転生したなら恋がしたい

ポロ

プロローグ

完璧なプロローグ

「なーにしてるの?」




その声で閉じていた眼を開けた。


目の前にはリクライニングベットに寝転ぶ女の子がいた。




女の子と言っても俺と同じ、高校生。


綺麗な黒髪、雪より白い肌、どこにも着地しない風船みたいにふわふわした声。




「あのさぁ、家の暖房が壊れたからって、病室で昼寝ってのはどうなの?」


「ちょっとくら良いだろ。」




俺はそう答えた。


病室、そうここは病院。それもかなり大きい。


目の前にいる女子高生は制服ではなく、薄いピンクの病衣を着ている。




彼女の名前は、蒼川盟あおかわ・めい


彼女は病気を抱えている。


病名は陽光病ようこうびょう。


世界でも珍しい病気だ。




「うわー。これやばそう!」


彼女は病室に付いているテレビに映った、ジェットコースターの映像を指さした。




「こういうの、乗ってみたいなぁ。」


「お前がこんなの乗ったら、ゲロ吐くだろ。」


「ふーん。陽樹はそもそも乗らないから、ゲロすら吐けないくせにー」




なっ。 俺が絶叫系無理ってばれてる!?




「まぁ、私は一生乗れないんだけどねー」


彼女はそう言いながらうつむいた。




陽光病は日光を浴びると死に至る、という病気だ。


少し浴びる程度なら、命に別状はないようだが、念のため病室の外に出ることは禁止されている。


今のところ、不治の病と言われている。




そして、彼女は余命宣告を受けている。




「い、いつかは、遊園地でもなんでもいけるよ。」


「そーかなー? まぁ結局私もビビッて乗れなさそうだけどね。」


「ほらな。 人の事言えねぇじゃねぇか」


「ちょっとー。 一緒にしないでよ! 別に怖くて乗れないって訳じゃないよ?


わたしはね・・・」




彼女はよくわからない言い訳を楽しそうに語った。


最近、彼女は元気だ。




ーーーーーーーー




俺が彼女と出会った時。一年半と少し前。


入学式から少し立った日。




教室でグループができ始めた頃。


俺はあまり馴染めていなかった。




別にハブられている訳ではないし、話相手くらいはいたが。




「あ、木村さん。これお願いできないかな?」


クラス委員長になりたての彼女は俺に、A4用紙の紙束を渡してきた。


「これは?」


「あそこの机、誰も座ってないでしょ。実は病気で入院している人がいるんだって。


その人に課題とか、色々なお知らせとかの手紙とかを渡してきて欲しいんだ。」




「なんで俺に・・・」


「じゃ、これ病院の住所と名前! よろしくね!」


俺は放課後、嫌々病院に向かった。




大きくて、綺麗で、ちょっとおしゃれなくらいな病院だ。


受付に話しかけると、部屋番号を教えてくれた。


俺は503号室のドアを開けた。




病室は広かった。


おしゃれな棚には、cdが飾られている。


おしゃれなソファもあった。




ベットには俺より少し小さいであろう背の女子がいた。




かわいいな。 


単純にそう思った。


顔も、髪も、綺麗だ。


そう思った。




「あ、あの。 どなたですか?」


彼女は怪訝そうに俺をみた。




「あ、こんにちは。今年度からあなたのクラスメイトの、木村陽樹と言います。」


「あ、そうですか。 あっ こ、こんにちは。 私は蒼川盟です。」


そんなぎこちない会話だった。




気まずいなぁ。 




「こ、これ。 課題とか、手紙とか。 課題は無理にしなくてもいいって、先生は言ってました。」


俺はベットに近づき、紙束を渡した。




「ありがとう・・・ございます」


俺は用を終えると、逃げるようにドアに向かった。


「じゃぁ。 俺はこれで。」




俺が引き戸をガラガラと半分ほど開けたところで、彼女の声がした。




「待って!・・・ください。」


何だろう。 




「星澄あみ(ほしずみあみ)って知ってる?・・・ますか?」




彼女が口に出したのは、俺が神と拝めるシンガーソングライターの名前だ。


俺は振り返った。


彼女のベットに近づき、膝をついた。




「星澄あみをご存じで?」


俺は興奮して、変に低い声で彼女に尋ねた。


「うん! 大好きなの!・・・です。」




これが俺と彼女の出会いだ。




ーーーーーーーー




「じゃっ、明日夜10時ここで!星澄あみの新曲一緒に聴こうの会で!」


「なんだその会は。」


「いーじゃん。昨日、一晩考えたんだからね。」


「一晩考えてそれかよ!?」


「いや、ちがうよー。 色々な候補から選び抜いたの!」


「候補って・・・ まぁ、じゃそういう事で。」


「うん! 遅刻したらマジでぶん殴るからね!」




かわいい顔して、そんなことを言った。


ちなみに彼女はこういう時、容赦なく殴ってくる。




俺はそうして503号室を出て、家に向かった。




明日は土曜日。


夜の10時ともなれば普通、面会はできないが看護師さんが特別に許可をしてくれた。




彼女はいつも一人だ。


彼女は男手一つで、育てられている。


彼女の父親は、彼女の入院代を稼ぐために、日夜休むことなく働いているそうだ。




さみしそうな彼女を心配して、看護師さんはいつも、面会時間外でも特別に面会させてくれる。


まぁ、俺はほぼ毎日、503号室には通ってるのだが。




あの看護師さんはいい人だなぁ、そう思いながら帰路を歩いた。




翌日、昼前。


俺はだるい体を起こした。




今日は、10時までに盟にあげるギターを買いに行くつもりだ。




盟は星澄あみに、憧れを抱いている。(俺も)


彼女はいつもエアギターをして、星澄あみの曲を歌っている。




きっと、病室でギターなんて弾けないだろうが、それでも俺はプレゼントしてあげたい。




俺は近くのショッピングモールにある楽器店に向かった。


プレゼントするとは言ったものの・・・ 俺はギターに関する知識は全くない。


とりあえず俺は星澄あみのライブ映像を思い返して、それっぽいのを探した。




悩んだ末、俺が会計に持って行ったのはボディが黒に塗装された、アコーステックギターだ。


53000円。


フッ 俺くらいになれば50000円なんて、い、痛くも痒くもないもんね!!!!!!!




俺は震えた手で5人の諭吉とお別れした。


その後、小腹がすいたのでカフェに行ったり、何とかしているうちに、21時になった。




俺は肌寒い風を感じながら、病院に向かった。




503号室。


部屋を開けると、いつも通りの景色だ。




「よっ」




彼女は右手を顔の右側に持ち上げエセ敬礼をした。


「よう。」




彼女の視線が明らかに俺が背負っているギターケースに向いている。




「むむっ むむむむむっ 陽樹君、それは一体何だい?」


俺はギターケースを開け、アコースティックギターを取り出した。




「これ、プレゼントだ。」


そうい言うと、彼女は眉をひそめた。




「ど、どういう事?」


「そのまんまの意味だよ。 プレゼント。」 




彼女は唖然としたまま、俺からギターを受け取った。


しばらくギターを見つめると、顔を上げた。




「ありがとう!」




潤んだ目で、無邪気に、かわいく笑う彼女の顔を見て、諭吉5人なんて安いものだと、そう思った。

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