第13話 女同士仲良く、ね
「お久しぶりです、クレイユ様」
「やぁ、ルビリア。まだ二週間しか経ってないのに、久しぶりに感じるね」
クレイユの隣に座ったお淑やかな女性を見て、ローリエは思わず息を呑んだ。
(わ、わぁ……。綺麗な子……)
中央教会の大聖女と聞いて年輩の女性を想像していたが、現れた彼女はローリエと同じくらいの歳か、大人びて見えるだけでもっと若いのかもしれない。
艶めいたピンクゴールドの髪に、陶器のように白い肌。純白の装束に包まれた彼女は神々しく、輝いて見えた。
(クレイユ様のお知り合いの方は皆、キラキラしているのね)
彼女がクレイユと並ぶと輝きが増して、二人が会話する姿を直視できない。美男美女でお似合いだ。
ローリエは二人の邪魔をしないよう気配を断って、ちまちまホットミルクを飲む。
「今日はどうしたの?」
「中央教会としても、魔王消滅後の魔物たちの動きを確認したいと思いまして。仕事の一環でここに」
聖女様は、さらさらの長い髪をすっと耳にかけながら言う。
「そうか。ルビリアなら心配ないと思うけど、森に入るならマリアンヌに同行してもらおうか」
クレイユは、聖女様とともにテーブルにつき、じっと話を伺っていたマリアンヌに視線を送る。
ところが、聖女様はしばらく黙り込んだ後、にこりと笑って答えた。
「元勇者パーティーの一員ですもの。一人で大丈夫ですわ」
ローリエはその言葉を聞いて驚くと同時に、号外新聞に美しく、可憐に描かれていた光魔法使いこそが、彼女であることに気づく。
(すごい。戦いとは縁がなさそうな、清らかで可愛らしい女性なのに、一人で魔物と戦えるなんて……。それに、まだ若いのに立派にお仕事もされている)
ローリエが知っている同じ年頃の女性は、姉のセリナくらいだ。
彼女には申し訳ないが、あまり尊敬できるところがなかったので、聖女様を前に大きな衝撃を受けた。
(私も聖女様のように、自立した素敵な女性になりたい)
ローリエが憧れの眼差しを向けていると、それに気づいたクレイユは、聖女様にローリエを紹介する。
「紹介するよ。僕の妻、ローリエだ」
突然話を振られたローリエは目を丸くする。
聖女様も同じように、驚いた様子でローリエを見た。
「クレイユ様の……奥様……? ご結婚されたということでしょうか」
「ああ、つい先日ね」
どうすれば良いのか、マナーが分からずおろおろするローリエの横で、何故かマリアンヌが頭を抱えている。
「クレイユ様……。これは流石に、ご結婚を考え直した方がよろしいのでは?」
そんなことを言われてしまうのではないかと、ぎゅっと手を握りしめて身構えるローリエだったが、聖女様は慈悲深く微笑んだ。
「ついに初恋の方が見つかったんですね。おめでとうございます。神の名のもと、祝福を」
「ありがとう。大聖女である君から、直々に祝福をもらえて嬉しいよ」
一同の集うテーブルに穏やかな空気が流れるが、マリアンヌだけは未だ浮かない顔をしている。
聖女様――もといルビリアは、真っ直ぐローリエの顔を見つめ、丁寧に挨拶をしてくれた。
「申し遅れました。私、中央教会にて大聖女を務めております、ルビリア=マルトゥールです」
「はじめまして。ローリエと申します。大聖女様にお会いできて光栄です」
ローリエは椅子をガタンと鳴らして立ち上がり、恐縮しきって何度も頭を下げる。
「そんなに畏まらずに、どうぞ、ルビリアと呼んでください」
「はい、ルビリア様」
「ただのルビリアで構いませんのに。私も親しみを込めてローリエとお呼びしますわ」
「ですが……」
「僕のこともずっと様づけだ。クレイユと呼んでほしいのに」
ルビリアにつられて、隣のクレイユまで不満を口にする。
二人はこう言うが、位の高い聖職者と、この国の王子を、呼び捨てにする度胸はローリエにはない。
クレイユは諦めたように苦笑して、それからルビリアに語りかけた。
「ルビリアはローリエと歳が近いと思うから、どうか仲良くしてあげて」
「私も同じ年頃の友人がいなかったので、素敵な出会いがあって嬉しく思います」
ローリエは「こちらこそ、光栄です!」と言って、再び頭を下げる。
そんなやりとりを横目に、マリアンヌは「はぁ」と溜め息をつきながら、テーブルに置かれた山盛りのパンを一つ、また一つとって食べ始めた。
ローリエは、マリアンヌの物憂げな態度が気になり、後で聞きに行こうと思ったが、別のことに気を取られて忘れてしまうことになる。
朝食を終えて部屋に戻ったところに、ルビリアが訪ねてきたのだ。
ꕥ‥ꕥ‥ꕥ
「ルビリア様?」
クレイユは王城へ。ルビリアは森へ。それぞれ既に向かったものだと思っていたが、ノックされた扉の先にはルビリアが立っていた。
「貴女と仲良くなりたくて。良ければ散策がてら、一緒に森へ行ってみませんか?」
「……お誘いありがとうございます。ですが、森には近づくなと言われているんです」
大きな目、そしてほんのり色づいた頰と唇が愛らしい。ルビリアはにこりと微笑んだ。
「私がいれば大丈夫かと。攻撃魔法はそれほどでも、防御魔法と回復魔法ならこの国一の使い手です」
それでもローリエは躊躇ったが、ルビリアが伏せ目がちに「今まで仕事ばかりで、友人と遊んだことがなくて……」と言うので、ついに断りきれなくなった。
「足手まといになるかもしれませんが、お言葉に甘えてお願いします」
「ありがとう、ローリエ!」
ローリエはルビリアの嬉しそうな笑顔を見て、ほっこりした。
一人で森へ近づくなと言われていたが、ルビリアと一緒ならクレイユも怒らないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます