マンションの座敷わらし!
崔 梨遙(再)
1話完結:1500字
僕が小学校の1~2年の頃。僕は父の社宅の3DKの部屋で1人で留守番をしていた。奥の部屋に入ろうと襖を開けたら、赤い着物を着たおかっぱ頭の幼い子が鞠をついて遊んでいた。僕は、驚き過ぎて、口を開けたが咄嗟に言葉が出て来なかった。
女の子は笑顔で鞠をつく。どのくらいの時間、そうしていたのかわからない。急に、女の子がこちらを振り向いた。日本人形のような白い顔。だが、黒い瞳がカッと金色に光った。怖くなった。そこで、ようやく声が出た。
「お前、誰やねん?」
女の子の瞳の色がまた黒に変わった。穏やかに微笑む。僕はホッとした。そして、また鞠をついて遊ぶ。僕は気味が悪くなって、部屋を出ようとした。すると、女の子の目がカッと金色に光る。部屋から出てはいけないようだ。女の子は上機嫌で鞠をつく。僕はその姿を眺めるだけ。そして、鍵が開く音がした。親が帰って来たのだ。すると、女の子は跡形も無く消えてしまった。
親に、
「なんかあったんか?」
と聞かれたが、僕は、
「なんでもない」
と答えた。
その女の子は不定期に現れるようになった。いつも、僕が1人で留守番をしている時に現れる。僕に話しかけるでもなく、僕が話しかけても答えない。だが、僕が部屋を出ようとすると、不気味な金色の目で僕を威嚇する。その金色の瞳を見たら、何故か僕は逆らえなくなるのだ。
だが、いつの間にか女の子を見ることは無くなった。遅くとも、中学生になってからは見ていなかった。そして、僕は学校を卒業して就職、独身寮に入った。寮と言っても1ルームマンション。快適な一人暮らしだ。だが、変なことが起きる。
まず、雪が廊下にまで積もっている時に“ピンポーン、ピンポーン”と鳴る。ドアを開けても誰もいない。雪の廊下に足跡も無い。
部屋でTVを見ていたら、襟や袖を引っ張られる。襟を引っ張られて玄関まで引っ張られたこともある。意外と腕力があるようだ。
そこで、僕は気付いた。“これは子供のイタズラや!”と。
そして、僕は玄関にクレーンゲームでゲットしたぬいぐるみを集め、
「遊ぶならここで遊べ!」
見えない相手に話しかけた。
それからしばらく、怪奇現象は収まった。或る日、玄関の靴がキレイに揃えられていたこともあった。僕は、不快だったのに次第に気分が良くなった。
或る夜、残業続きで疲れて帰ると、玄関にあの赤い着物の女の子がいて、ぬいぐるみと遊んでいた。女の子はまた金色の瞳で僕を見上げた。
「久しぶりやな、元気にしてたか?」
女の子の瞳が柔らかい黒に変わった。女の子は微笑んだ。なんだ、実家からついてきたのか。どこまでついてくるのか? わからないが、害も無いし、僕は気にしなかった。僕はその後も仕事で何度か引っ越したが、どこまでついてきてくれていたか? それはわからない。
たまに、恋人が部屋に来た時に、
「今、何かが横切った気がする!」
などと騒いだが、
「ああ、座敷わらしやねん。害は無いから大丈夫やで」
と答えていた。
あの、絶対に逆らえなくなる金色の瞳を見ることも無くなった。あの、相手を絶対服従させる金色の目はなんだったのだろう? それだけが今も謎だ(もしかしたら他にも謎があるかもしれないが)。一度、目が覚めると座敷わらしの顔、しかも金色の瞳が目の前にあった。いつの間にかベッドに潜り込んでいたらしい。あれだけはビビった。すぐに黒い瞳に戻ってくれて良かったが。
ただ、座敷わらしのいる家は栄えると言われるが、僕の家も、僕の実家も栄えなかった。
★ほとんどノンフィクションですが、ホラーをリクエストされましたので、ジャンルをホラーに設定しました。
マンションの座敷わらし! 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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