蒼川盟のプロローグ


まず、一人ずつ、イヤフォンを付けて聴く。


聴き終わるとその素晴らしさについため息が出る。




イヤフォンを外し、彼女を見ると大体俺と同じリアクションだ。




もう一度、一人ずつ、イヤフォンを付けて聴く。


星澄あみの曲はイライラしているときや、希望を見失った時に聴いても、見放された感じがしないのも魅力の一つだ。




どの曲も、星澄あみの優しさを感じられる。


会ったこともない人の優しさに救われる。




2回、各々で聴いた後は、二人で聴く。


やっぱり感動して、目を合わせる。




そこから数時間、星澄あみについて語り合う。


しばらく経つと、彼女は先程(と言っても数時間前)にプレゼントしたギターを手に取り、つぶやいた




「はぁ。私も星澄あみみたいになれたらなぁ。」


「俺が奮発してギター買ってやったんだぞ。 武道館でワンマンライブしてくれなきゃ困る。」


「武道館って! 星澄あみでもまだやってないじゃない!」


彼女は笑いながらそう言った。




「でも、きっと彼女もすぐ売れるよ。」


「そーだね。 あんないい歌歌ってるんだ。 全く、世の中は気づくのが遅くて困っちゃうよ。」


「全くその通りだよな。」




星澄あみは、売れている歌手ではない。


でも、今流行ってる歌手だって、誰にも歌を聴かれない時期くらいあったはずさ。




星澄あみは起点がまだないだけ。


一回歯車が回り始めたら、すごいことになるはず。




「じゃ、俺そろそろ帰るわ」


「えー。泊まっていきなよー」


「やだよ。どうせそこのソファで寝かされるんだろ。 寝にくいんだよ。」


「わがままな奴だなー」




すると彼女はふと思いつたかのように顔が赤くなった。


元々の肌が綺麗な白だから、全体的にピンクっぽい。




「じ、じゃあ。 そ、その・・・ベットで寝てもいいよ。」


俺は鈍感系主人公は嫌いだ。


でも、こういう時って意外と気づけないものなのかもしれない。




「いや、さすがに病人をソファで寝かす訳にはいかないよ。 また明日、どうせ会うんだから。」


「い、いや。そういう事じゃなくて・・・ まぁ、そうだよね。 


じゃ、また明日!」




彼女は何かを言いかけたけど、頬を両手でパン!と叩き最後は元気に言った。






ーーー蒼川盟視点ーーー




私は余命宣告を受けた。




小さい頃から体が弱かった。


小学生くらいの頃だろうか。




突然、身体の調子がおかしくなった。


どこの病院にいっても、原因不明。


謎の病気。


私の体調は悪くなる一方だった。




その時のお父さんの顔は今でも覚えている。


よくわからずに弱っていく娘を前に、いつも不安そうな、申し訳なさそうな顔をしていた。




そんな時、希望が見え始めた。


海外で、同じような症状の患者が居る、という情報だ。




父さんは、私には何も言わずに借金をした。


私の治療の為に、尽くしてくれた。




アメリカの病院で、余命を宣告された。


何が何だか、最初は分からなかった。




余命? 余命って・・・ どういう事?


い、いやでも、命に別状はないって昔先生が・・・




余命宣告された夜、お父さんは私にとびきりかわいい服を買ってくれた。


まるでお嬢様のように扱ってくれた。


お城みたいなレストンにも連れて行ってくれた。




普段は言わない父さんの昔話も聞かせてくれた。


若い頃に母さんと出会って若くして、私を生んでくれたんだって。


母さんのことは覚えていない。


でもきっと、この話し方からするに、仲は良いようだ。




「余命か・・・ 盟、怖いか?」




ふと、父さんは言った。




「うん・・・」


「父さんはな、馬鹿なんだ。 だから余命宣告なんて嫌いだ。


余命を宣告って・・・冗談じゃないよな。」




しばらく沈黙が続いた。 




「・・・みんな、いつ死ぬかなんて分からないんだ。


盟。 精一杯、生きるんだぞ。」




父さんは泣きながら、自由の女神像を見ていた。


ありきたりな言葉だし、父さんは、きっと言いたいことをうまく言語化できてない。




でも、何があっても、毎日精一杯生きると決めた。




余命は一年半だと言われた。




一応、念願?のjkにもなれた。




タピオカ飲んだり、tiktok撮ったり、恋愛したり、学校サボってはしゃいだり。




いろんな妄想をした。


精一杯生きるって言ったって、病室からは出れないし、病室でできることなんて限られている。


その時、星澄あみと出会った。




きっかけは父さんがおすすめしてくれた。




この人がママだぞって。




初めて聴いた星澄あみの曲は『改札』って曲だった。




とにかく、優しさを感じれれる。


身勝手な、理不尽な、適当な優しさじゃない。


その歌に夢中になった。




ある日、ノリノリで歌を聴いていると見知らぬ男が入ってきた。


青春ドラマでよく見る学生服。 久しぶりに見る、同い年位の男子。




最近、というか私の人生のほとんどの会話は父さんとのものだった。


だから、コミュニケーションがうまくいかなかった。




気づいたら、男の子は帰ろうとしていた。


だ、ダメだ。


なんか、そう思った。




「星澄あみって知ってる?・・・ますか?」




しばらくして、やっちゃた。


そう思った。


知ってるわけないし、もっと違う事いうべきだった、そう思った。




そう思っていると、彼はドスドスと近づてきた。


そして、すとんと膝をつき、




「星澄あみをご存じで?」




そう言った。


これが私と、彼の出会いだ。




一年半と少しが過ぎた。


そろそろ、死ぬ。


そう思ってはいるけど、全然そんな気配はない。


元気だ。




陽樹は毎日私に会いに来てくれる。


なんでかは、分からない。




でも嬉しい。


最近は彼が来るのをまだかまだかと、待っている。




でも、もうすぐこの生活が終わってしまうのか。


人生が終わってしまうのか。




彼との会話がどれだけ楽しくて、嫌なことを忘れることができるかは、言葉では言い表せない。


だからこそ、彼が帰ってしまうと、虚無感に襲われる。







今は、彼の寝顔を見ている。


最近、陽樹がいるときはいつも、彼の姿を目で追っている。




彼が笑顔で話すときとか、こういう寝顔とか、ボディタッチなんてされたら、なぜかとてつもなく嬉しくなる。


何なんだろうか。 この気持ちは。







彼がギターをくれた。


正直、大声で叫びたかった。


叫ぶ内容なんてどうでもいい。


せめて、枕に顔を埋めてベットでジタバタしたかった。




それからは、いつもの楽しい時間が来た。


彼がママについて、熱心に語るのを見ると、


「これ、私のママなんだよ!」


って言いたくなる。




でも、我慢だ。


なんとなくだけど言わない、って決めた。




深夜、そろそろ彼が帰る、と言い出した。




「じ、じゃあ。 そ、その・・・ベットで寝てもいいよ。」




って言った時、何言ってるんだ!!って思った。


最悪だー。 恥ずかしい。 


気の迷いだーー。


気持ち悪がられるかな・・・




と心配したが、彼は鈍感だった。




でも、本心だった。


ここで彼と抱き合って、温もりを感じて・・・




って、わ、私何考えてるの!?


へ、変態じゃんかよ・・・




彼は帰っちゃった。


まぁ、また明日会えるしいいか。


今から、明日が楽しみだ。




そう思ってしばらくすると急に気持ち悪くなった。


咄嗟にナースコールを押した。




看護師さんが来てくれて、そこで吐いちゃって・・・




目が覚めると、父さんがいた。


あ、手を握ってくれてる。


父さんが泣いてるのを見て、なんとなく感づいた。




私、死ぬんだ・・・




息が変な感じだ。


血の味がする。




ピッピッピッピ・・・・




あぁ、ほんとに死にそう。


父さん・・・




不安な顔の父さん。 アメリカでかっこいいことを言ってくれた父さん。


毎日、ラインをくれた父さん。




イ、イヤ!!




嫌だ! 死にたくない。父さん! 助けて。


泣きじゃくろうにも、身体が動かない。




目が、閉じていく。


視界が薄い。




「盟!!!」




聴きなれた声だ。 落ち着く声だ。 ずっと聴いてたい声だ。


かっこいい声だ。 大好きな声だ。




陽樹・・・ 


はぁ。 本当に死にたくない。 なんでこんな体・・・


陽樹の声。父さんの泣き声。機械音。ママの歌声。






・・・聞こえなくなっちゃった。


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