キャメロン
キャメロンが誘拐された。アナルトリップスが取り敢えずの宿泊先にしていた潰れたラブホテルの跡地の廃墟。そのポストに入っていた誘拐犯からの手紙にはこう書いてあった。
「子供は預かった。返して欲しけりゃ百万円頂戴。また手紙書くかTelするね。それじゃあね。バイバイよ」
一応ホテルの中を隈なく探してみたけれど、キャメロンの姿は見当たらず(だいたいキャメロンはまだ歩けない)目に映る物と言えば干乾びたコンドームや、使ってそのまま放置されたと思われるカビの生えたヴァイブレーションや、SMやスカトロプレイをエキサイティングに彩る為のアダルトグッズや、ミイラ化、及び白骨化した夥しい数の死体ばかり。
「ふざけんな!ぶっ殺す」娘を誘拐されて怒りに震えるサーカスが分厚い電話帳を真っ二つに引き裂いた。ピードルはカビの生えたバイブを水洗い中だ。
手紙を読んで以来なんだか空気がとても重たい。建物全体を見張られているような嫌な気配を感じていたのだ。その時、フロントカウンターに備え付けられている電話のベルが鳴り響いた。怒りの余り電話に突進してきたサーカスをドリルが取り押さえた、まともな話し合いが出来ないと判断したのだろう。たまたま電話の近くにいた私が受話器を取り上げた。
「百万円用意できた?」女の声だ。
「そんな、百万なんて…普通のサラリーマンが一生掛かっても稼げないような大金を…とても、すぐには…」私がそう答えると、電話の相手は自らの正体を明かすような発言をした。
「あんた、いつまでドリル達と一緒に居る気なの?」
あんた… ドリル達… 言葉に慄を覚えた私は恐怖の余り思わず電話を切ってしまった。
「おい!何勝手に電話切ってんだよ!」怒り狂って私に突進して来たサーカスをドリルが片足タックルでテイクダウンしてくれた。頭のいいドリルは頭の悪いサーカスと違って私の電話の反応を見て状況を察知したらしい。なにも分かっていないサーカスとピードルのバカタレ二人に私が告げた。
「女性ばかりが生まれる国の女達…もう、ここまで迫ってきてる…」
サーカスでさえ倒せなかったこの国の門番を女の細腕で倒せる筈が無い。従って、ここなら女達は入ってこられない。そう考えていた私達が甘かった。そう、あいつらには「女の武器」が有ったのだ。犯人が女性ばかりが生まれる国の女達だと分かった以上百万円なんてダミーで目的がお金じゃない事は明らかだ。女達の目的は唯一つ、ドリルだ。これは、明らかに戦争だ。
「敵の頭数はどれ程なんだろうな?」
「ドリルお前なに言ってんだよ。人数なんて関係ねえ!俺様が全員ぶっ殺す」
「サーカス、少しは落ち着けよ。熱くなったら向こうの思う壺だぞ。あいつ等の事だ、容姿端麗な特別部隊で乗り込んで来ている筈なんだぞ」
「そんなの関係ねえだろうが!」
「だから少し落ち着けって。キンシャサで奇跡を起こしたってブラックムスリムに垂れ流してたらそれは操り人形だろう?」
「はあ?」
「巨大な敵に立ち向かうには頭を使わなきゃヤラれちまうんだ。先の展開を考えてケツ持ちのバックから根絶やすようにしなければ意味が無いだろう。そうカッカするなって。構築するならばスリラーインマニラなんだよ」
「言ってる意味が全然分からねえんだよ!屁理屈をホザいてんじゃねえよ!関係ねえ!俺様が全員ぶっ殺す」
熱くなる一方のサーカスに、ドリルが珍しく声を荒げた。
「いい加減にしろよサーカス。大抵の場合お前は間違えてるけれど今回も大間違いだぞ。いいか、少しは黙って俺の話を最後まで聞くんだ」ドリルの剣幕にサーカスが珍しくたじろいだ。
「よく聞けよサーカス、まずは思い出すんだ、あの門番の腕力を。あのパワーから推測すると、この国の男達の戦闘力は侮れないぞ。もし女達が女の武器を駆使して男達を門下に引き入れていたら…俺達、丸腰で向かって行ったら相当にヤバい事になると思うぞ、パワーでは到底太刀打ち出来ない、まともに行っても勝ち目は無いんだ」まさに正論だ。しかし、娘を誘拐されているサーカスも当然ながら黙ってはいない。
「じゃあキャメロンはどうなるんだよ。テメーまさか見殺しにするつもりじゃねえだろうな」
「馬鹿野郎!お前の娘は俺の娘も同然だろうが!見殺す訳が無いだろう。キャメロンの事を考えるなら頭を使えって言ってるんだよ。俺達が犬死したら、それこそキャメロンはどうなるよ!」
腕力では敵わない。残念ながらこれは立証されてしまっている。ならば、どうする…。アナルトリップスに必要なのは緻密な作戦だ。正しい道筋を導き出して確実に展開を続けるより他に手は無い。埃を被ったSMグッズの乾拭きに余念の無いピードルを除いた三人、ドリル、サーカス、私によるキャメロン救出プロジェクト、作戦会議が始まった。
武器の確保。まず最初にやらなければならない事はこれだ。片っ端から集められるだけの武器をかき集める。こっちの居場所がバレている以上迂闊に出歩くのは危険だけれど何しろ私達のアジトは潰れたラブホの跡地の廃墟だ。武器に使えそうな物と言えば、さっきからピードルが乾拭きしているSM用の鞭ぐらいの物だ。話にならない。
「昨日行ったピザ屋の横にホームセンターが有ったよなぁ」ドリルが何かを思い付いた様子で話し出した。
「何とかしてホームセンターまで辿り着ければハンマーやらサンダーやら有刺鉄線やら色々と使える物が有るんだけどなぁ」ホームセンターは確かに名案だ。しかし、多分このラブホには見張りが付けられているだろう。せっかくの名案だけれども私は反対意見を出した。
「でも難しいと思うのよ。奴らの目を欺いてホームセンターまで行って更に買い物を済ませた後ここまで戻って来るなんて」
「バカだなあ、あんた。そんなの簡単じゃん」
ピードルが珍しく意見を出してきた。
「ねえちゃんよぉ、ここはラブホだぜ。ラブリーホテルなんだぜ。あんたがこの忘れ物のボンデージを着てホテトル嬢に成りすまして出入りすればイイじゃんよ。簡単な話しだぜ。化粧もナンシースパンゲンみたいに分厚く塗りたくればバッチリ誰だか判らないぜ」
これだから馬鹿は困る。こんな営業もしていないラブホにどうしてホテトルのお姉さんが出入りするとゆうのだろうか。しかも最初からボンデージ姿とは。馬鹿さ加減に呆れて黙っている私に「いいからコレに着替えろよお」とボンデージを差し出しながらピードルは話を続けた。
「分かってねえなぁ、お前はよぉ。いくら顔をナンシーにしたって服が同じじゃバレバレじゃんよぉ。今有る服の中で女達が見た事ない服はこのボンデージしかないだろうが!」
「だからさぁ、いくら私が変装したって営業してないホテルに人の出入りは無いでしょうが」
「そんなモノはねえちゃん、こうすればイイじゃんかよ」ピードルがブレイカーのスイッチレバーを押し上げた。次の瞬間、建物全体に灯りが灯り営業モードに突入した。
「なんだよ、お前やるじゃねえかよ。お前、出会ってから初めてイイ事したな」サーカスがピードルを褒め称えている。しかし、私はやっぱり釈然としない。
「そうかなあ?だって変じゃない、敵は私達が中に居るって知ってるんだよ。使われていない建物に入って行く所を見られてて、その建物の灯りが突然点いた所で中に居る私達が電気を点けたとしか思わないでしょう?普通は」
「大丈夫だ。あいつらは普通じゃねえから」
「いや、それはそうかもしれないけどさぁ」
「いいから安心してコレに着替えろって。全てはオーライ夢を見ようぜ」
「いやぁやっぱりおかしいでしょう。大体さぁ何で出入りの段階からボンデージなのよ。そっからして変じゃない」
「だ!か!ら!変装だって言ってんじゃんよ」
「変装って言ったって…第一これじゃあホテトルのおねえさんって言うよりも完全にSMの女王様じゃない」
「どっちでもいいんだよ!どっちでも。いいから早く着替えろよ!早くこれに着替えろよ!キ・ガ・エ・ロ・よぉー」
コイツ、完全に生ボンデージが見たいだけだ。
「娼婦の役はよぉぉ、お前にしか出来ないだろうがよぉぉぉぉ」完全に目が血走っている。危なすぎる表情にビビった私はドリルに意見を求めた。
「ねえドリル、ドリルはどう思う?こんな馬鹿げた作戦が本当に上手く行くと思う?」
「…ん?ああ、ごめん。聞いてなかった」
普段ナチュラルメイクな私の化粧道具でナンシー風のメイクを施すのは思ったよりも大変でかなりの時間が掛かってしまった。大体において元々美しい私の顔ではどんなに頑張ってケバくメイクしてもナンシーと言うよりはマリリン・モンローかデボラ・ハリー、もしくはマドンナになってしまう。
「私ヤバイね来てるよねぇー。マドンナになっちゃったよぉー。でも別にいいんだよねぇ、ナンシーに見えなくったってぇ。ケバケバメイクで私だって分からなければイイんだもんねぇー。私ぃマドンナになっちゃったよぉー」
「なあ、ブスよ」
「認めない。私は絶対にブスじゃない」
その時だった。
「やばい!囲まれたぞ」ドリルのその一言で弛緩していたアナルトリップスに一気に緊張感が戻った。窓から外を見てみると、何をトチ狂ったのかトップレスの女達。そして、そんな馬鹿女達を警護するように眼光鋭く仁王立ちする男達。男達の中にはサーカスを秒殺したあの門番の姿も見える。そして門番以外のメンツも皆相当なマッチョボディを誇っており、どいつもこいつも「わりぃーけど俺つえぇーから」的なオーラを無意味に醸し出している。ホームセンターには行けなくなってしまった。アナルトリップスは又しても包囲されてしまった。
この大ピンチの中、リーダーシップを発揮したのは、やはりドリルだった。
「時間が無い。説明は後回しだ。みんな俺の指示に従ってくれ!」
指示の内容を聞いてもドリルの立てた作戦の意図は私には分からなかった。分からなかったけれども、取り敢えずドリルの作戦はこうだった。
「みんな手分けして全ての部屋のエロビデオを再生してくれ。時間が無いなるべく早くだ。各フロア全てのビデオを再生したら、そのままAVを流しっぱなしにして最上階に上がって来てくれ。最上階に上がったらエレベーターを背にして向かって一番左の部屋に全員集合だ。おい、あんた」ドリルが私に呼び掛けた。
「あんたは一番安全な最上階、五階を頼む。俺が一階と二階、サーカス三階、ピードルお前は四階だ!」
なぜ最上階が一番安全なのか?それは私には分からない。分からないけれども、それがこの作戦のポイントなのだろう。とにかく今は考えている時間は無い。各自がそれぞれバラバラに指示されたフロアに散らばった。
気転を利かせた私がAVの音量を最大にしたので最上階の左端、アナルトリップスの新しいアジトにいなった506号室には今、喘ぎ声が渦巻いている。ここまではドリルの指示通りに事が進んでいる。
「なるほどな、この作戦ひょっとしたら上手く行くかもしれないな」サーカスは指示に従っている間にドリルの作戦が大体は読めてきたらしい。何故最上階なのか?何故AVなのか?全く分かっていない私と、作戦自体に興味の無いピードル。そんな私とピードルにドリルが作戦の全貌を明らかにしてくれた。
女性ばかりが生まれる国では「アダルトビデオ」どころか「ポルノマガジン」さえも表立っては存在していないらしい。国民の殆どを女性が占めているのだから男優物のアダルトビデオや男性モデルがグラビアを飾る成人雑誌など有りそうなモノだが、ドリルに言わせると「そんな物が有ったら女達を刺激して大変な事になってしまう」との事で「普通の国とは事情が違うんだ」そうである。
つまり普通の国であればAVを見て興奮、グラビアを見て発情、そうなった場合即座に街や飲み屋に繰り出して異性をGET。または、容姿、トーク、体臭、醸し出す雰囲気などに様々な難点を抱え「そこのトコロ」を自力ではどうにも出来ない人達の為にも、風俗、援助交際、出張サービス、シークレットパーティー等の金さえ払えばどうにでもなる楽しげなイベントが数多く存在している。
しかしながら「女性ばかりが生まれる国」の様に極端に男女の人数比率に違いが有る場合、映像や写真を見てイタズラに興奮してしまった所で、その「性行為の対象異性」が少なすぎて大概の場合どうすることも出来ない。エナジーコントロールはイコール、プッシーコントロールな訳でプッシーのコントロールが自在で可能で有るならば、それはもう、いわゆるパーフェクトヒューマンの部類に入っていると言っても過言ではなく、そうで有ると言うならばご存知のようにパーフェクトなんて率が割れている。と、言うよりも殆ど無比だ。まあ、そう言った理由から性犯罪防止を理由にAVもエロ本も一般流通はしていないのだとゆう。
そこに来てドリルのこの作戦。女達はアナルトリップスを捜す為に各フロア全ての部屋を見て回る事になる。その際に全くと言っていい程免疫の無いAVがガンガンに流れているのだ、発情してしまう可能性が非常に高い。最初の内は何とか堪えていたとしてもアナルトリップスのアジトは最上階の一番端だ、辿り着くまでにどれ程のプレイを目撃する事になるのか。ドリルが力説した。「我慢出来なくなった女達が親衛隊として連れてきた男達と、おっぱじめてさえくれれば、その隙を突いてホテルから脱出できる」との事だ。素晴らしい。素晴らし過ぎる。考えに考え込まれた物凄い作戦だ。「AV」「最上階」この二つのキーワードが見事にコラボレート。後はクロスオーヴァーを待つのみだ。
息を潜めて身を隠すアナルトリップス。今現在は敵の様子を窺い知る事は出来ない。敵がコトを始めたかどうかは全神経を集中させて感覚で察知する以外の術は無い。それにドリルの思惑通りに一斉乱交が始まったとしても部屋を出て行くタイミングが全てだと言っても過言では無い。何しろ目撃されたら終わりなのだから。
数分後ドリルの勘だけを頼りにアナルトリップスはアジトのドアを開けた。静かに様子を窺ってみる。今の所最上階に敵の気配は感じられない。始めているのか、それともまだ探しているのか、下のフロアに降りて行ってみるべきなのか。私達が迷っていたその時、ホテルに軽い横揺れが走った。地震だ!
この肝心な時に地震だなんて。横揺れに続いて今度は縦揺れれだ。しかも震度はドンドン大きくなってゆく。
「いや違う!これは地震なんかじゃない」不安に震える私の隣でドリルのハンサムが力強く引き締まった。
「窓の外を見てみるんだ。街自体は揺れていない。揺れているのはこのホテルだけじゃないか」ドリルの言葉に窓から外を見てみると、本当だ、確かに街は揺れていない。だけど、それならばこの揺れは一体なんなの?その時ドリルがニヒルに笑い確信に満ちた表情で切り出した。
「この地震の震源地はこのホテルなんだ」一瞬の沈黙。ホテルは確かに揺れている。ドリルは更に言葉を続けた。
「震源地と言うよりも、このホテルだけが揺れているんだ。言ってる意味が分かるか?俺達の作戦が成功したって事だよ。あいつら、ついに我慢出来なくなったんだよ。おっぱじめたんだよ。作戦は成功だ!性交だ」
このフロアに見当たらないとゆう事は、敵は最上階までは到達していない。辛抱堪らなくなったのは何階辺りでなのだろう。アナルトリップスは慎重に歩みを進めながら四階に続く階段を降りようとしていた。その時!階段の下から喘ぎ声が聞こえてきた。しかも、その声のヴォリュームからして部屋の中では無い。廊下だ!少なくとも何組かは確実に廊下でエンジョイしている。
「アアア・アアア・アーア・アアア」
「おおお・おおお・おーお・おおお」
「アアア・アアア・アーア・アアア」
「おおお・おおお・おーお・おおお」
息を潜めて耳を澄ませていると、ある事に気が付いた。声の聞こえ方がおかしいのだ。なんなのだろ、この違和感は。
「おいおい何だかおかしくねえかぁ?あいつ等の喘ぎ声こっちに近ずいて来てねえか?」サーカスの発言に私達は顔を見合わせた。そうだ!感じていた違和感はこれだったのだ。
気のせい?いや違う。ヴォイスは確実に移動している。そして、やはりこっちに近ずいて来ている。どうゆう事?一体なにが起きてるの?掴めない状況に苛立ちが隠せない。ホテルは相変わらず揺れている。プレイは確実に続行中なのだ。それなのに姿無き喘ぎ声がアナルトリップスに近ずいて来ている。違和感が襲う違和感の無い恐怖。もう完全にパニックだ。
しばらくの間恐怖に怯えていた。しかし、いつまでも現実逃避を続けていても仕方が無い。私達は声鳴る方へと視線を送った。そして視線の先で繰り広げられていたヤバい状況は私達をマジでビビらせた。
殆どの女達はストーンコールド・スタナーを仕掛けるような体勢を取り背後の相手の首に手を掛けて自分の体重を支えながら立ちバック、そんな二人羽おりのような状態でペタペタと進みながら後ろから突かれている。男達は操縦士の如く、深く激しく時には浅くマタドールのようにbabyをPUSSYコントロール。リズムに合わせて合体した獣達がこっちに向かって進んで来ている。大体約八割がその体勢。残りの二割は腕を相手の首に絡めずにアームをブラブラとシェイクさせながら朦朧とエクスタシー。その他に、さすがにこれは一組だけだが駅弁スタイルのカップルもいる。考えてもみて欲しい、ここが一体何階なのかを。もしもフロアワンから駅弁だったならば、この男の脚力はイギリスのバックステージでミスターレッグと恐れられた海外武者修行中時代の若き日の前田日明にも引けを取らない凄玉だ。その脚力から分析しても、やはりこの国の男達の戦闘力は並大抵では無い。奴等はプレイを続行しながらも一部屋一部屋ドアを開けて中を確認、アナルトリップスの存在を見落とさない様にと細心の注意を怠らない。四面楚歌のアナルトリップスはアジトへのリバースを余儀なくされてしまった。
集団がSEXしながら迫って来る。こんな恐怖があるだろうか。SEXによるヴァイブレーションが上階に移動して来た為、建物全体の揺れも激しさを増している。
「駄目だぁ!もう絶対に殺されるぅー。頼むぅ、最後に一発やらせてくれぇー」最後まで志が低く見苦しいピードルが私に覆い掛かろうとして来たので思いっきり顔面をぶん殴ってやった。下品で駄目なピードルはシカトして私とドリルとサーカスは、もう無我の境地だった。私達三人は瞳を閉じてキャメロンの無事だけを祈っていた。キャメロン、大きくなってちょうだいね。
私に拒まれたピードルがマスターベイションしている。壁に耳を当てているので、どうやらネタは敵の生音のようだ。
「おっかしいなぁ…一体どうしたってゆうんだよ…」ピードルの様子がおかしい。ピストン運動を中断してしきりに耳を壁に押し当て擦り付けている。
「どうした?ピードル。最後になるかもしれないんだ思う存分やっておけよ」そんなドリルの言葉も耳に入らないとばかりに首を傾げながら場所を移動してテレビの前に跪き画面のAVでシコりだした。AVでシコり始めたピードルを見て怪訝そうにサーカスが言った。
「おい、なんか変だぞ。ピードルはアホみたいなオナニストだけどAVは好きじゃないんだよ。想像か妄想か覗きか、動画だとしたらロリコン一筋、こんな大人のは好きじゃないんだよ。最後になるかもしれないのに、よりによってアダルトって…。おいピードル、お前一体どうしたんだよ?」
「うるさいよ。集中できないだろうがよ。俺だってこんなのは嫌だよ。でも、しょうがねえだろう。あいつ等いきなり静かになって何も聞こえなくなっちゃったんだからよ」
あいつ等がいきなり静かになった?そして何も聞こえない?それって一体どうゆう事なの。その時だった、一瞬の静寂の後、ドアを隔てた廊下から女達の悲鳴がアジトの中に響き渡った。
「ちょっと嫌だぁー!いい加減に離しなさいよぉー!」
「なんなのよぉ、ちょっとフザけないでよぉ」
「勘違いしないでよぉー!」
「痛い痛い痛い!臭い臭い臭い!」
今、ドアの向こう側では一体何が起きているのだろう。状況が全く掴めない。ただ一つだけ確かな事は明らかに女達が男達を嫌がり始め悲鳴まで上げているとゆう事だ。敵方の信頼関係は確実に悪化している。その時ドリルの目が妖艶に光を放った。更には次の瞬間、ドリルは瞬き程の迷いも見せずにアジトのドアを開け放った。
「きゃあぁぁぁぁぁぁー!」ドリルの姿を確認して一斉に湧き上がる女達の悲鳴にも似た大歓声。「やっぱりだ。オイみんな、もう大丈夫だから廊下に出て来いよ」ドリルの言葉に恐る恐る部屋から廊下に顔を出すと、驚いた事に敵の男女は全員廊下に横になりピーロートークの真っ最中だった。しかし、よくよく見てみると満足そうなのは男達の方だけで、女達は皆明らかに現状を嫌がっている。
「ドリルぅー!ドリルー!」女達は更に声を張り上げて縋る様にドリルに助けを求めている。しかしながら悲鳴も虚しく、その体は屈強な男達の強烈な腕力によって強引に腕枕の体勢を取らされて身動き一つままならない。ドリルの名前を連呼する女達に対し男達は完全に勘違い&有頂天、ベルトをカチャカチャいわせると自慢のドリルをぶち込んだ。
「なあドリル、最後のこれは予想外だったけど何だか結果オーライだな」
「全くだなサーカス。よし、行こうか」ドリルとサーカスが躊躇無くズンズンを廊下を突き進んでいく。悲鳴とSEXが渦巻くホテルの廊下で今一つ状況を把握し切れていない私は足がすくんでしまって最初の一歩が踏み出せない。そんな私に気ずいたドリルが私の元に引き返して来てくれた。
「なんだ、まだ分からないのか?俺達は勝ったんだよ。戦いは制したんだ、もう怖がらなくていい。後はこの隙にキャメロンを探し出すんだ」ドリルは私の手首を掴んで最初の一歩をエスコートしてくれた。
まあ要するに、女達の作戦は途中までは上手く行っていたのだ。アナルトリップスが「女性ばかりが生まれる国」の国境を越えてしまえば女達は自国の法律が使えなくなってしまう。そうなると当然、腕力で劣る女達がドリルを連れ戻す事は難しい。
アナルトリップスを追跡していた女達は粘り強く捜索を続けながら私達がミスを犯すのを虎視眈々と待ち続けた。そして、その時はついに訪れる。アナルトリップスが「腕相撲が全ての国」に入国するのを見届けた時、女達は自分達が思い描いた卑猥な青写真に思わず「うっとり」とした事だろう。押して駄目ならもっと強く押してみな。それでも駄目ならもっともっと強く押せばいい。女達は舌なめずりさえしながらそう思った事だろう。アナルトリップスの新たな入国先が「腕相撲が全ての国」だった事は女達にとってこれ以上無い程の好都合だったのだ。
そんじょそこらの輩共ではドリルとサーカスを打ち負かす事は到底不可能だ。その事は女達だって重々承知している。しかし女達は知っていた「腕相撲が全ての国」の男達が途轍もない腕力を遺伝子レベルで持合わせているマッスルモンスター達だとゆう事を。更には、この国は女達の自国と真逆で女性の人口が極端に少なく、ここのモンスター達が常に女に飢えているとゆう事も。
そこで女達は「女の武器」を駆使してモンスター達を自分達の虜にしてしまいドリルとサーカスに立ち向かわせる事を企てたのだ。男達が取り押さえたアナルトリップスを「女性ばかりが生まれる国」に連れ戻し男三人には再び強制SEXの実刑。私には拷問でも与えて楽しむつもりにでもなっていたのだろう。
しかし、女達の作戦は詰めが甘かった。女達は最後の最後で初歩的なミスを犯したのだ。
男を虜にし過ぎたのか、それとも単純に男達が御無沙汰過ぎたのか。その辺りの事情はよく分からないけれど、少なくともモテない男特有の「一回やったら俺の女」的な勘違いまでは計算に入っていなかったのだろう。そして、頼りにしていた男達の腕力が自分達に向けられた時、今現在の状況のように好きでも無い男に抱かれながら好きな男の目の前で泣く羽目になる事も。
男達の腕の中でジタバタと泣き喚く女達の姿を見たり見なかったりしながら私は今、堂々と廊下を歩いている。ドリルに向かって泣き喚く女達に向かってドリルでは無くサーカスが言葉を吐いた。
「馬鹿だなぁお前ら。でも良かったじゃん、男ができて。ここで暮らせばいいじゃんかよ。でもお前ら知ってるか、この国の掟を。腕相撲で上下関係の全てが決まるらしいぞ。お前らもう今まで通りには行かないぜ。前の国では人数に物を言わせて好き勝手に男達を支配してくれてたけどよ、今度はお前らが支配されるんだよ。男にな。腕力にな」
女達の悲鳴を背にアナルトリップスは意気揚々とフロアを下った。早くキャメロンを探し出さなければ。一階フロントまで辿り着いた時、奥の一室から赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。多分間違いないだろう、キャメロンは奥の部屋に居る。
「キャメロぉーン!」サーカスはドアに体当たりしてそのまま部屋に雪崩れ込んで行った。しかし運悪くサーカスの直撃によって吹っ飛んで行ったドアがベビーカーに乗っていた赤ちゃんに直撃してしまった。赤ちゃんはベビーカーから転げ落ち脳天から垂直落下、廊下に叩き付けられてしまった。
「おんぎゃぁぁぁぁぁー!」赤ちゃん断末魔の大泣き。この子は本当にキャメロンなのだろうか?声から判断すると多分そうなんだろうけれど、直撃と落下、全ての打ち所が最悪だったらしく顔面が血だらけで人相が把握できない。動揺しまくりで赤ちゃんの顔をペロペロと舐めるばかりのサーカス、その横でドリルが叫んだ。
「病院だ!早く病院に連れて行こう。キャメロンだ、この子は間違いなくキャメロンだ!」そりゃあ、この子がキャメロンじゃなかったとしても病院に連れて行くでしょう。かなりの大怪我だ、出血の量が半端では無い。緊急事態だと言うのにピードルがチンタラと口を挟んできた。
「だけどさぁドリル、このガキ顔面血まみれで顔なんて分かんないじゃん。どうしてキャメロンだって言い切れるんだよ」
「いいかピードルよく見てみろよ。お尻だよお尻。まだ短いけれどサーカスと同じようなシッポがオムツを突き破って生えてきてるじゃないか」
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