編集中

 フィルムは別に編集しないでもいくらでも欲しいカスどもがいるんだが、事務所の方針でちゃんと編集しエンターテインメントとしてブラッシュアップしている。それと見えてはいけないものをカットしている。

 発売日が近いと作業も急ぎでやらなければいけないので怪物という名前の付いた飲み物やコーヒーの消費量が増える。

 俺がこういう作業をしている間、兄貴は上の方々に顔を出したりして次の企画について根回しをしている。俺たちの部門だけでは被写体や道具、撮影場所の調達は難しく、他の部門との連携も必須なのだ。

 俺もいつかは兄貴と呼ばれるような立場に就いて自分のフィルムを撮りたいものだ。

 一山いくらの殺人鬼アマチュアだった俺が袋小路に陥っていた頃、俺は兄貴にスカウトされた。良心が微塵も無さそうで撮影に対して熱意があるが採用理由だった。

 俺は自他共に認めるクズだ。


「ただいま」


 玄関が開く音が聞こえ、遅れて兄貴の声が響く。

 兄貴は五十代くらいで、白髪の混ざってきた髪を無造作に伸ばしている。

 同じく白くなってきた髭を長く伸ばしている関係で仙人と呼ばれることも多い。


「お疲れ様です」


 急な呼び出しや夜中まで作業が続くことが多い関係で、俺と兄貴はちょっと良いマンションの一室で同居している。


「まだ作業していたのか」

「うっす。発売日近いので」

「お前はこんな仕事に真面目だな」


 兄貴はおそらくこの仕事が好きじゃないようだった。ガキを苦しめて殺すことに躊躇いがあるのか自分の手を汚すときは一撃で殺しているし。


「仕事っすから」


 対して俺にとっては天職だった。この世界の破綻は近い(社長が言うには)が、それでも日の当たる場所に俺の居場所はない。日陰の世界で、日向に居ることのできる存在を壊して、その上金が貰えるんだからそりゃ一生懸命に仕事をする。

 



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