第2話 ププ探し
確か白華草が生えているのは、この辺りだったと思うんだが……。
森の中をウロウロしながら白華草が大量に群生している場所を探す。
白華草は炎症した患部の痛みを和らげる効果があり、その葉をすり鉢ですり潰し患部に発布して使う。
優しいププはポム爺さんの腰の痛みをとってあげるために取りに来たんだよな。
俺も前に頼まれて摘みに来た事があるから、この辺りだと思うんだがなぁ。
「おっ! あったあった」
白華草の葉は白いから、群生地だと一面が真っ白に見え、緑が多い森の中では群を抜いて目立つ。
だが……見渡せど、ププの姿はどこにもない。
ここだと思ったのにな……ん!?
「これはププの靴!?」
片方だけ落ちている。
この状況はヤバいと俺の脳が警告する。
嫌なことを考えて、心臓の鼓動が早くなり冷や汗がとまらない。
ププの靴を握りしめ固まっていた所。
「ん?」
今のは悲鳴か?
一瞬だが声が聞こえた。
耳を澄ませると、再び声が聞こえる。
「……すけて!!」
——これはププの声だ。
「たすけてぇ!!」
ププが助けを求めている。
どこだ!? こっちか!?
声が聞こえた方角に向かって走っていくと……!!
「ププ!!」
木の上に登ったププをダークベアが襲っていた。
なんでこんな所にダークベアがいるんだ? 確かBランクレベルの魔獣じゃ……。
この辺りにいるなんて、どう考えてもおかしい。
——いや、今はそんなことを考えるよりもププだ!
ププは丁度ダークベアが届かない所に登っているが、下でダークベアが木に体当たりをして揺らし、いつ下に落下してもおかしくない状況。
どうやって助ける?
そもそも何の力もない俺がどうやって……。
俺がウダウダ考えている間にもププが木から落ちそうだ。
「あっ! ププ」
ププが木から落ちそうになるのがスローモーションのように見えた瞬間。
体が勝手に動く。
「おらおら、クマ! こっちだ!」
大きな声で叫びながら、ダークベアの前に走っていく。すると俺に気付いたダークベアが木を離した。
ププは揺れがおさまり、かろうじて落下せずにすんだ。
ダークベアの意識を、ププから俺に集中させることに成功したようだ。
「ゼロにいちゃん! 怖いよう」
「ププ大丈夫だ! こいつは俺っ、がはっ!?」
ダークベアが突進し、俺に体当たりしてきた。
三十メートルは離れていたと思うのに、もうこんな近くに!?
デカイのに動きが早いな、さすがBランク魔獣。
「ゼロにいちゃん!!」
体当たりされ吹き飛んだ俺を、ププが泣きながら心配している。……ププが無事で良かった。
こんな攻撃をププが受けてたらと思うとゾッとする。
「ププ、大丈夫だ。今のうちに木から降りて村へ逃げろ」
「でも……」
「俺は大丈夫だ! こいつが俺をターゲットにしてるうちに逃げろ! 早く!」
「だっ、だけど、そしたらゼロにいちゃんはどうなるの?」
「俺のことはいい! どうにかするから」
吹き飛んだ俺を追いかけてくるダークベアを、ププから離れた場所へと走りながら誘導するも。
「ぐはっ!」
すぐさま追いつかれ、再び体当たりされた俺の体が宙を舞う。
人よりかなり体が頑丈な方だなとは思っていたが、まさかダークベアに二度も体当たりされて平気なんて……記憶を失う前の俺って一体。
かなり……めちゃんこ痛いけど、どうにか耐えれる。
「ププ! お願いだから早く逃げろ」
「ううっ、でも……」
「俺のことは気にするな! こんな攻撃効かねーし」
「……分かった。助けを呼んでくるから! ゼロにいちゃん絶対に死なないで」
「当たり前だ! 俺が死ぬわけねーだろ」
俺がそう言うと、泣きべそをかいていたププの表情が変わる。
涙を拭い真剣な目で俺を見て。
「絶対だよ! 約束だからね!」
「俺が嘘をついたことあったか?」
「ない」
俺の返事を聞くと。
ププは急いで木から降り、村の方へと走って行った。
……良かった。これでププは安心だ。
あとは……俺だな。
戦った経験もなけりゃ、武器もない。
そんな状態でどーするよ?
もちろん逃げるしかねーだろ! それ一択。
だがこいつからどうやって逃げきる? 俺より動きが早いダークベアから逃げ切ることなんてそもそも出来るか?
一人であれこれ葛藤しながら必死に逃げていると、三度目の体当たりをくらう。
三度目となるとさすがにキツい。
体のあちこちが痛くて動きが鈍くなる。このままだと助けが来る前にやられちまう。
だけど、それだけは避けなければ! ププと約束したからな。
絶対に死ぬわけにはいかねーんだ。
「がはっ!」
四度目の体当たりで、俺の動きは止まった。そこにダークベアが襲いかかってくる。
俺は脚を奮い立たせ、渾身の力でダークベアの鼻っ柱を殴った。
ダークベアは不意に鼻先を殴られたもんだから『ギャッ』と悲鳴をあげて尻餅をついた。
「なんだこの威力……」
三メートル以上あるダークベアに尻餅をつかせる事ができたぞ。
まぁダークベアからすれば、さっきのパンチなんて小突かれた程度だろうが。
俺にとっては驚きだ。
頑丈なダークベアの顔を殴るので、手の指が折れる覚悟だったのだが、俺の手は全く損傷してない。かすり傷程度。
なんとなくだが、俺の体は村の奴らと比べて頑丈な方とは思っていたが、まさかここまでとは。
「がっ!?」
感動していたら四度目の体当たり。
さっき殴ったのが気に入らなかったんだろう、今までで一番の衝撃だ。
「はぁっ、はぁっ」
身体中が痛い。もう動けない俺を、ダークベアが前足で転がして遊んでいる。
と言っても、前足で叩かれて転がされているので、叩かれる度にものすごい衝撃が走る。
俺はこんな事で死ぬのか……。
そんな事が脳裏に過ぎる。
ププが悲しむよな。
だが……助けが来るまで、俺の体はもたないだろう。
さすがに分かる。
「がはっ!」
今までの中で一番強い衝撃で、だいぶ遠くに飛ばされると。
——なんだ? 目が眩しい。
頭の近くで光輝く何かが視界の片隅に入る。
その輝く物はすぐ側にあるので手に取ってみると。
「これは……?」
ペンダントか? しかも中央にかなり高そうな石が付いている。
「うおっ!?」
突然、輝いていたペンダントの光が俺の体の中に吸収されていく。
「なっ? 何が起こってるんだ!?」
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