第5話 授業中の阿修羅さん(莉緒視点)
お昼休みが終わって、最初の授業。私は、内容なんて全く頭に入っていなかった。
それは、私の中にいる雷人と風華の二人と開催した「脳内緊急会議」のせいだった。
授業が始まった途端、最初に口を開いたのは雷人。
【さて。では、これより〝青島悠人を手籠めにするための会議〟を開く】
「ちょっと待って!? 何その会議名称。心外だよ、私そんなふうには思ってませんけど!」
『う〜ん、でもそんなに外れてないんじゃない? だって莉緒、悠人のこと好きでしょ?』
「…………好きだけど」
『どのくらい好き?』
「……死ぬほど好き。なんならもう無理やりでもいいから結ばれたい」
『ほら。
「違っ……! だって、一〇年前にあのことがあってから、ずっと自分を出さないようにして、他人から絡まれないように気をつけて一人でやってきて。あんなふうに優しくされたことなかったんだもん……」
私は一〇年前、国が管理する特殊能力者の研究所に入れられていた。
私自身は能力を使えないけど、雷人は電気を、風華は風を自在に操る「
悠人を不良から助けたのも、悠人と二人でお弁当を食べるために強引に空を晴れさせたのもこの二人の力なのだ。
六歳の頃──。
その研究所から脱出するとき、私は大好きだった男の子を誘って自分で考えた脱出計画を実行に移した。そのときの私は何故か妙な自信を持っていて、絶対に大丈夫だからと言って彼を強引に連れ出したのだけど。
でも、その男の子は途中で研究所の職員に──……
『そうだね……ごめん。辛かったもんね』
「うん……」
『でもさ、悠人のことを死ぬほど大好きなのは現実じゃん?』
「……まあ、そうだけど」
【だからよ、俺が最初からあいつに交尾の話を通しておいてよかったろ? どうせそうするつもりなんだからよ】
「順番がめちゃくちゃだっての。ってか通ってないよ! もうあんたには絶っっ対に大事なこと何も話さないからっ」
【なんでだよ!? 感謝されることはあっても信用を失うなんてよ、納得いかねえぞ】
「悠人のこと好きだって正直に打ち明けただけなのに本人にいきなり〝交尾したい〟だなんて告げちゃうやつのこと信用できるか」
『ふふ。でもね、あの雷人のセリフは、悠人の心のふっかぁいところにグッサリ刺さってると思うよ?』
「え!?」
【そうだよ。どうせ男なんてヤルことしか考えてねえんだ。乳の一つもポロリと見せて好きだって言やぁ一撃だっての。俺がさっさと落としてきてやろうか?】
「ダメっ!! どうせいきなり〝ヤらせてやる〟とか言うんでしょ!? めちゃくちゃになっちゃうよ。絶対にダメ」
『ワンチャンいけると思うけどね』
「風華まで……!! でも、あなたが言うならそうなのかな……」
【俺ってそんなに信用ねえの?】
『とりあえず、手篭めにする方法だけど』
「その言い方どうにかなりませんか?」
『事実に反してないなら問題なし』
「犯罪なんすけど……」
【とりあえず大事なのはあいつが莉緒のことをどう思ってるかだな】
「そうなの! 二人ともどう思う?」
『雷人のせいでビビっちゃってるからいまいち確証はないけどね……。風華がエロティックモード発動した具合では、落とせそうな空気ありマス』
「そういうことじゃなくてね」
『ってか、風華が落としてきてあげようか? たぶんいけるよあれ。童貞だろうから』
「雷人とは違うと思った私がバカだったわ。私の彼氏になる人だよ、マジでNTRすんのやめて」
『いやカラダ一緒でしょ。別人格NTR? でもさ、そうすると問題は、莉緒がまともに悠人と話できないってことじゃない? そこから改善していかないと』
「そうなんだよね……自分を出していったら、また昔みたいなことになっちゃいそうで怖いよ……。
それに、もしかしたら、あの研究所の奴らが探しにくるかもしれないんだ。名前を変えて別人にしてもらったから、今は見つかってないと思うけど……見つけられたら、あいつらは間違いなく私のことを消しにくる。その時、悠人を巻き込んじゃうよね……。私、やっぱり」
『諦められるの?』
「……だって。もう二度と、あんなこと嫌」
【莉緒。お前のことも、悠人のことも、何があっても俺たちが護ってやる。俺と風華、〝風神雷神〟が揃ってりゃ無敵だ】
『そうだよ。風華たちに敵うやつなんていないね。あんな奴らに怯えて生きるなんて、莉緒にそんなこと絶対にさせない。襲ってきたら、研究所を脱出した時みたいにギッタギタの細切れに刻んでやるから』
【そうだぜ、俺たちに任せとけ。俺の雷撃で溶けるまで焼いてやるからよ。一個師団クラスが来ても壊滅させてやる】
「私……悠人のこと、好きになったままで、いいのかな」
【『ったり前だ!』】
「うん……わかった、ありがとっ」
『それで、手篭めにする方法だけど』
「だからその言い方なんとかなんない?」
『だってあんた、マジでそうしたいと思ってるでしょ? この表現は莉緒の願望をそのまま表しているわけで、だからこれ以上適切な言葉はないと思われる。風華たちにまで格好つける必要はないよ。正直になりな』
「…………手篭めにしたいです。マジでぐっちゃぐちゃに愛し合いたいです」
【よろしい。正直になるのはいいことだ。まっすぐな気持ちは相手にも伝わるってもんだ。だから最初から言ってんだよ、〝交尾しましょう〟って言えって】
「あんたがその言い方してくれる度に私、正気を取り戻せるわ。ドン引きされちゃうよっ」
『あながち間違いではない』
「風華さん!?」
『まあ聞けって。莉緒が悠人と心で繋がりたいのはよくわかる。でもね、カラダの魅力を使うのも、心を伝える一つの手段なんだよ? 大好きだって気持ちを、カラダで伝えるんだ。莉緒なりのやり方でいいんだよ。思うようにやってみ?』
【ほれみろ。俺は間違ってねえだろうが】
「いや全然違ったけど。……私なりに、か……」
と、脳内会話に耽る私に、現実世界の誰かが話しかけた。
どうやら先生だ。
やば。全く授業聞いてなかった。
「天堂。次のところ、読んでみろ」
「…………」
すると、隣の席にいた悠人がスッと教科書を指さして教えてくれた。
私は無表情を装い、何事もなかったかのように教科書を読む。
悠人のおかげで、危機を脱することができた。私が悠人へ目をやると、悠人は優しく微笑んでくれた。
彼のこんな顔を見るだけで、意思に反して顔が沸騰したように熱くなってしまう。
あ────…………。もう、どうしようもなくマジで好き。
カラダを使って手篭めか。確かに一理あるかも。
よぉし……!
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