【読切脚本】ようこそ柊探偵事務所へ 〜見えない探偵と見える助手の摩訶不思議探偵業〜
シキノ春
ようこそ柊探偵事務所へ
○ビル・外観(昼)
住宅街のなかに建設された2階建てのビル。新しくもなければ古くもない少し汚れた白い壁
○同・廊下(昼)
扉に「柊探偵事務所」と書かれたプレート。
扉が勢いよく開き女性が怒った様子で出ていく。
女性「もういいです! 探偵事務所だって聞いてたのに!」
女性が出ていってすぐに結人(18)が呆れた表情で二人分のマグカップを乗せたお盆を持って扉を通る。
○柊探偵事務所・応接室(昼)
結人が持ってきたコーヒーの入ったマグカップをローテーブルに置くき、依頼者用のソファに座り、正面にいる凛子(26)を見る。
凛子バストアップ。腕を組みむすっとした表情でソファに座っている。
バストアップ。横アングル。結人がテーブルに置いたマグカップを手に取りながら。
結人「またですか凛子さん。今回の依頼はなんだったんですか?」
凛子バストアップ。横アングル
凛子「浮気現場の調査だそうだ」
凛子と結人が向かいって座っている。
結人「探偵の仕事で言ったら一般的な依頼じゃないですか」
結人「それに今までだって何回も依頼受けてるでしょう?」
凛子「あれは食い扶持を得るために仕方なくやったことだ。何よりつまらん」
結人の手元のアップ。タブレットをスワイプしている。
タブレットを操作している結人の表情が見えるアングル。結人が苦笑いでタブレットを見る。
結人「あっ、さっきの人だな」
結人がタブレットをテーブルに置き、マグカップを取ろうとしながら
結人「ウチそこそこ評判いいんですよ? 凛子さんが仕方なくやったって言う仕事のおかげで」
結人の顔のアップ。目の前にあるものに気付く。
全体横アングル。凛子がテーブルに乗り上げて、結人の顔に自分の顔を突き出している。
結人「な、何ですか……?」
凛子顔面アップ
凛子「ユート。君はなんで私が探偵をやってるか。知っているだろう?」
結人「そ、それはで……」
凛子正面アングル。結人の声を遮るように凛子が指を鳴らし、結人に指を刺す。
凛子「そう! 出会いのためさ!」
凛子が勢いよくソファーに座り直す。
凛子が上に両手を突き出し、天を仰ぎながら
凛子「摩訶不思議で現実に存在しないはずのあの子達にもう一度出会うために私は探偵をしている!」
凛子は腕を脱力させ、だらけた様子で天を仰いだままソファに深く座る。
凛子「我が柊探偵事務所は超常現象専門の探偵事務所だと言っておるというのに」
凛子「やれ浮気調査だの、やれストーカー調査だの、やれ盗聴器発見だの。実につまらん。もっとマシな依頼は来ないのか」
結人が呆れた様子で凛子を見る。コーヒーを啜りながら。
結人「じぁあ、凛子さんはどんな依頼が来て欲しいんですか」
凛子はだらけた様子で座りながら腕を組む。右手の人差し指を立てて
凛子「んーそうだな。原因不明の人体発火の原因調査とか、集団の一斉失踪の調査とかかな?」
結人「そんな物騒な依頼来るわけないでしょ!」
凛子と結人の全体横アングル
凛子「えー」
結人「えー、じゃない!」
ドアが開く。
凛子、結人の顔のアップ。
幸太「あの〜」吹き出しのみ
扉から覗き込む幸太(9)。不安そうな表情で体半分隠した状態で覗き込んでいる。
凛子がソファーから立ち上がり、幸太の元に歩いていく。
幸太の全身と凛子が映る横アングル。凛子が幸太の視線に合わせるようにしゃがむ。
凛子「よく来たね。君はどうしてここに来たのかな? 教えてくれると嬉しいな」
幸太「あ、あの。……ここはフシギなことをしらべてくれる人がいるんだよね」
凛子の横がアップ。凛子の驚いた表情。
しゃがむ凛子の正面アングル。後ろに結人が立っているのが見える。
結人「……えっ!?」
凛子「……ほう」
にこやかな表情で喋る凛子。
凛子「そうだよ。私が不思議なことを調べてくれる人さ。……あー、君の名前は?」
幸太「幸太」
凛子「幸太くんは私に不思議なことを調べて欲しいのかな?」
幸太のバストアップ。小さく頷く
幸太「……うん」
さらに表情が明るくなる凛子。その後ろで少し青ざめる幸太。
凛子「そうか。そうか。それなら幸太くんは私のお客様だ」
凛子の後ろにあるソファを指を刺しながら
凛子「詳しいお話はあっちでゆっくり聞こうかな。幸太くんオレンジジュースは好きかな?」
幸太「うん。好き」
凛子「それは良かった」
凛子はしゃがんだ状態で結人の方を振り向く。
凛子「そういうことだユート。ジュースを持ってきてくれたまえ」
結人のアップ。結人は深いため息をつきながら
結人「……分かりました」
幸太はソファに座ってグラスに入ったジュースをストローでのむ。
凛子は笑顔で顔のまえで手を組んでソファに座っている。結人は凛子の斜め後ろでお盆を持って立っている。
結人と凛子の横顔アップ。結人が凛子に耳打ちする。
結人「凛子さん。あの子凛子さんに何か調べてほしくて来たんですよね。依頼料はどうするんですか」
凛子「なんだユート。君は小学生から金を取る気か? 少し引くぞ」
結人「人を金の亡者みたいに言わないでください! ……凛子さんの探偵業はボランティアじゃないんですよ!」
結人「ただでさえ凛子さんがまともな依頼を受けないから家賃払うのでいっぱい、いっぱいなのに」
凛子「なんだユート。私を心配しているのか? かわいいやつめ」
結人が赤面して少しのけぞる。
結人「なっ!?」
結人の目線カメラ。斜め後ろから凛子を見下ろす。凛子が結人を見上げる。
凛子「クスッ。まぁ幸太くんの言う『フシギなこと』の内容を聞いてからでも依頼を受けるかを決めればいい」
凛子の正面アップ。凛子が口の前で手を組み。少し不適な笑みを浮かびながら
凛子「それにこの依頼は当たりの予感がするんだ」
凛子の顔の斜めアップ
凛子「それじゃあ幸太くん。私に調べて欲しい不思議なことって何だい?」
幸太が凛子が話しかけたことに気付く。咀嚼していたお菓子を飲み込んで
幸太「あのね僕と友だちがすごくあそぶ山の公園があるの。そこにいくとねぜったいに足が切れちゃうんだ」
凛子が興味深そうに目を細める。
凛子「ほう……?」
結人M「それから幸太くんは自分の遊び場で起こる『フシギなこと』を一生懸命教えてくれた」
結人M「幸太くんの体験した『フシギなこと』をまとめると要点は4つ」
デフォルメキャラでそれぞれシーンを再現するイメージ
結人M「一つ幸太くんたち小学生がよく遊ぶ山の広場の一角にある草むらでのみ起こる」
結人M「その草むらに入ると絶対に転ぶ」
結人M「絶対に足に切り傷を負う」
結人M「そしてその足の切り傷は痛みもなく、血も出ない」
結人が顎に手をあてて考える
結人「確かに不思議だけど偶然じゃないの?」
頬を膨らませて怒る幸太
幸太「絶対になるんだもん!」
結人「そ、そう……」
怒る幸太を宥める結人。引き攣った笑顔を浮かべている。
結人目線。体を丸めて笑いを堪えながら小刻みに震えている凛子の後ろ姿
結人「凛子さん?」
凛子の顔にアップ。興奮した様子で顔を赤くし、笑みをこぼしながら誰にも聞こえない小声で
凛子「当たりかもしれない……!!」
凛子が顔を上げる
凛子「幸太くん! その山の公園に案内してはくれないか!?」
○山の麓・平野(昼)
幸太の先導で並んで歩く凛子と結人
幸太「ここだよ」
幸太が指を刺す。指をさした先にススキが生い茂った草むら。奥は山の入り口で木が何本も生えている。
興味深そうに草むらを見る凛子と少し明後日の方向を向いている結人。並んで見えるアングル
凛子「ほう、ここが」
結人「……」
走る幸太
幸太「じぁあやってみるから見ててね!」
結人「えっ! ちょっと待っ!」
草むらに入ると転ぶ幸太
幸太はすぐに立ち上がり凛子と結人の元へ戻ってくる。服が少し泥で汚れている。
凛子「大丈夫かい?」
幸太「うん!」
凛子「それは良かった。ん? ちょっと足を見せてもらってもいいかな?」
幸太「うん? いいよ」
凛子がしゃがんで幸太の足を観察する。
凛子「確かに切り傷ができてる。幸太くん。痛くはないかい?」
幸太「うん! 痛くないよ」
凛子は幸太の答えに笑顔で返す。
顎に手をあて考える凛子
凛子「そうか」
幸太「何かわかった?」
凛子は立ち上がり指を教鞭のように振って語る。
凛子「これはおそらく「かまいたち」の仕業だな!」
幸太「かまいたち?」
凛子「そう! かまいたちだ!」
凛子「かまいたちは文書によって少々異なる部分もあるがほとんどが3匹1組で行動する妖怪だ」
凛子「かまいたちは山を縄張りとしておりまたイタズラ好きでも知られる」
隣で凛子の話を聞いていた幸太は凛子の袖を引っ張りながら質問する
幸太「イタズラ?」
凛子は質問してきた幸太に目線を合わせるようにしゃがむ
凛子「そうイタズラ」
凛子「かまいたちの縄張りに入った人間に三匹のかまいたちは一匹は足を引っ掛けて転ばし、一匹は足に切り傷を負わせ、一匹は特製の薬で血を止めると言われているんだ」
凛子「幸太くんに起こったふしぎなことにそっくりだろう?」
得意げに話す凛子にキラキラとして視線を向ける幸太
幸太「そうかも!」
キラキラと視線を向ける幸太の頭を撫でながら少し残念そうな表情をする凛子
凛子「でもかまいたちはここにはいないかな」
幸太「えー! 何で!?」
凛子が立ち上がり草むらの中へ入っていく。
凛子「ほら草むらに入っても転ばない。ここは少しぬかるんでるね。走りながら入ったら転ぶかもしれないけど」
幸太「あ! 僕は走ってったから」
凛子の手元のアップ。草の葉をむしる。
凛子のバストアップ。むしった草を持っている
凛子「それにこの草はススキだね。別名『手切草』と呼ばれているものだ」
幸太「てぎれくさ?」
凛子「ススキの葉には水晶の主成分の無水ケイ酸が含まれていてね」
凛子は持ってるいるススキの葉を指に当てて手前に引く
凛子「簡単に言うと触ると手を切っちゃう草ってことだよ」
凛子の話をその場で体育座りして聞いている幸太
幸太「じゃあ血が出ないのは何で?」
凛子「幸太くんにはちょっと難しい話になるかもしれないけど。手や足を切っても切ったの表皮までなら血は出ないんだ。幸太くんが足を切っても血が出なかったのはそれが理由」
凛子「切った原因が草だからね。そもそもあんまり切れないんだ」
○同・同(夕方)
日が落ちてきていることに気づく凛子
凛子「おや? どうやらもう良い子は帰る時間のようだ。幸太くん今日はありがとう。楽しい思いをさせてもらったよ」
凛子は幸太に手を伸ばし、幸太はそれを取り手を繋ぐ
凛子「それじゃあ帰ろうか。私が送るよ」
凛子は幸太としっかり手を繋ぐと周りを見渡し結人を見つける。
凛子「ユート! いつまでボーっとしてるんだ? 帰るぞ!」
結人「えっ。あっ! はいっ!」
結人が凛子と幸太の元へ走っていく。正面アングル
結人の後ろの木に鎌のような尾を持つイタチがくすくすと笑っている。
【読切脚本】ようこそ柊探偵事務所へ 〜見えない探偵と見える助手の摩訶不思議探偵業〜 シキノ春 @Shikino_Haru
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