第2話 キャンバスを白が染める

 私は折りたたんでいた両手サイズほどの小型ドローンを次面に広げ起動する。

 そうしている間にも、敵の激しい攻撃が私の逃げ道をジリジリと狭めていく。

 戦闘では少し心許無いが、今は致し方ない。無いよりはマシだ。

 起動させたドローンと共に私はバレないよう移動を開始した。


❆❆❆


 敵の攻撃の手が止み、辺りは煙と静寂に包まれる。

 周囲の積み重なった瓦礫は跡形もなくなり、荒廃した大地があらわになっていた。

 そして、私はその後起きる出来事に目を疑うこととなる────


「な、なんだよ、あれ……」


 様子を伺っていた私はあまりの光景に驚愕した。

 それは何本もの触手が白煙の中からゆっくりと地面を這いながら現れ、さきほどまで私がいた場所へ進んでいたのだ。


 触手は白い。とにかく白い。私はキラキラと輝く雪のように透明感につい見惚れてしまう。

 触手の表面は凹凸がなく、滑らかで白色に青みが若干まじり、冷たそうな印象を受ける。

 

 ──だがそれだけではなかった。


「おいおい……冗談じゃねぇ。流石に……デカすぎるだろうが!」

 自分の体より一回り大きいサイズだった。捕まったら一巻の終わりだな。

「ひとまずここは、穏便に事をやり過ごすか──」

 私は音を立てないようそっと腰を下ろし、地面に座り込む。

 にしてもやけに寒いな。私が温度計の針を確認するとその数値は8℃を示していた。

 そのうえ、呼吸し吐く息は非常に白い。

「道理で寒いわけだ……。でも変だな、さっきまではそんなに寒く──」

 そこまで口にした所で、一度思考することをやめた。体温低下を防ぐことを最優先にし、私は己の体を擦り温める。


「うん……?」


 鼻先に冷たい感覚を覚えた私は思わず空を見上げる。

「……ゆき?」

 建物の天井が崩れてできた、ポッカリと空いた穴からは、真っ白な氷の結晶が重力に従い、落ちていた。

「…………生きて帰る」

 ぽつりと私はそう呟き、空一面に広がる雲から発生する銀花をじっと見つめるのだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

∞フォーエバーアリス∞ 小鳥遊 マロ @mophuline

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ