に居るタイプの人間だと思っていたので少し意外だ。




家に帰り、美優と凜が寝静まったあと、相変わらず密着度が高すぎる舞に話しかけてみた。


ちなみに彼女は最近、俺を呼び捨てで呼ぶようになった。




「舞、お前前世では学生だったって言ってたよな?」


「うん。 それがどうしたの?」


「勝手な想像だけど、舞はクラスの中心にいる感じの奴だと思ってた。」


「実は、学生だったってのは嘘で・・・」


「嘘?」


「いや!嘘ではないんだけど・・・ 学生だけど、学校に行ってはなかった、みたいな感じ?」




気まずいことを聞いてしまったな、と思った。


学校に行かなくなる理由なんて、そんなに多くない。




「それはその・・・なんかすまん」


「なんで謝るのさー、奏。 別にいいよ。」




彼女は笑っていたが、無神経な事を言ってしまったなと思った。


一方的に、思い出したくもない過去を言わせてしまったなと思い、俺も少し前世について話した。




「俺、前世の死因は自殺なんだ。」


「え?」




「俺、毎日会いに行っていた人がいたんだ。


俺と趣味がよく合う奴で明るい奴だったんだけど、陽光病っていう難病を患っていて、余命が一年半だったんだ。」


「・・・」


「で、そつが急にコテンと死んじゃって。


それで、何というか、衝動的に? 飛び降りちゃって。」


「え・・・」




彼女はこの三年で聴いたこともないような、悲しそうな声を出した。




「お前の前世がどんなだったかは知らないけど、せっかく生まれ変わったんだ。


楽しまないと損だぞ。」


「・・・」




彼女は何も言わずに、俺に背を向けた。


舞は隠そうとしていたのだろうが、背中を震わせながら泣いていた。




翌日から、舞は少し変わったように見えた。


少なくとも表ではいつも通りだから、俺の勘違いかもしれないが。




運動会当日。


美優と凜は早朝から、仲良く弁当を作ってる。




俺たちはいつも通り、幼稚園に向かった。


運動会は校庭で行われる。




開会式では、選ばれた年長の女の子と男の子が一人ずつ宣誓をしていた。


俺たち三歳児が出場する種目は、かけっこ、ダンス、親子でする二人三脚レースだ。




一種目目、かけっこ。


背の順で並んで、5人ずつ、20メートルほど走る。




お、俺の番だ。


先生のスターターピストルの合図を待っていると、隣の男の子に話しかけられた。




「そうくん。はなちゃんのことすきなの?」


「え?」


「おまえ、こくはくされてただろ!このかけっこで、おまえにかって、はなちゃんにこくはくするから!!」


「お、おう」




よし、負けてあげよう。


俺は足の速さを調節して、5人中2番目にゴールした。




「ほ、ほら! か、かったぞー!」


「たはは・・」




彼の名前は・・・そうま君。


そうま君は、一目散にハナちゃんの方に走っていった。




舞は、駆けっこは5人中最下位だった。


彼女は運動神経が悪いというか・・・駆けっこにしても、ダンスにしても本気を出していな気がする。


本気を出してないのに、上手くできないことを悩んでるというか・・・




「あー。 負けちゃったー」


「惜しかったな。」


「惜しくないよー。奏こそ惜しかったね。 っていうか、あれわざと負けたでしょー


ママ達、奏のカッコいい姿見たい―、って言ってたんだからね!」




う・・・


まぁいいか。




その後のダンスも特に問題は起きなかった。


問題と言えば、流石に恥ずかしくて動きを小さくすると、それが逆に変な動きになったみたいで、美優たちに笑われたことくらいだろうか。




さて、最終種目は、親子二人三脚レースだ。


「奏ー!」


美優が叫びながら俺の方に走ってきた。




「さっきのダンス・・・ぷぷっ お、面白かったね。」


お嬢さん、笑い抑えきれてませんよ。




「あ、ああいう振付なんだって。」


「ふふっ はいはい。」


「本当だって。」


「はいはい。」




美優は自分の足首と俺の足首を片方ずつ、紐で巻き付けながら、ふとこんな事をこんなことを言った。




「奏はさ、きっと天才なんだよ。私の子供とは思えないくらい。


こんなに小さいのに、いっぱい人にことを考えて行動してるし、優しいし、強いし、賢い。


でも、私の子供なんだから、本当は弱い部分を持ってると思うんだ。


だから、いろんな人を頼らなきゃだめだよ?」




「え? あ、はい・・・」




なぜ、急にこんなことを言ったのかは後々分かった。




その後、俺と美優は二人三脚を楽しく走り、賞品までもらった。


舞と凛のグループは・・・ 二人とも派手にコケていた。




最後の種目が終わると、開会式と同じ子達が出てきて、


『閉会の言葉』を言って、解散となった。




こうして、俺の運動会が終わった。 


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