∞フォーエバーアリス∞

小鳥遊 マロ

第1話 撤退

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 走れ、走れっ! 止まれば──殺されるっ!

 全身が土や砂ぼこりで汚れることはお構いなし。

 私は銃を両手にかかえ、全速力で後方から迫りくるから逃げていた。

「お前らっ、あの遮蔽物へ隠れろ!」

 私は部下に急いで指示を飛ばし、飛び込んだ。

 その数秒後、数え切れないほどの光弾こうだんが私たちに襲い掛かった。

「──クソッ……何なんだよ、アイツは……ハァハァ。バケモンかよ……」

 私は積み重なった瓦礫を壁にし、空になったマガジンを新しいものへ素早く交換する。

「何人やられた?」

 隣で私と同じようにマガジン装填をする部下へ聞く。

「チース、コープ、それにアビスも……」

「負傷者は?」

「重軽傷含め──クッ! 3人です!」

 マズイな、この瓦礫の壁もいつまでもつか……。

「チッ、お前ら! 私の合図で後退しろ!」

「隊長はっ?!」

「私はここで残りアイツを食い止める!」

「そんな無茶ですよ! 隊長一人では──あんなバケモノに太刀打ちできませんっ!」

 弾幕の数は先ほどよりも数を増していた。

「このままここに居ても、みな死んじまう。なら誰かが残り、時間を稼ぐしか生きる方法はない!」

「ですがっ!」

「状況が状況だ。戦争で犠牲は付き物、だが私という少数の犠牲でお前らが生き延びれるのなら──私は喜んでここに残ろう。ニヒッ」

 私は部下に大きく笑い、力強くサムズアップをして見せた。

「隊長──んっ、生きて……帰って来て下さいね」

 部下は頬から一筋の涙を流し、この世の容赦ない理不尽に強く歯を噛み締めていた。

 あれは自分の思いを押し殺し覚悟を決めたときの顔だ。

「あぁっ」

 部下に私は短くそう返した。

「──ご武運を。いくぞ」

 部下は残りのメンバーを連れてこの場を離脱した。

「──さーてと」

 私は胸ポケットからライターとあれを取り出す。

 少女携帯用一服アイテム──通称“ココア”

 それにライターで点火し──


 ピチュンッ!


 光弾がライターに当たり粉々に砕け散った。

「あっのやろー、火くらいつけさせ──」

 そうだとここで私はある事をひらめく。

 私はココアの先っちょだけをそっと出した。


 ピチュンッ!


「よっし」

 光弾の熱で点火したのを確認。私は発生した煙を一気に吸い込んだ。

「スゥーーハァーーっ。ふっ、やっぱりココアが落ち着く。──さぁ、お遊戯の時間だ!」

 ココアを口にくわえたまま覚悟を決めた私は、生きて帰ると心に誓った。

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