TEAR

筆開紙閉

クランクイン

 俺の目の前には血に塗れた薄着の少女がいる。彼女は返り血に濡れている。その少女の目の前にはもう一体少女の死体がある。包丁が滅茶苦茶に突き刺されている。

 少女が何故、血に染まっているのか俺は知っている。スナッフビデオの撮影のために殺し合わせたからだ。

 俺が覗いているカメラがズームアウトしていく。周囲の風景も映す。映っているのはいつも撮影に使っている。地下室のコンクリート打ちっ放しの風景だ。

「おめでとう。君は自由だ」

 監督役である兄貴が、少女に噓をつく。地下室から地上への扉の鍵を兄貴はわざと開いた。兄貴は赤鬼の仮面を被っている。

 少女が扉を開けようと俺に背を向ける。俺は少女に近づく。

 兄貴は少女の頭部を金槌で殴りつける。単純だが、こういう一度上げて落とすシチュエーションを視聴者は望んでいる。

 床に倒れた少女の顔を映すために髪を掴み、頭を持ち上げる。

 突然の一撃であっけなく命を失った少女の間の抜けた顔を撮る。撮った。

 これにて撮影終了だ。


「お疲れ様です。兄貴。じゃああとは俺が片付けておきやす」


十歳くらいの少女二体の死体。一体四十キロくらいと見てもここから地上に運び出すのは重労働だ。それもあってビデオ撮影はむしろ撮影前より後片付けの方がキツイ。


「二体運ぶのくらい手伝うよ」


 手伝ってくれるなんて優しい。兄貴はこんな仕事をやっている人間にしては、だいぶ人間性に優れていた。

 俺たちは残酷なことが大好きでそのためなら大金を払っても良いという連中向けのフィルムを撮っている。

 毎回毎回被写体は必ず始末することにしているので中々被写体の演技のレベルは上昇しない。そして俺たちの撮影レベルは素人に毛が生えた程度だ。

 だが、それでもガキが殺し合わされたり殺されたりするフィルムが見たい連中は気にしない。



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