第一章 転生
音村奏のエピソード1
目を閉じている。
開けたいが、眩しすぎる。
周りの音も、曇って聞こえる。
水中にいる感じだ。
ん・・・?
そうだ、俺は自殺したんだ。
はぁ、ということは生きてんのかよ。
あの高さから飛び降りて生きてるとかどういうことだよ。
ツイてない。
次第に音がくっきり聞こえるようになってきた。
ピッピッピという機械音。
やっぱり病院か。
眩しさもましになってきたので、恐る恐る目を開けてみる。
周りの看護師や医師は騒がしく動いている。
だがそこには明らかに患者の服装をした、汗だくな女性もいる。
ん?
って、ええええぇ!?
この看護師さん、俺の事思いっ切り抱っこしてるけど。
どういう筋力?
そう思っていると、看護師は汗だくの女性に俺を文字通り、『手渡し』した。
何なんだ。 どうなってる。
なんか息もしにくいし。
すると、女性は俺に顔を近づけてきた。
いわゆる『キス顔』で、だ。
俺は近づいてくる顔を手で止めようとしたところで、ようやく気付いた。
その手が、あまりにも小さくムチムチで、まるで赤ん坊の手みたいであることに。
状況が分かってきた。
俺は転生した。
赤ん坊に。
今、俺を大事そうに抱いているこの美女が俺の母親。
綺麗な茶髪に、整った顔。
なんとなく、見たことがあるような・・・
俺は生後三日だ。
看護師の話によると、正常分娩なのであと3日で退院とのことだ。
この三日でようやくこの状況を飲み込めた。
と、そんな事を考えていると、
「そろそろおっぱい飲む?」
俺の母親はそう言いながら何のためらいもなく、衿からブツを出した。
俺はここで、理性的な判断を下せる男だ。
だが、ここで頑なに飲まなかった場合、何かしら異常があると思われるかもしれない。
このお母さんにも心配をかける訳にもいかない。
だから俺は・・・!
俺は勇気をだしてかぶりついた。
そんな、葛藤と勇気の決断を俺の母親は優しく見守っていた。
しばらく、おっぱいを吸っていると、ガラガラとこの個室のドアが開いた。
いや違うんです!
これは、自然の摂理で・・・
と、一瞬びくっとしたが傍から見ればなんの違和感もない光景だ。
「美優ーーー!」
ドアを開け、入ってきた女性が大声でそういうと、俺の母親も
「凛ーーー!」
と返した。
凛と呼ばれたその女性は、俺の母親によく似ている。
髪、目、鼻、口、輪郭まで。
そして、赤ん坊を抱えている、という点でも。
「キャー 男の子じゃーん! かわいいー!なんて言うの?」
「奏(そう)って言う名前にした!」
「いーじゃーん そー君!」
そう言いながら凛さんは俺の頭を撫でた。
「凛の子は女の子だったよね? なんていう名前にしたの?」
「舞って名前にしたよ!」
「舞ちゃんかー よろしくねー」
そう言いながら、俺の母親も舞ちゃんと呼ばれる赤ちゃんの頭を優しく撫でた。
「ていうか、マジで大変だったー」
「分かるー マジで死ぬかと思ったよー」
「私なんて、看護師さんに『今までありがとう・・・』って言ってたらしいー」
「フフフ、何それー」
会話が若い。
おそらくだけど、まだ二人とも20歳くらいじゃないだろうか。
まぁだとしても生前の俺よりは年上だ。
「美優はいつ退院?」
「んー看護師さんは3日後退院って言ってたかな?」
「じゃあ私と一緒だね! 退院の日は一緒に帰ろうね?」
「りょーかーい」
一緒に帰ろうね?
どういう関係なのだろうか。
と、考えているとふと、舞ちゃんと言われてた赤ちゃんと目が合った。
俺はつい癖で会釈をすると、舞ちゃんも驚いた顔で会釈をしたように見えた。
まぁそう『見えた』だけだろうが。
しばらく二人は話し込むと、凛さんは自分の部屋に戻ってしまった。
新しい情報が来たな。
一度整理しよう。
俺はここ三日で分かったことをまとめてみることにした。
・俺の名前は音村奏(ねむらそう)
・母親は音村美優(ねむらみゆ)
・父親にはまだ会っていない。
・俺の母親と親しい関係を持つ人物がいる。
・その人物の名前は凛 苗字は不明。
・凛さんは、俺の母親と同じくらいの時期に出産した。
・その子の名前は舞。
・凛と、美優の容姿は似ている。
と、まぁこれくらいだろうか。
分からないことが多すぎる。
はぁ、しかしなんでこんなことに・・・
でも、一度は自殺した身だ。
どうせ生まれ変わったなら、存分にこの人生を楽しんでやる。
そう心に決めると、眠気が襲ってきた。
俺は美女の腕に包まれて眠った。
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