スーパー・ハイパー・デビル・イメージ

「もしもし、聞こえてる?約束なんかは要らないから構わずにダラダラしててくれよ。言い訳なんてしなくていいから、いつでもヘラヘラしててくれ。だって、イメージで話を盛り上げるには態度と時代が悪過ぎるしピースメイクを気取るにはパートナーがブサイク過ぎるよ。それに、せっかく君や君達が大好きな真夜中になった訳だし俺だってそれが好きなんだ。大事な話だ!聞きやがれ!だからもう、俺が悪魔のスカートをデートに誘うから俺達がテンションを奪い合っている間に君の方はヘアスタイルに時間を掛け過ぎて待ち合わせ場所に遅刻するんだ。ほら、それならば確実にやり遂げる事が出来るだろう?まあ、一つぐらいなら確かな事も存在するって訳だ。これは秘密なんかじゃない、誰彼構わずに言いふらしてくれよ。聞いてくれてありがとう。サンキューベリーマッチ」

 意味分かんない。何この留守電。意味分かんないと言えば、さっきから意味不明な三人組が私の後ろを付いて来る。

 私は可愛いからよくナンパされるんだけど、女一人に男三人で来たって付いて行く訳ないんだし、この三人は本当の馬鹿か本物の暇人だ。

 三人はそれぞれにドリル、サーカス、ピードルと名乗り、誘いを断り続ける私にしつこく付きまとった。

「肉でも何でも奢ってやるぜ。今から飲みに行こうぜBaby」

「同じ事を言わせないでよ。私は今から仕事なの」

 三人組のナンパと言っても、話し掛けて来るのは一番ブサイクなサーカスとかゆう奴だけで、ドリルとピードルを名乗る後の二人はブラブラと付いて来ているだけだった。

「だ・か・ら!同じことを言わせるなよ!今から一緒に飲みに行くぞ」

「だ・か・ら!私はこれから仕事なの!酒を飲んでる場合じゃないの」

 マジ不細工マジうざい。よりによって一番ブサイクが積極的だよ。ピードルって奴もブサイクだけど体のサイズが普通な分だけサーカスよりかはまだマシ。だってサーカス、余裕で二メートル超えてるよ。こえーんだよ。しかし、もう一人のドリル、はっきり言ってこいつは当たりだ。超イケメンかっこいい。せめてこっちが来てくれたなら通勤時間の暇潰しぐらいにはなったのに。

 仕事先までは後僅かだったけれど、サーカスがおっかないので私はタクシーに手を上げた。サーカスは相変わらずギャーギャーうるさかったけど、私がタクシーに乗り込むと憮然とした表情を浮かべ逆方向に消えて行った。

 私は仕事先「アナルの鉄人」の休憩室でタバコを吸っていた。

 今日はアナルの鉄人、月一回の定休日なんだけれど昼過ぎに店から電話が有って「臨時営業する事になった」と言われ「自給1・5倍」に釣られ、暇丸出しで出勤してきた所だった。

 営業開始時刻を過ぎても店に女の子は私しか居なかった。さすがに当日では急すぎて他の女の子達の都合が付かなかったのだろう。店長の知り合いとかで先週から働いている公一と岩浜の二人が開店準備にバタバタしてるけど何しろ人手が足りなすぎる。これ、今日は営業出来ないでしょう。

「ねえ、やっぱり今日は無理でしょう。女の子、私一人じゃどうしようもないよ。もう私も帰っていいでしょう?あっ、交通費はちゃんと付けてね」その時だった。

 私は公一に殴られて、そのまま椅子から転げ落ちた。拳で殴られたのは生まれて初めてだった。痛みと恐怖で声も出せずにいる私に、公一と岩浜が襲い掛かって来た。

 私は何故だか凄く冷静だった。店内を見渡すと、ご丁重に岩浜が店中を施錠して回っている。私はもう完全に諦めていた。それに、悔しいけれど本当に怖かったので抵抗とゆう思考回路は頭の隅にも浮かばなかった。

 逆流してくる自分の鼻血を必死になって飲み下しながら天井付近に視線を彷徨わす私は完全にマヌケなマグロだ。しかしコイツらはこんな冷凍マグロを相手にして一体何が楽しいのだろう。モタモタと手際の悪い公一と岩浜、こっちはもう、とっくに諦めているんだから、せめてさっささと終わらせてくれよ。痛いんだよ馬鹿野郎。臭いんだよ糞野郎。もうすぐ公一のが私に触れる、貫通直前その時だった。

「オイっ」ドリルだった。

「コラっ!」続いてサーカス。

 完全に施錠されている筈の店内に、突然さっきの三人組が姿を現した。

 凄かった。ドリルは公一をボコボコにぶち回し耳から血が出る程殴り付けて完全に顔面を破壊。足関節に狙いを変えるとアキレスからヒールに移行、靭帯をブチ切った。

 凄かった。サーカスは岩浜をクソがチビる程殴り付け、逆さまに持ち上げるとパイルドライバーと見せ掛けてのショルダーバスター。完全に肩を破壊してから足関節に狙いを変えてヒザ十字からアンクルに移行、靭帯と足首をブチ切った。

 凄かった。ピードルは自分には関係ないし興味もないとばかりにアナルの鉄人指名用写真パネルをガン見。おもむろにパンツをズリ下ろすと50センチ以上は有りそうなコブラみたいな逸物をコブラツイストさせていた。マジ、すげー。

 しかし、助けてもらったのは非常に有りがたかったのだけど、ドリルとサーカスの二人はヤリ過ぎている感が否めなかった。尚も攻撃を加え続ける二人に、私はやっとの思いで声をかけた。

「お願い。もうヤメて。その二人、とっくに死んでるから…」

「あんた達さぁ、これから逃亡生活に入るんでしょう?一応殺人犯な訳だし」私は水道水で顔にコビり付いた鼻血を洗い落としながら三人に話し掛けた。

「だったらさぁ、私の事も連れて行ってくれない?退屈で仕方が無いのよ」

 私の提案はあっさりと受け入れられ私達はチームになった。ドリル、サーカス、ピードルに私を含めた四人組、チーム「アナルトリップス」は取り敢えずは現場を離れようとゆう事になり、ドリルのカッコいい車「ドリルモービル」に乗り込んで一路大阪へと向かった。なぜ大阪なのかと言うとピードルが「どうしてもユニバーサルスタジオジパングに行きたい」と言い出し「連れて行ってくれないなら、お前らをポリスに売ってやる」と騒ぎ出したからだ。

「まったくテメーはムカ付くサルだよ」と、サーカスはピードルを金属バットでボコボコに叩きのめした。手加減知らずのサーカス、ドリルが止めに入らなければピードルは死んでいただろう。しかし、ピードルをボコっている間にサーカスは自分自身もユニバに行きたくなったらしく半殺しのピードルをトランクに押し込み葉巻をゆるりと燻らせた。幸い一命は取り留めたもののピードルは片目を失い隻眼になった。しかしサーカスに悪びれた様子は微塵も無く「これであの馬鹿も世の中の仕組みが少しは見えるようになっただろうよ。片目だけに一目瞭然ってな。ひゃはははは」と高笑い。金属バットの素振りを繰り返した。

 バカでかい鶏のオブジェがやけに可愛い町外れの古びた旅館。休息と食事を兼ねてアナルトリップスは入館を試みた。

 しかし、呼び出しブザーを何べん鳴らしても旅館側からの応答は無かった。空腹でハナから半ギレ状態のサーカスが金属バットでロビーの備品を破壊していると、ヨボヨボの爺さんがフライドチキンでベトベトになりながらヨチヨチと姿を現した。

「はいはいはい、聞こえていますよぉ。どんな御用件でしょうかねぇ」

「分かりきった事を聞くなジジイ。部屋と飯だ、早くしろ」

 どうして?ってぐらい広い部屋に通されたアナルトリップス、食事の準備をお願いすると「本日は時間的にもう御用意できません」との返事。

「クソジジイ!お前にヤル気がねえだけだろうが!」サーカスがテレビのリモコンを爺さんに投げ付けた。リモコンは爺さんの右耳スレスレを通り過ぎ耳から飛び出たロングな耳毛が数本タタミに散らばった。

「フ、フライドチキンならすぐに御用意できますが…」

「食い残しじゃねえか馬鹿野郎!」

 サーカスが爺さんを部屋から連れ出した。数分後、サーカスが一人で部屋に戻って来た。爺さんの姿は見当たらないがサーカスのタンクトップには何者かの返り血がべったりとコビり付いている。

「なあドリル、俺もう腹減って死にそうだぜ。さっきコンビニ有ったよな」

「そうだな。コンビニ行って食事にしようか」

「あぁぁぁ腹へったぁー」そう言うとサーカスは階段を使わずに直接窓から飛び降りて地面に着地。そのまま近くのコンビニに入って行った。ここ、三階なんですけど。

「チキンが生意気に肉なんて食ってんじゃねえ。チキンはチキンらしくプリンでも食ってろ」さっきサーカスに砕かれたばかりの顎で必死にフランクフルトに噛り付くピードルをサーカスが笑いながらローキックで蹴飛ばした。

「まだ無理だよ。ほら、これでカロリーを補給しとけよ」ローの勢いでフランクを落してしまったピードルにドリルがウイダーインゼリーを手渡した。やさしー。そんでカッコいいー。ドリルやばいカッコいい、下品なサーカスとは違ってワイルドだけど品が有る、まるでエロール・フリンみたいだ。

 一人じゃない食事はいつ以来だろう。中学生みたいに車止めに腰掛けて食べるカップ焼きソバが美味し過ぎて私は涙が出てきた。いつも自宅で食べている半分ぐらい食べると味気なくて美味しくなくて台所に流して捨てていた焼そばと同じ銘柄なのに私は速攻完食していた。一つじゃ足りなくてもう一つ購入。お湯をドブに流した私は二つ目を食べだした。泣きながら焼きソバを食べている私の事を、三人は不思議そうに眺めていた。

 コンビニからの帰り道、赤ちゃんを抱っこした若い女がアナルトリップスに近ずいて来た。

「サーカス!サーカスじゃないの。やっと見つけた。あなたの事、ずぅーっと探していたんだから」サーカスは、誰だコイツって顔で女に答えた。

「お前は誰だ?どっかで会ったか?」サーカスの言葉に女の表情が怒りに満ちた。

「はあ?あんたソレほんと言ってる?一緒に暮らした女の顔をよくも簡単に忘れてくれるわね」

 要約すると、女の話はこんな感じだった。

 サーカスとこの女は恋人同士だった。結婚を誓い合い同棲を続けていた二人だったが、ある時サーカスが突然の失踪。時を同じくして女の妊娠が発覚。サーカスを愛していた彼女は彼の帰りを信じて待っている間に子供を出産。しかし、サーカスが女の元に戻る事は無く彼女は孤立。シングルマザーとして奮闘を続けたが派遣会社に登録しているフリーターの彼女の給料は聞いているこっちが引いてしまうぐらいに手取りが少なく一人で子供を育てていく事は困難。てゆーか無理。なので毎月一定額を彼女の銀行口座に振り込んで欲しい。と、まあ、そうゆう話だった。

「分かるでしょうサーカス。この子は貴方の子供なの。私と貴方との愛の結晶なのよ」女の腕に抱かれて、サーカスにそっくりな赤ん坊が小さな寝息を立てている。可哀想に、この顔では、この先、生きていてもロクな事は無いだろう。寝顔すらもブサイクだ。

「聞いてるのサーカス?この子は私と貴方の子なのよ。私達の子供なのよ」

「あーそうなんだ。そいつはおめでとう。幸せにしてやってくれよな」

「あんた何言ってんの。おめーの子供だって言ってんだろうが。責任感じて誠意を見せろよ!」ブチ切れた女は頭からエクステを引き千切りサーカスに投げ付けた。てゆーかエクステなんてしてるから金ないんじゃないの?女の付け毛が頭に乗っかって、変な髪形が更に変になったサーカスが女に逆ギレた。

「うっせーよ。バカ、ブス、死ね。金をよこせだぁ?俺様が世界で一番嫌いな言葉は送金なんだよ。お前に金を送るぐらいならこの子は俺様が育てるって話しなんだよ。確かにこの子は俺様の子だ。だって俺様にそっくりだからな。けどなブス、お前の事はマジで知らねえ。目障りなんだよ、消え失せろ!」サーカスは女から子供を奪い取ると女のケツを蹴り上げた。怪人サーカスの強烈なキックをまともに食らった女は粉々に砕けた尾骶骨で隣町まで吹っ飛んで行った。

 サーカスがあっさりと子供を認知した為、アナルのツアーに赤ちゃんが加わった。サーカスは右が緑で左が紫のツートーンカラーの長い舌で赤ちゃんを舐め回している。意外にも子供好きらしい。ところでこの子の名前は?って話になって、当然名前は有ったんだろうけどサーカスが名前を聞く前に母親を吹っ飛ばしてしまった為、今の所この子は名無し子だ。子供の顔が顔だけに出来るだけ強そうで男らしい名前を付けて不細工とゆうハンディキャップを違和感を少なくして薄めてあげたい。その一心から私はサーカスに、なるべく凶悪で暴力的な響きのする単語を次々とピックアップしていった。最終候補に残った鬼熊(私押し)とエグゾセ(サーカス押し)の二つで私とサーカスが熱い議論を交わしている時、ドリルがもっともな意見で名前決め会議に参入してきた。

「なあ二人共、名前を決めるのはいいんだけどさあ、その前にこの子は男なのか女なのか?さっきから聞いてると二人共完全に男である事を前提に考えてないか?その子の名前」

 言われてみればそうだった。赤ちゃんが余りにも不細工でサーカスにそっくりだった為、男の子だって決め付けていたけれど、もしも、この顔でそうだったならば大変な悲劇では有るけれど女の子だって可能性も有るじゃない。私はオチンチンが付いている事を神に祈りながら赤ん坊のオムツをペロンと剥がした。

 駄目でした。チンコ・ナッシング。祈りがこんなに無力とは…思わず私は天を仰いだ。

「女かあ。よーし決めた、俺様の子供の名前はキャメロンだ。この子の名前はキャメロンに決定だ!」当事者であるサーカスは自分達親子の身に降り掛かった悲劇に全くの無関心。実に楽しそうに親子で戯れている。そうよ、私が悲観したって何も始まらない。私は自身を奮い立たせて気丈に明るく振舞った。

「へー、キャメロンにしたんだぁ。いい名前じゃない、とっても可愛い名前だと思うわ。だけど、どうしてキャメロンで即決なの?」

「分かりきった事を聞くなよブス。俺様がキャメロン・ディアス大好きだからに決まってんだろう」

 キャメロンが加わって五人組になったアナルトリップスはドリルモービルをブッ飛ばし活動を再開した。

「なあドリル、娘も出来た事だしUFJに行く前にちょこっと国に寄っていかいなか?」

「うーん…国かぁ…」サーカスの提案にドリルは気乗りしてない様子だ。二人のやり取りを聞いていたピードルが素っ頓狂な声を上げた。

「うっひょー!行こうぜぇ。お前らの国に遊びに行こうぜぇー!」

「うっせー!テメーは黙ってろ」サーカスがピードルを一喝した。しかし、サーカスに怒鳴られても珍しくピードルが後に引かない。

「イイじゃんイイじゃん行こうよ行こうよ。お前らから国の話を聞いてから俺っち行きたくて堪らないんだよぉ。何べんも連れてってくれってせがんで、その度にサーカスにブッ飛ばされてさぁ。なあドリル、サーカスもこう言ってんだから、ちょっとでイイから寄ってこうぜぇー」

「うーん…そうだなぁ…」ドリルは尚も渋っている。

「女性ばかりが生まれる国」それが、ドリルとサーカスが生まれ育ち、ピードルが憧れ焦がれる国の国名。

 人口五万人足らずの小さな国で、その中で成人男性の人数は千人にも満たないとゆう、その名の通り圧倒的に女性ばかりが多く産まれる国らしい。

 そんな所にペニスを付けて生まれてくるとゆう事は半端じゃなく大変な事の様で一歩外を出歩けば、いつでも・どこでも・いつまでも、女達に付きまとわれて、それはもうハーレム状態を通り越してハーメルンの笛吹き状態になってしまい生きた心地がしない程だとゆう。そんな祖国に嫌気が差したドリルとサーカスは脱国を計画、警察やFBIを相手に命懸けの逃亡を決行し正に身を削る思いをして現在に至るのだとゆう。そこまでの話を聞いて私は頭に浮かんだ素朴な疑問を聞いてみた。

「ねえねえ、じゃあさぁ、サーカスは何でそんな危険な思いをしてまで抜け出せた国に寄って行こうなんて言いだすの?危ないんじゃないの?」

「まあ、それはそうなんだけどよぉ。里心とか、そんなんじゃねえんだよ。スーパーマンジュースなんだよ」サーカスの発言にドリルも続いた。

「あと、爆竹ボールもな」

 ドリルとサーカス曰く「世界で一番美味しい飲み物」がスーパーマンジュースとゆう飲み物で「こんなに嫌な国だけど、これが食えるのならココでの暮らしも悪くないかなぁと一瞬思ってしまう」ほど美味しい食べ物が爆竹ボールとゆう「木の実」なのだとゆう。熟考していたドリルが思い口を開いた。

「そうだな、あの頃と違って今はドリルモービルが有るしな。このマシンなら空も飛べるし水中も大丈夫だからなぁ。ちょっこと寄ってジュースとボールを詰め込んですぐに逃げれば大丈夫か。よし!行くか」

「やったぁー!ドリルのオッケー出ちゃったよぉ。♪ガールズ!ガールズ!ガールズ!楽しみ過ぎて振るえちゃうぜぇー」ピードルは既にエレクトしている。そんなピードルに冷ややかな視線を送りながら、サーカスが珍しく冷静な口調で言い放った。

「お前も、行けば分かるから」しかし浮かれきって興奮状態のピードルはドント・ストップだった。

「しかしよぉサーカス、お前UFJはないだろうUFJは。ぎゃはははは、USJだからUSJ!ユニバーサル・スタジオ・ジパング!USJだから。ぎゃはははは、銀行行ってどうすんだっつーの、強盗でもするのかよ?おっ!いいねえ、銀行強盗いいねえ。やっちゃうかぁ?久々に銀行強盗。しかしよぉサーカス、ぎゃはははは!UFJだってぇーうけるー」浮かれ過ぎているピードルは、まだ気が付いていない。サーカスが金属バットを握り締めている事に。

 女性ばかりが生まれる国に入国するとスーパーマンジュースはコンビニや自販機など至る所で普通に販売されていた。

 さっそく飲み干すアナルトリップス。うまい!刺激的にして繊細かつ濃厚な味。さすがにドリルとサーカスが大絶賛するだけの事は有る。飲んでるうちに体が火照って気持ちが大きくなって来た私は上着を脱ぎ捨て気が付くとパラパラを踊っていた。そんな私にドリルが声を掛けた。

「なんだ、もう酔っ払ったのか?」

「酔っ払ったのかって…えっ、何これ、お酒なの?」

「そうだよ。何だ、知らないで飲んでたのか」

「知らないでって…だってキャメロンも飲んでるじゃん」見ると、キャメロンの哺乳瓶にはナミナミたっぷりとスーパーマンジュースが注がれている。

「なんだブス、てめー俺様の娘に飲ます酒はねえってのかよ」

「そーゆー意味で言ってんじゃないわよ」

 すっかり宴が始まった。そしたらツマミも必要だ。

「ねー爆竹ボールわぁ?美味しいんでしょうソレ」

「ああ、それだよ、それ」ドリルは近くに生えているサイケデリックカラーの大木を指差すと五メートル程ジャンプしてツリーの枝に摑まった。そのまま空中で大木を蹴り付けるとゆうアフロなやり方で木の実をドンドン落していく。この木の実、これこそが爆竹ボールなのでした。

「おいしいよぉー。おいしいですよぉー」アナルトリップスは余りにも美味しい酒と木の実を中毒患者のように貪り続け宴はピークに向かって行った。

 殺気とゆうのは怖いよね。殺す気って書くんだよ…。結論から言うとアナルは浮かれ過ぎてしまった。さっさとジュースとボールをマシンに積んでとっとと出国していれば、こんな事にはならなかったのに…。

 男日照りのこの国で男達に囲まれて楽しそうに飲み食らい更にはパラパラまで踊っていた私は完全に女達のヒートを買っていた。また、脱国犯で有るドリルとサーカス、不法入国に当たるピードルとキャメロン。アナルトリップスは完全に包囲されてしまった。

 私は独房に放置されていた。正確には分からないけれど三日以上は経過しているだろう。その間、食べ物どころか一滴の水すらも与えられず私は干乾びる寸前だった。他のみんなはどうしているのだろう…。キャメロンは、ちゃんとミルクを貰えているのだろうか。そして私はこんな所で痩せ衰えてミイラになって死んでしまうのだろうか。恐怖と悔しさと悲しみに私はただただ泣き続けていた。人間って凄い、体カラカラなのに涙でるのね。もういい、私は眠ってしまおう。眠くはないけど眠ってしまおう。完全な放置だけに寝る事だけは自由だから。今の私に唯一許される自分自身の意思行動は眠る事だけだった。私は寝た。死んだように不貞寝した。

「おい、あんた起きろよ」その声に目を覚ますと見知らぬ男が私を見下ろし仁王立ちしていた。

「心配するな。俺はあんたの味方だよ。今からあんたを助け出してやる。その代わりに、俺の事も一緒に国から連れ出してくれるようにドリルとサーカスに頼んでくれないか」

「あの二人と知り合いなの?」

「ドリルとサーカスは有名人だよ。この国で二人の事を知らない奴は居ないよ。それに昔、俺はドリルの手下でサーカスのパシリだったからな。まあ、側近だよな」

「ふーん。そうなんだぁ」だったら直接頼めばイイじゃん、なんて一瞬思ったけれど、それをしないのには何か理由が有るんだろうし、第一、助けてくれるって言ってるんだから彼の気が変わらないように私は無駄口を叩かなかった。

「ところで、みんなは無事なの?」私は男から貰ったペットボトルの水をゴクゴク飲みながら質問した。

「ああ、ドリルとサーカス、あとチンコのデカイもう一人の奴、あの三人は強制SEXの実刑を受けてるよ」

「強制SEX?なにそれ」

「よそ者には分からないよな。簡単に説明すると男の人数が少な過ぎるこの国では男に飢えた女達の為に男の犯罪者には強制SEXの実刑が科せられるんだよ。執行猶予は付かないぜ。僅かな睡眠時間と食事休憩以外は一日中ずぅーっとSEX。死ぬかインポになるまでな。まあ、インポになったら死刑執行なんだけど」

 完全にイカレてる。ここの女達ってマジでヤバイ。

「あのモテ男のドリルが実刑を受けているんだ。今、留置所は大変な騒ぎになってるよ。列に並べば誰でもドリルとヤレるんだからな。巨根のアイツもそうだけどブサイクなサーカスだって同じような目に遭ってるよ。余りにも御無沙汰な奴等は列の少ない方に並ぶからな」

「あのさぁ…」私は素朴な疑問を口にした。

「この独房に連れて来られる時に見たんだけど、ここの警備は厳重じゃない?まずアナタはどうやってココに入って来られたの?あと、どうやって女達の目を盗んで私やドリル達を連れ出すって言うの?」

「ああ、それはな、ここの女達はバイオリズムの関係で全員一斉にこの時間昼寝をするんだよ。きっかり三時間。だから今なら大丈夫なんだよ。この三時間こそが犯罪者達の貴重な睡眠時間でも有るんだよ」

 そう言うと男は、ムカつく程あっさりと独房のドアを開け私を外に連れ出した。

 ドリル達の所に行くと、三人は極限の疲労困憊状態らしく死んだように眠っていた。哀愁を、たっぷりと漂わせて。そして、キャメロンの姿が見当たらない。キャメロンは、まさか…。しかし一刻も早くこの場を立ち去らないと女達の昼寝が終わってしまう。キャメロンの事は後でみんなで探すとして、一先ず、私と男は三人を起こす事に集中した。さすがに男は地元人だけ有って三人のこの状態を予想していたらしく持参していたスポーツバックから色々と取り出して寝ている三人の下顎を支えながら各種滋養強壮剤を口から、各種アッパー系を鼻から、それぞれにブチ込んで、見事三人の蘇生に成功した。

 不足している体力にフラつきながら私達は必死で走った。ドリルモービルを求めて。さすがに女達のお昼寝タイムだけ有って男達が町をうろついている。女達の影に怯えずリラックスして羽を伸ばせるのはこの時間帯だけなのだろう。ドリルとサーカスに気が付いた男達が懐かしそうに二人に声を掛けてくる。しかし悪いけれど今は構ってはいられない。ドリルモービルを取り戻し一刻も早くキャメロンを探し出しこの国から逃げ出さなければ。

 ヤバイ事になっていた。逃亡防止に保険を掛けたのだろう、ドリルモービルがスクラップにされていた。絶望感が漂う中、唯一の幸福はキャメロンだった。キャメロンはスクラップにされたドリルモービルのすぐ近くで縫ぐるみを振り回して遊んでいた。衰弱した様子は無く栄養はきちんと貰えていたようだ。私達の姿を見るやキャッキャッと喜ぶ無邪気なキャメロン。そのキャメロンの無邪気さが大人達を現実に引き戻した。絶望している場合では無い。一刻も早く逃げ出さなければ、サイコな女達と法律によってアナルトリップスは全滅させられてしまう。

 さっきまで助けてくれていたアノ男の姿が随分と遠くに見える。

「ねえ、あの人どうしたの?代わりの車でも探しに行ったの?」私の質問にサーカスが目を血走らせた。

「逃げたんだよ!ドリルモービルが無ければ逃げ切れないと思ったんだろう。あんな馬鹿は関係ねえよ、足手纏いになるだけだ。なあドリル、もうスパイダルしかねえぞ」

「ああ、分かってるよ。スパイダルを捕まえようぜ」

「えっ?なにそれ?スパイダルってなに?」

「ああ、アレだよアレ。今、岩間の隙間からこっちの様子を窺っているだろう…」

 まず見た目がキモい。それがスパイダルを見た最初の素直な感想だった。なに、このでっかい蜘蛛みたいのは?まあ蜘蛛だか何だかは知らないけれど形状を一般的に知られている何かに例えるならば形はかなり蜘蛛っぽい。そしてデカイ、超デカイ。サーカスぐらいデカイ。なんだかもう、最近色々超デカイ。

「あのさぁ、まさか、これに乗って逃げるとか、そうゆう事を言いだしちゃう?」

「そうだよ。珍しく飲み込み早えじゃねえかよブス。分かってんならとっとと乗れよブス。時間がねえ早くしろ」

「いやぁー…これはどうかなぁぁ。わたしぃーコレはちょっと触れないかもぉー。ウブ毛もかなり恐怖ですぅー」

「そうか。分かった。じゃあオマエはここで死ぬんだな。バイビー」

「いやいやいや、違う違う違う。そうゆう事ではなくってねえぇぇ。なにコレ?スパイダルぅ?なんなのコレ、だいたい速いの?これ」

「だからイイって乗らなくて。勝手にここで死んでくれ」

「だから違うー!死にたくなあぁい。もうイイから乗り方を教えてよ」

「……いやだ……って言ったらどうする(ニヤリ)?」その時だった。

「おいサーカス!その娘と遊んでる場合じゃないぞ!」

「なんだよドリルどうしたよ?」

「天気だよ天気!空を見てみろ」

「なんだよ天気がどうしたよ?って…うおおおおおおーー!」 

「な!やばいだろ、この大気の状況。これは今晩満月になるぞ」

 上空を見上げた途端、急にウロたえ始めたドリルとサーカス。一体どうしたとゆうのだろう。

「なになに一体どうしたの?満月いいじゃん綺麗じゃん」

「うるせえマジに黙れブス。月経マグマが来るんだよ」

 二人の話は本当にヤバかった。何も知らなかった私とピードルは月経マグマのレクチャーを受けて心の底から震え上がった。

 男日照りで月一の女の子の日が半端じゃなくハードコアなこの国の女達。多い日には家庭用の庭やベランダで使うような子供用の小さな丸いプールが満タン(当然平均値個人差有り)になる程たっぷりとイクらしい。当然市販のケア商品でどうこう出来るレベルの話しでは無く女達は「タイムゾーン」と呼ばれるバカでかい洞穴に二日目(当然平均値個人差有り)を中心に垂れ流していくらしい。その「タイムゾーン」に溜められた血液が満月の月光に照らされて化学反応を起こしマグマの如くゴボゴボと沸騰、洞穴から逆流し夜の世界を恐怖に陥れる… これこそが月経マグマの正体。この国に満月は禁物だったのだ。

 スパイダルに飛び乗る私。

 スパイダルを自由自在に操る私。

 スパイダルで驀進する私達。

 スパイダルは最高にクールでゴキゲンな上質のイケイケ生物だった。

 左右八本の両足の前から二本目を掴んだら、もうそれだけで以心伝心。進行方向も時速調整も思いのまま、その上乗り心地も快適で、イケる、私これなら何処まででもイケる。最高時速はどれぐらい出ているだろう?数年前にローンで買って速攻事故って廃車にした私の幻べスパよりは絶対に早い。と、思う。

 いよいよ闇が町を包み始めた。ドリルとサーカスの予想通り、上空には薄っすらと満月のシルエット。そして臭い、なんだか臭い。やばい、これは正にあの臭いだ。マグマがついに暴れ出し恐ろしい牙を剥き出し始めた。

 アナルトリップスは好調だった。少なくてもここまでは。しかし…。

 スパイダルはマシンでは無い。生き物だ。当然、全てのスパイダルの能力が同じな筈が無い。そして今回に限って言えばサーカスが乗ったスパイダルが他のメンバーを乗せたスパイダルよりもスピード、パワー、スタミナ共に若干では有るけれど劣っていたのだ。しかし、その若干の力の差が時間の経過と共に顕著になり始め、時が経つと共にサーカスと私達他のメンバーとの距離間は開いて行く一方だった。ただでさえ大柄なサーカスがキャメロンをおぶっているとゆう重量的なハンディも重なって今となってはもう、肉眼での確認が困難な程だった。

「待ってくれぇぇー!ドリルぅー待ってくれぇぇー!」サーカスの絶叫が虚しく響く。その声に一度はUターンを試みたドリルだったがドロドロと近ずいて来るマグマの勢いに成す術を失い再び失意のUターン。

「臭えよぉぉぉー!あちぃよぉぉぉー!目が痛えよぉぉぉー!」

「サーカス堪えろぉぉー!必ず!絶対!助けに戻って来るからなぁぁー!」

「ここまで来れば一先ずは大丈夫だろう」ドリルは額の汗を拭いながらスパイダルから降りると私に話を続けた。

「俺とピードルは手分けしてサーカスとキャメロンを探して来るから、ここで暫くスパイダルを見張っていて欲しいんだ」

「ちょっと、ヤメてよ冗談じゃ無いわよ。こんな所に一人ぼっちなんて心細いよ。私も一緒に探しに行くよ」

「いや、駄目なんだよ。スパイダルを休息させないと今後使い物にならなくなる。その辺りにはスパイダルは殆ど生息してないんだよ。多分もう捕まえられない。貴重なスパイダルなんだ、悪いけれど逃げないように見張っていてくれ。よし、ピードル行くぞ」

「えー、俺ぇ。俺、腹減ってるんだよなぁ」

「…分かった。後でピザでも食わせてやるから。ほら、行くぞ」

「待ってよ。それならピードルが見張ってればいいじゃない。私、ドリルと一緒に行く」その時だった。臭い。なんか変な臭いがする。ちょっと、これってモロにあの臭いじゃない。マグマ、まだ全然近いじゃない。ここはまだ安全地帯では無かったのだ。

「ちょっと、マズいよ。マグマまだ全然近いよ。もっと遠くに逃げようよ」

「確かにマズな。でも、スパイダル達が疲れ切っている。少し休ませないと、まだ動けないぞ」

「おい」

「なによ」おい、の呼び掛けに振り返ると汚いおっさんが赤ん坊の縫ぐるみを抱えて立っていた。汚い、汚すぎる。完全にお家の無い人だ。

「もうオジサン。今、大事な話をしてるから向こうに行ってよ。ホラお金あげるから」私はコインを遠くに放り投げた。って、くっさ!このオヤジくっさ!って、こいつじゃない、臭いの原因は。くっさ。このオヤジくっさ。って、サーカス?と、キャメロン!

 ホームレスはサーカスで縫ぐるみはキャメロンだった。なんとサーカス、マグマを全身に浴びてヘトヘトになりながらもキャメロンを抱っこして、更に弱り切ったスパイダルを背中におぶりながら私達の所まで自力で歩いてやって来た。やはり、この男のタフネス振りは半端じゃない。それにしても臭っさ。サーカスとキャメロンくっさ。

 サーカスとキャメロンの無事を確認したドリルは歓喜の涙を流しながら臭い親子と抱擁している。よく触れるなぁ、私は絶対に無理だわぁ。ピードルも私と同様に鼻を摘まんで迷惑そうに顔を背けている。ドリルとの感動の抱擁を終えたサーカスは彼らと一定の距離間を保ってそこから近ずこうとしない私とピードルを睨み付けながらキャメロンとスパイダルを抱えたまま湖に浸かり体を清め始めた。可哀想に、サーカス親子が全身に浴びた毒素の影響なのだろう、湖の魚達がお腹を上にして次々と水面に浮かび上がって来ている。

 しかし不思議だ。マグマを浴びた筈なのに、湖の水で清められたサーカスとキャメロンの体には火傷の痕が見当たらない。

「ねえねえサーカス、お疲れの所恐縮だけど月経マグマってマグマなんでしょう?マグマを全身に浴びたのに、どうして火傷してないの?」

「知りたいかブス。だったら土下座して俺様に頼め、教えてくださいませってな」

「じゃあ別にいい。ねえドリル、晩ご飯はどうする?」

「聞けよ!大事な話しだ!聞きやがれ」

 サーカスの説明は別段おもしろい話しでもなかった。まあ要するに、かなり粘って逃げたから追い付かれてマグマを浴びた時にはもうマグマは冷めていた。それだけの事だった。

「俺様は全ての戦いに勝利するんだよ。例え相手がマグマでもな。今回だって完全勝利だ。俺様のスピードにマグマが付いて来れなかった訳だからな。マグマが神々しい俺様に触れた時、奴等はマグマとしての機能を完全に失っていたんだ。奴らが俺様に触れた時の温度?ああ、それはもうカップラーメンもアルデンテって感じだな。俺様はな、不味い飯は食わねえんだよ」沸騰直後の熱湯主義を主張するサーカスの眼光は早くも生気を帯び始め完全復活を印象付けた。

 スパイダルの体力温存を考えてアナルトリップスは徒歩で移動を再開した。しばらく歩くと、とある国との国境境に辿り着いた。国境沿いに立ち並ぶショッピングモールに隣接するレストラン街から漂ってくる色々な料理がMIXされた堪らなく美味しそうな匂いに釣られて私達は国境を渡ろうとした、その時だった。

「待てよコラ。お前ら勝手に何処に行くんだよ?」アナルトリップスは国境警備隊の門番のおっさんに足止めを食らってしまった。

「腕相撲が全ての国」これがアナルトリップスが入国を試みた国の国名だった。

「ここのルールはパワーだ。お前らの代表者が俺に腕相撲で勝てれば自動的にビザがおりるぜ」アナルトリップスは腕相撲好きのおっさんの暇潰しに捉まってしまった。しかしまあ問題は何も無い。ドリルとサーカスの腕力は神がかっている。腕相撲で負ける姿など想像すらもつかない。特にサーカス、このアブノーマルなヴァイオレンスモンスターに腕相撲程ピッタリな競技など他には存在しないだろう。さっさとケリを付けてしまってレストランに直行だ。

 短気なサーカスが門番の胸ぐらを掴んでガンを飛ばしている。門番もサーカスの髪の毛を鷲掴んで顔面超至近距離でのガンと飛ばし合い。一触即発状態の筋肉馬鹿二人をドリルが何とか引き離した。

「お前フザけんなよ。俺はここの門番なんだぞ。分かってるとは思うけど周りを見てみろ、四方八方ライフルで狙われてるぜ。俺の考え一つで勝負をしないで門前払いにする事だって出来るんだぜ。来た方向から見ると、お前ら女性ばかりが生まれる国から逃げ出して来たんだろう?いいのかよ、女達のお昼寝タイムはとっくに終わってるぜ。お前らが立っているその地面はまだ向こうの領土なんだぜ。とっととこっちに入国しないとお前ら見つかって国家権力に連れ戻されるんじゃねえのかよ」確かに遠くから僅かにでは有るけれどパトカーのサイレン音。やばい、早くしないと本当に時間が無い。

「だ・け・ど・だ!お前らは俺を怒らせた。この勝負には条件を付けさせてもらうぜ」門番はビーフジャーキーをクチャクチャさせながら勝負の条件を言い放った。

 門番が付けた条件はこうだった。まず私達の代表(サーカス)が勝った場合。これは今まで通りに私達が国境を越えられる。次に門番が勝った場合、負けた代表者はその場で勝負に使った利き腕を切り落とす。又は私が門番に抱かれる。そのいずれかを選べとの事だった。どっちでもイイよそんな事、負ける訳が無いんだし早くしようよ。サーカスと門番共に臨戦態勢、勝負開始直前のその時、ピードルがバカを言い出した。

「なあドリル、あの門番危険だぜ。お前ら二人のすんげー筋肉を前にしてこの余裕なんだぜ。これ絶対なんかあるって」確かに門番はドリルとサーカスのアニマルとホークなガタイを見ても余裕綽々。言われてみれば確かに不気味だ。

「だからよお、万が一を考えて賭けの対象は女の方にしとこうぜ」

「はあ?あんた何を言ってんのよ。冗談じゃ無い絶対に嫌よ」

「あんたさぁ、よく考えてみろよ。旅はまだまだ続くんだぜ。この先サーカスの腕力がどれだけ役に立つと思うよ?風俗女のワンセクと、どっちが大事かなんて考えなくても分かるだろう?」

「私よ!私の方が大事に決まってるでしょう。てゆーか私より大事な存在なんてこの世に無いのよ。大体アナルの鉄人は最低のボッタクリ店で女の子達は殆ど何もしないで奥から怖いお兄さん達が出てきて暴力的にお金を巻き上げているだけなのよ。ついでに言うけど私は処女なのよ。何が悲しくて見知らぬ国のおっさんにヴァージンあげなきゃいけないのよ」

「だから万が一だって。サーカスが負ける訳ねえだろう。最悪の事態に備えての保険なんだって」

「何が保険よ私は嫌よ。サーカス、あんた負けたら腕切りなさいよ」

「殺すぞブス」

「もういいよ。みんなヤメろよ」ドリルが醜い争いを止めさせた。更に門番に握手を求めながら意見を提案した。

「門番さん…確かに俺達時間が無いんだ、早く勝負を始めさせて欲しい。だけれど恥ずかしながら俺達が仲間割れして意見がまとまらない。だから、こうゆうのはどうだろう、勝負をするのはこのサーカス。もしも負けた場合腕を切るのはこの俺ドリル。この条件で勝負を始めてくれないか?」門番がドリルの握手に応じながら答えた。

「腕でも女でもどっちでもよかったんだよ。どっちも大好物だ、ウマそうに食ってやるぜ。だけど、ドリルだっけ?お前みたいなヤツ大っ嫌いだよ。二枚目野朗の大物気取り、好感ってモンが全く持てねえ。別にイイぜ、賭けの対象お前にチェンジでも。その代わりお前の場合は腕じゃ駄目だ!その顔じゃ片腕になった所で女にモテる事に変わりはねえだろう。チンポだ!お前の場合はチンポを賭けろ。そっちの代表が負けたら、この場でチョン切ってもらうからな」

 早速勝負が開始された。レディー、GO!


 勝負は一瞬で決着を見た。圧倒的な力の差、捻じ伏せられたのは… サーカスだった。

 顔面蒼白で硬直するドリルに、嬉しくて仕方が無いとばかりにステップを刻みながら近ずく門番。

「チンポ無くなっちゃたら大変だぁ。可哀想だからさぁ、このまま国には入れてやるよ。とっとと病院に行ってこいよBaby」ドリルのジーンズをズリ下ろすとペニスをペロンと取り出して根元にナイフを押し当てた。

「悪く思うなよ。けけけけけ」

 スパっ!プッシュぅぅぅぅぅーーーーー…。ああ無情。ドリル、ペニス切断。


 痛み、出血多量、精神的ショック。ドリルはそのまま気を失って、翌朝早朝目を覚ました。

 意識は取り戻したものの当然の事ながらドリルは自分の状況を受け入れられない。何しろ悪夢は昨日の今日だ。生まれながらのヒーロー気質を持ってしても平静を装う事は不可能だった。

 端正な顔を怒りでクチャクチャにしながら手当たり次第に暴れまくるドリル。完全に制御不能、もう手が付けられない。

「ドリルぅー!すまねえぇー!俺様が負けたばっかりにぃー。弱かったばっかりにぃー」サーカスが号泣しながら荒れ狂うドリルに縋り付く。そんなサーカスを怒号を上げながら突き放すドリル。永遠にすら感じられる二人の切ないやり取り。気が付くと私は大泣きしながら二人の間に割って入っていた。

 ドリルとサーカスに挟まれて揉みくちゃにされていた私が我に帰った時、もう二人は暴れていなかった。暴れていないどころか長身の二人を恐る恐る見上げると驚いた事に二人は薄っすらと笑みさえ浮かべていたのだ。

「ふふふふふ」ドリルが笑っている。壊れてしまったのだろうか?かなりアブない。

「でぇひゃひゃひゃひゃひゃ」今度はサーカス。あんたら一体なんなのよ。私が呆然としていると二人の薄ら笑いは爆笑に変わっていった。意味が分からず突っ立っている私に向かってサーカスが腹を捩じらせながらのたまった。

「お、お前(爆笑)マ、マジで(大爆笑)だ、だまされて(大大爆笑)やんのー!(大大爆笑×2)

 そもそもドリルとサーカスの屈強な肉体についてから説明しなければならない。

 今から相当昔の話、ドリルもサーカスもまだジュニアハイに上がる前、エレメンタリーの頃まで話は遡る。「女性ばかりが生まれる国」では幼稚園、エレメンタリーと、その体育の授業の際ズバ抜けた身体能力を発揮したスポーツエリート達にジュニアハイの段階から徹底的な英才教育を施すのだとゆう。圧倒的に女性が多く生まれるこの国では子孫繁栄を目的とした国家プロジェクトが立ち上げられ選び抜かれたスポーツエリート達は人知を超えた超人又は怪人に変貌を遂げるべくM・M・S(ミニ・メタル・ソウルフル)と呼ばれる施設で特訓に特訓を重ねて心身共に徹底的に鍛えまくるのだそうだ。

 ドリルとサーカスはMMSの同期生でお互いに最高のライバルだと認め合い切磋琢磨しながら青春時代を過ごしたのだという。

 MMSでは四年に一回KING・OF・KING決定トーナメント「IWGPチャンピオンカーニバル」とゆう大会が開催されてMMSに集められたスーパーエリート達は大会の優勝を目指して連日連夜地獄の特訓を繰り返す。「IWGPチャンピオンカーニバル」で優勝するとゆう事は「女性ばかりが生まれる国」の男達にとって大変な名誉であり、また栄光と同時に大会の優勝者及び準優勝者の成績上位二名にはMMSのボスである「ヴィンス」なる人物からあるプレゼントが贈呈される。

 では、そのプレゼントとは一体何か?そのプレゼントとはズバリ言って「永遠の最強ペニス」物凄いプレゼントだ。笑い話ではない。

 大会を勝ち抜いた上位二名の屈強な遺伝子を女性達に受け取ってもらい優れたD・N・Aを駆使して国家の繁栄を図る、正に国家レベルの一大プロジェクトなのだ。

 では「永遠の最強ペニス」とは一体何なのか。

 ヴィンスによって大会上位二名に与えられるその逸物は正に無敵の代物でいつ何時どんな女性が相手でも必ずその女性にピッタリフィット。大きさ、硬さ、さらには形さえもカスタマイズ自在、その上「タイム」まで女性一人一人の個人差に合わせて思いのまま。確実な同時絶頂を約束するナイーブとデリケートのミラクルエクスタシー。その上「最強」の前に「永遠」がついている事からも分かる通り、このデンジャラスバズーカはヴィンスから大砲を授かった偉大なるアドニスが息絶えるその瞬間までアクシデント等で何か有った場合でも永遠に再生を繰り返すのだとゆう。折れたり、切れたり、取れたり、割れたり、潰れたりしても、だ!

 では何故ヴィンスは他人のシンボルをそのように物凄い事に出来るのか?その答えはシンプルで、それはヴィンスが魔法使いだからだ。しかし、ならば、人数の少ないこの国の男達全員にその魔法を掛ければいいじゃないか、と、普通ならばそう思う所なのですが、いくらヴィンスが魔法使いだからと言っても世の中そうはウマくは行かない。ヴィンスが魔法を使えるのは四年に一度回数は二回だけ。その魔法パワーを使い切ると、また四年間パワーを溜めなければ使い物にならないのだ。従って四年に一度その時期に大会を開催して大会を勝ち抜いた上位二名のストロングな男だけに遺伝子を伝承させるべく、その貴重な魔法を施すのだ。

 ドリルのペニスが生え始めている。ドリルが言うには「昼飯時には完全に元通りになっているだろう」との事だ。

「おいブス」サーカスが私に切り出した。

「お前昨日俺様を起こしに来た時俺様のを見て笑ってたろう。小さいと思ったか?」

「思ったわよ。あんた顔に似合わず可愛らちいねぇ」

「ブス。おいブス、なあブスよ。あの時の俺様はなあ、女達が余りにしつこく激しくキリがねえから自分で自分のをモギ取ったんだよ。そんでな、やっと休めると思ってしばらく寝てたんだよ。お前が見たのはその時の生え始め、まあ、赤ちゃんの俺様だよな」サーカスはパンツをズリ下ろした。

「おいブス良く見ろ、成熟しきった三冠王者を。これが本当のリアルワンにしてオンリーワンの存在感だ。ネッシーと間違えて投稿写真するんじゃねえぞ。ここだけの話な、アックスボンバーって俺様の俺様をヒントに開発されたって話だぜ。いやマジだって、ホントにホント、イッツ・トゥルー、イッツ・トゥルー」口角泡を撒き散らすサーカスを眺めながら正直な気持ち私は感心してしまっていた。本当に凄いなぁ…ヴィンスって。私が「あんた達二人のって凄いじゃない。トカゲのシッポみたいに再生するって事でしょう」と話すとサーカスが嬉しそうに答えた。

「いいこと言うねぇ。お前、出会ってから初めてイイ事言ったねぇ。トカゲのシッポとは技ありじゃん。俺様とドリルにはテーマソングが有るんだけどよぉ、聞きたいか?聞きたいだろう。今だったら歌ってやっても構わないぜ。なにしろ機嫌がイイからよ」

「あ、歌わないで。聞きたくない」

「照れんなよブス」

「照れてない。朝っぱらからチンコの歌なんてホントに全然聞きたくないから」

「遠慮するなよ水臭え。かっこイイ振り付けも有るからよう」そう言うとサーカスはミカン箱に飛び乗った。

「しょうがねえなぁ照れちゃってよぉ。分かった分かった、聞かせてやるから安心しろよ。おいドリル、準備はオッケーか?」

「サーカス…お前はさっきから何の話をしてるんだ?そんな曲、俺は知らない」

「またまたぁ…知らねえって事はねえだろう。ん?あれ?そうだったっけ。お前にまだ教えてなかったっけ?んん…まあイイや、じゃあ今回は俺様のソロだな。おいピードル!タンバリン持ってこいや」

 ドリル&サーカスのテーマ「血の色ミドリの超人ブルース」

 作詞 作曲 サーカス

 ♪主食は野生のライオンで 飲み干す髄液トロビアーン

 ♪殺した記憶は無いけれど 何故だかお前が死んでいる

 ♪掻っ切る首先ショックミー お前の瞼にキリングジーザス

 ♪ダメージ・イメージ・ショックミー 千切れた手錠はパラノイド

 ♪俺のロマン 俺のロマンス 収まりきらないストーリー

 ♪俺のロマン 俺のロマンス 細胞全てがスキャンダル

 ♪飛ばすぜサーカス狂った果実 電光石火は眠らない

 ♪ドリルが飛ばすぜミッドナイト 太陽沈めてソドムノイズ ソドムノイズ

 以上だ!

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